再開。

 あたしとアネラは、神殿の中を駆け抜けた。

 雷姫が神殿に飛び込んでいったその瞬間に、二つの流れ星が交わるようにして空を飾っていた。二人も星の

 もとへと逝っただろう。

 あたしたちは、三人に生かされたのだ。だから、その恩を無駄にしてはならない。

 皇帝の間は、火の海。だけども、海のペガサスのアネラがいるから燃えない。

 真ん中で倒れているデスグラシア。腕にはぶつかったような痕がある。これが二人の突進した痕か……。二人は、どれだけ必死だったのだろう……。来世でも、結ばれますように……。

「レウェリエ」

 アネラが魔導書を取り出して、準備を始めた。今日は二人で一つの魔導書。深い友情、絆がなければできない魔法をする。

「アネラ」

 互いの名を呼び終わったら、準備完了。あたしたちは魔法陣をじっと見つめた。ここで呪文が一致していなかったら、魔法は永久にできないけれど、二人に深い友情、絆が存在すると神の双子が認めれば、同じ呪文を授けてくれる。

 あたしたちは手を重ねた。

「レーナ」

 目の前に現れるお姉様。ああ、懐かしい……。

「あなたとアネラの間には、確かに友情や絆……いや、それを上回るものを持っています」

 友情や絆を上回るもの……。

 思えば、アネラとあたしは主と従者という、遠くも無難な関係にいた。でもあたしは、アネラと心の通じ合った心友になりたい、って言ったんだっけ。今思うと、従者の身分で不毛だな、と思うけど、結果的に心は通じ合った。

 そこらへんの退屈な小説よりも素敵なストーリーを作って、歩んできたと思う。あたしたち。

「あなたとアネラの間には、愛情に近いものを感じます。きっと、互いのことを本気で大切にしていたのでしょう……」

 互いを本気で大切にしていた……。か。確かに、本当に大切にしていなければ、自ら一緒に戦いたいだなんて言わなかった。本当はあたしとアネラは、恋人でも心友でもない、何か特別な関係で結ばれていたのかもしれない。海のペガサスと、星々の従者。海は星を映し、星は海を見守る……。

 そうだ。アネラはいつも、あたしを輝かせてくれた。あたしは毎回一番か最後。一番目立つ、いわゆる「主人公」にしてくれた。あたしはただ、地味なダメ従者だったのに。あの時春風が吹いた時から、運命は動いていたのかもしれない。

 あたし……アネラを見守ること、できたかな? 多分、できてないよね。

「レーナ、あなたには未来があります。だから、未練があるなら充分にやりなさい。あなたは幸せになれます。絶対に。さあ、では呪文を授けます。『アミスター・アフェクト・エステラ・マール・エテルノ』。友情と愛情、海と星は永遠だということを表す呪文です……。さあ、ザルバドルのあなた。救いなさい。この世界を」

 あたしは……ザルバドル。この世界を救う救世主。そうだ、そうなんだ……!! だから、この世界を確実に救うことができる。

「アネラ!! 行くよ!!」

「ええ!!」

 精一杯の覚悟を込めたあたしたちは手を握り、魔導書を持った。お姉様に告げられた呪文は、心のパズルに当てはまるようにしてしっくりきた。

 海のペガサスと星々の従者の絆。デスグラシアに見せつけてやるわ!! 

 お互いに頷き、握り合った手を高く掲げた。

「アミスター・アフェクト・エステラ・マール・エテルノ!!」

 揃った。揃ったのだ……!!! あたしたちは、同じ呪文を授けられた。そう。本当の友情や絆……いや、それを上回る関係で結ばれている……!! 

 透き通るように綺麗な海流の上を、蒼い彗星が飛んでいる。……これが、見守るということ? 海流がしっかりと流れているか見守り、サポートする彗星。……できた。海を見守る星の役目を果たせた。

 デスグラシアは必死に耐えようとする。が、諦めたかの様にその腕を下した。

「自分の罪を、懺悔する……」

 月華の言葉を思い出した。

 過去の過ちを今更掘り返したって、しょうがないのだ。が、あたしたちにも非はある。今後は、ムルシエラゴとどう関わっていくのか。それがあたしに残された課題なのだろう。

「ごめんなさい……」

 あたしは、そっと呟く。

 そこに、デスグラシアはいなかった。その代わりになるかの様に、二つの魔法陣が現れる。

 そこから浮かび上がった人影。それはまさしく、そう、愛する人だった。

 アネラは、信じられない、とでも言うような顔をして膝を震わせていた。

「レウェリエ」

 懐かしい少年の声。ああ、この声を聞くだけで胸がときめく。嬉しくてたまらないよ‥……。

「救ってくれて、ありがとう。この魔法陣の先は、マウカだよ。帰ろう」

 故郷にやっと帰れる。その喜びには果てしないものがあった。あたしは一呼吸おいて、魔法陣に飛び込んだ。

 真っ蒼な光。星の色だ。

 アウロスに来てから、三人も仲間を失った。でも、その三人の死があったからこそ今、あたしはここにいるのだ。あたしが生きているのはエレナが庇ってくれたから。あたしが安心して帰れるのは雷姫とソフィアがデスグラシアを命を犠牲にしてまで倒してくれたから。

 雷姫、ソフィア、エレナ。これからのエステラは、あたしが護っていきます。だから、安心して来世へ旅立って。来世では絶対に幸せになってね。きっとまた、巡り逢える。

 星の色は、どうしてこんなにも美しいのだろう。この星を、あたしは毎晩、また見つめ続けるよ。


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