第四章、その1

 第四章、軌道エレベーターアマテラス


 臨海学校を終えた数日後、土曜日になると夏帆は香奈枝に教えてもらったメモを頼りに汐電とバスを乗り継いで行く。

 これからアルバイトの面接で、銃砲店兼シューティングレンジの江藤銃砲だ。

 扶桑皇国の銃規制は内地と敷島では雲泥の差がある。

 内地の方は前世の日本と変わらずだが、敷島に関してはかなり緩くて登録と許可を貰えばその日のうちに拳銃や散弾銃にライフルが購入できるし、マシンガンのような連射機能を持つフルオート火器や銃声を抑えるサプレッサー、短い銃身のライフルや散弾銃なら特別な許可と審査、税金を払えば購入可能だ。

 バスを降りて歩くとすぐにシューティングレンジ兼ガンショップである江藤銃砲に辿り着き、恐る恐るお店の扉を開けるとドアベルが鳴り、店内に私服の上にエプロン姿の喜代彦がいた。

「いらっしゃいませ」

「おはようございます……アルバイトの面接に来ました」

「おはよう草薙さん、ちょっと店長呼んでくるから待ってて」

 喜代彦はすぐにレジの奥に行って店長を呼びに行く。

 待ってる間に夏帆は店内を見回す、棚には各社製の様々な口径の弾薬、猟銃や狙撃銃に欠かせないスコープ、銃に取り付けるフラッシュライト等のパーツが綺麗に並べられていた。 

 奥に行くと厳重に施錠されたガラスケースの中に、拳銃や軍隊で使われる突撃銃をマシンガンのように連射できるフルオート機能をカットしたセミオートオンリーモデルが綺麗に並べられてる。

 夏帆はここが前世とは違う異世界だと改めて思い知らされ、息を呑むと短い天然パーマに毒蛇ような三白眼の店長がやってきた。

「おはようございます、君が草薙さんだね? 優や山森君から聞いたよ。早速面接しようか」

「はい! よろしくお願いします!」

 夏帆は深々と一礼する、ここに来たのはアルバイトの面接を受けるためだ。

 目的は内地にいる美由や妙子に会いに行くための旅費を稼ぐためで、丁度香奈枝を通じて喜代彦や優がバイトしてる銃砲店でアルバイト募集中だということを知り、申し込んだのだ。


 面接を受けると夏帆はレジの担当になった。すぐに夏帆はエプロンを渡され、まずは仕事場の見学となって喜代彦がまず店の倉庫に案内する。

「ここが店の倉庫、同じ銃でもパテントが切れて色んなメーカーが作っていて、メーカーが同じでも作動方式や表面の材質や仕上げ、口径、サイズ、銃身バレルの長さに銃床ストックの違い。それに同じ弾薬でも各社で供給されてるから弾頭重量、材質や形状も様々でわからないと思うけど少しずつ覚えていけばいいから」

 喜代彦の言う通りAR15の札が付いた棚を見ると、同じように見えて銃身の長さや銃床の形状等細かいところが仕様が異なり、刻印を見ると確かにメーカーも異なるし安全装置セーフティを見ると《SAFE》と《FIRE》だけのが多くあるが紛れ込むように《SAFE》《SEMI》《AUTO》の三つある物もあって思わず夏帆は興味の眼差しになる。

「これはセレクティブファイアモデルだ、特別な許可が必要なフルオート――マシンガンの連射機能が付いてるんだ。ここはシューティングレンジも兼ねてるからレンタルして撃てる。次はそのレンジに行くよ」

「あっ、はい」

「そういえばスコープの付いたライフルあるでしょ?」

「これだよね?」

 喜代彦に訊かれると夏帆は壁にかけられてあるスコープ付きボルトアクションライフルに目をやる。確かに猛獣を撃つ猟師さんや、映画とかで狙撃手スナイパーが使ってる遠くまで見えそうなスコープを載せた銃が色々あった。

「種類にもよるけどこれ――」

 喜代彦はスコープ付きライフルにそっと触れる。

「――八〇〇メートル先の人間を殺せるし――」

 次にテーブルの上に置いて二脚バイポッドを展開し、デカイスコープを載せた人の背丈はある巨大なライフルをポンポンと叩く。

「――この五〇口径の対物アンチマテリアルライフルなら二キロ先の人間を真っ二つのミンチにできるよ」

 怖っ! やっぱ銃って怖い!! ってことは手足や頭に当たれば跡形もなく吹き飛ぶだろう、夏帆は思わず訊いてみる。

「もし胴体に当たったら……」

「うん、内蔵ぶちまけて即死なら運がいい方で最悪悶え苦しみながら死ぬね」

 喜代彦の笑みが真っ黒く見えて滅茶苦茶怖い! 思わず背筋が凍りそうになって倉庫を抜け、お店の裏側にあるシューティングレンジに出る。常夏の太陽が眩しく照らすレンジは周囲を高く土盛りされている。

