第三章、その1

 第三章:カラフルに色づく


 親睦会から数日後、今日から三泊四日の臨海学校で制服姿の夏帆はミミナや凪沙とフェリーのデッキで潮風に黒髪を靡かせ、手摺に寄りかかって大海原を眺めていた。

 綺麗……こんな綺麗な海、前世や内地では見られなかったな……。

 朝から登校すると臨海学校行きの大型バスに乗り、敷島市の港で大型フェリーに乗って車内で先生から簡単な注意事項を聞いた後、バスを降りる。

 出港すると行き先は離島でマスドライバーがあり、観光地でもある菊水島きくすいじまに向かうのだ。

 あの日の翌日、優はいつものように何食わぬ顔で登校してきたが、どこか寂しげで満たされない様子だった。

 運動部からのしつこい勧誘から逃れるため、屋上庭園にて四人でお昼休みを過ごしていたけど、お父さんのことを話そうともしなかったし下手に詮索するのもよくないと思って夏帆やみんなの方から持ちかけることはなかった。

 ボーッと大海原を眺めて溜め息吐くと、凪沙が目の前で手を振りながら尋ねる。

「夏帆……ねぇ夏帆、ちょっと夏帆! 聞いてる?」

「えっ? あっ、ごめん! 何?」

 夏帆は現実に引き戻して謝ると、凪沙は盛大に溜め息吐く。

「あんたねぇ、最近上の空だよ。何かあったの?」

「夏帆ちゃん大丈夫? 何か悩みでもあるの?」

 ミミナも心配している様子で歩み寄り、夏帆は心配させてしまって申し訳ない気持ちで作り笑いする。

「うん、大丈夫」

 優の見せたあの寂しそうな眼差しが頭から離れず思わず顔に流れる血液が熱くなる。

 ああどうして気になるんだろう? あの愛くるしい笑顔と綺麗な瞳の奥にある陰り何というか、寂しさというか後ろめたさがあるような気がしてならない。

 凪沙はジーッと怪訝な眼差しで見つめると、ズバリ指摘する。

「夏帆……もしかして……恋の悩み?」

「恋!?」

 ミミナは上ずった声でどこか期待してるような反応をするが、夏帆は潮風に黒髪を靡かせながら首を横に振る。

「そうじゃ……ないの」

「ええっ!? 違うのぉ……」

 凪沙はどこかガッカリした様子だった、ミミナは凛とした眼差しに変わる。

「恋じゃなくても、何か悩んでることあるの?」

 ミミナの眼差しは真剣そのもので、瞳の奥に秘めた芯の強さを感じる。夏帆は不思議な安心感を注がれて優のことを話そうとした時だった。

「うん、あたしじゃなくて――」

「うぉえええええええぇぇぇぇっ!!」

 苦しそうに呻きながら嘔吐する声に遮られ、何事かと夏帆は聞こえた方向を向くと喜代彦が優に介抱されている、船酔いで吐いたようだった。

「喜代彦君大丈夫? 少しは楽になった?」

「うう……まだ苦しい……」

「酔い止めの薬飲んだのに……どうしてだろう?」

 優は困惑してると凪沙が歩み寄って訊いた。

「山森君船酔い?」

「うん、そうみたい……出港してまだ一時間なのに、学校で酔い止め飲んだはずなんだけど」

 優はオロオロしてると凪沙は「ふ~ん」と少し考えると怪訝な眼差しで訊いた。

「山森君、夕べちゃんと寝た?」

「えっ? 眠れなかったから……朝までみんなと……LINEしてた」

「馬鹿! そりゃあ船酔いするわよ!」

 凪沙が呆れながら叱責すると、ミミナは何かに気付いたらしく喜代彦に訊く。

「ねぇ山森君、何人のグループでLINEしてた?」

「えっと……八人」

 喜代彦が言うと、凪沙は呆れたように溜め息吐く。

「あのね……睡眠不足は船酔いの原因よ――(以下省略)」

 船酔いしてる喜代彦に構わずクドクド説教する凪沙。

 必然的に優と向き合う形になって夏帆は思わず緊張してしまい、優にどう話を切り出そうかと思ってるとミミナが見えてきた菊水島に向けて指を差す。

「水無月君、夏帆ちゃん菊水島が見えて来たわ。あれが菊水島国際宇宙基地のマスドライバーよ」

「あれが――」

 ぼやけて見える先には島の影と重なるように途切れたジェットコースターのようなレールが見えた。

「――マスドライバー」

 選択授業の翌日は菊水島国際宇宙基地を見学する予定だ、そういえば水無月君は選択授業何を選んだんだろう?

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