流星群、そしてあなたを見つめて。

「レウェリエ!」

 デニーロが手を振って、あたしの名を呼ぶ。あたしは急いでデニーロのもとへと向かった。

 今日は二人で一緒に流れ星を見る。初夏のエステラは、スエニョ流星群が観測できる。スエニョという星を放射点として出現する流星群は、宝石の様に綺麗だ。

 今あたしたちがいるのは、エヴァの丘。カップルや友人グループが皆ここに座って、流星群を待っていた。

 そろそろ夜になりそうだ。今日は仕事もお店も学校も皆夕方で切り上げて、流星群を見る日になっている。蒼き夜のこの日は、エステラ王宮が公式に「スエニョ流星群の日」と定めているくらいだ。

 因みにエステラでは王、王妃、夫君、王子、王女の誕生日も祝日になっている。それ以外の祝日は無いため、意外と休みは少ない。

 マウカの市場では、店こそやってないものの、店主が自主的に屋台を開いたりしていてとても賑わっていた。

 エヴァの貴族たちも外に出て、宙をじっと見つめている。

「あ!」

 誰かが叫んだ。見ると、宙を蒼い流星が横切っていく。天の川まで現れていて、とても幻想的な光景だ。エステラでは都会でも満天の星が見れるけど、今日のは満天どころか、宙を覆い尽くしてしまうくらいだ。

 蒼い星々。蒼き夜は、宿命が紡がれるともいわれている。蒼き夜……流星群の夜に生まれた子どもは、宿命を背負うらしい。実際あたしがそうだ。

 秋のリソ流星群の時にあたしは生まれた。あたしが生まれるちょっと前に亡くなった騎士の宿命「星々を護る」という宿命を紡がれた。

 宿命は、それを果たせた次の流星群の日にその人から離れ、またその日生まれた子に紡がれる。

 あたしは、果たした。だからもう、星々を護ることはない。

 星空を見つめて、少し悲しくなった。アネラにも、雷姫にも、ソフィアにも、エレナにも、この光景を見せてあげたかったなあ。

 アネラ……。アネラが海へと旅立った理由。あたしは判る。何故なら前日に聞いたからだ。ホクとここで交際をしたらほぼ確実に偏見の目を向けられるから……って。

 これを、あたしは重く受け止めなくてならない。もうデスグラシアはいないのだから、ムルシエラゴとは仲良くなってもいい筈。これは次期王となるマリアちゃんにも相談しよう……。アウロスの人とも仲良くなりたいし。

 長い長い旅で出逢ってきた仲間たちも今頃、流星群を眺めているのかなあ……。




「月華! 星が降っておるぞ!」

「はいはい、桜華。落ち着いて。でも確かに綺麗ね……」




「わあ……!! 山だからか凄い綺麗に見える!! ……お姉ちゃん帰ってこないかなあ……」




 そんな声が聞こえてきた気がした。 

 旅先で出逢った仲間たちにも、また逢いたい。だからあたしは、生きる。どこまでも、走り続ける。生かされたこの命を、大切にする。

 蒼く、綺麗なこの星を、いつまでも見続ける。

「……レウェリエ」

 隣からデニーロに話しかけられた。デニーロの瞳はきらきらと輝いている。愛しい人の瞳とは、こんなに美しいものだったんだ。

「何?」

「僕は……レウェリエといつまでも、何処までも一緒にいたい」

 あたしは、その言葉に動揺した。まさか向こうから来るだなんて思いもしなかったから。何この展開。映画みたい……。

「それって……」

 口を塞がれた。手の温もりが唇に伝わってきて、心臓がトクトクと高鳴り始めた。心臓は嘘をつかない。

「レウェリエ……!! いつまでも一緒に星を見続けたい……!! だから……」

 デニーロの口から出てきたのは、予想通りだけど予想通りじゃない言葉過ぎて……。

 唇の感触に、そっと目を閉じた。

 

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