 喜代彦によれば流れ弾が外に出ないようにするためらしい。

 レンジの奥にAR15を持って装備を身に付けたシューターがいた。

 ガンメーカーのロゴキャップを被り、シューティンググラスやイヤーマフをかけ、腰には自動拳銃を差したホルスターやポーチを付けたデューティーベルトを巻き、私服の上に複数ポーチを付けて防弾チョッキを削ぎ落としたもの――プレートキャリアというらしい。

 そのシューターの傍らにもう一人、同じように装備を身に付けた人がいる。

「Are you ready? Stand by……」

 訛りのある英語でタイマーのような物を掲げたと思った瞬間に電子音が「ピーッ!」と鳴り響くと、シューターがAR15を素早く構えた。

「えっ?」

 夏帆が視線を向けた思った瞬間にはもう遅かった。

 AR15のフルオート射撃は猛獣が吼えるような銃声を撒き散らす、夏帆は耳を貫かれて脳内に直に響く銃声に耳を塞ぐ。

「きゃっ!!」

 凄い銃声! こんなの現世は勿論、前世でも聞かなかった!

 一発一発が簡単に人の命を奪う銃弾が放たれる、五秒足らずで撃ち尽くしたかと思うと素早く腰のホルスターに納めた自動拳銃に持ち替えて五発ほど撃つ。

 そして自動拳銃を無駄のない動きでホルスターに戻すとAR15のマガジンを素早くチェンジ、ボルトストップを押して後退し切ったボルトを前進させ、再度フルオートで撃ち尽くすとマガジンを外して各所をチェックするとAR15を降ろす。

 彼はイヤーマフを外して首にかけ、タイマーを持ったシューターと何かを話すと、夏帆に気付いて駆け寄ってきた。

「おはよう草薙さん、いらっしゃい」

 シューティンググラスを外すと爽やかな汗を流しながら鋭い眼差しが露になり、ロゴキャップを脱ぐと風に男の子にしては長い髪が靡いて夏帆は思わず頬を赤らめる。

「お、おはよう水無月君……今日からここでアルバイトすることになったの」

「そっか、一緒に頑張ろうね」

「本格的に働くのは月曜日の放課後からでレジの方なの」

「助かるよ、接客とか苦手だから……僕は裏の方でレンジの清掃やレンタル銃のメンテナンスの方が性に合うからね、明日が楽しみだ」

 優は微笑みながら明日を楽しみにしてるようだ。明日はみんなでアマテラスアースポートシティに遊びに行くのだが、喜代彦が申し訳なさそうに言う。

「ああそれなんだが優、草薙さん、明日来る奴が急用で来られなくなったんで俺が代わりに出ることにしたんだ」

「そうか残念……まぁ喜代彦君が代わりにやってくれるならその人も安心だよ」

 優の表情や口調は建前ではなく本音で言ってるように感じる、そういえば内地にいた時に美由や妙子には本音よりも建前で言うことの方が多かった。

 今度会ったら絶対に本音で接しようと決意しながら一日を江藤銃砲のバイト先の挨拶回りと仕事内容を色々教えてもらい、月曜の放課後からいよいよ本格的に美由と妙子に会いに行くための日々が始まる。


 待っててね美由ちゃん、妙ちゃん、必ず会いに行くから!


 ところが初日を終えて家に帰るため汐電に乗ってシートに座り、スマホを見ると凪沙からLINEが来ていて謝罪のスタンプとメッセージが送られてきた。

『ごめん! 欠員が出て明日、急遽漁船に乗らないといけないことになった!』

『わかったわ、気にしないで! オープンフェスティバル絶対にみんなで行こうね』

 夏帆は返信すると香奈枝も謝罪のスタンプとメッセージが送られてきた。

『こっちも今朝、従兄のお嫁さんの身内に不幸があったから行けない!』

『香奈枝ちゃんも気にしないで、山森君もアルバイトで来れなくなった人の代わりに出るからって』

 夏帆は返信すると香奈枝が送ってくる。

『あたしも聞いた、ミミナと優の三人になったけど楽しんできてね』

『うん、思い切り楽しんでくるわ』

 夏帆はメッセージを送ると凪沙が送ってくる。

『ミミナのことお願いね、あたしの方からも明日来れないって連絡しておくから』

『うん、任されたわ』

 夏帆は返信すると一息吐く、明日は三人でアースポートシティだが今のうちに人気のレストランや水族館、交通アクセスを再度確認しておこう。

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