荒れ狂う海

 パライソ・デスペディータ・プエルタは、ラニ島にあるようだ。

 ラニ島の原住民が使っていた言葉は、エステラの様々な都市の名前にも用いられている。王家の人物の名前にも用いられているのだ。小さいラニ島だが、その存在はとても大きい。

 最短ルート、ヂャンジェゾンブーの最南から行っても、船では数週間かかってしまう。しかも、アウロスへ通じる魔法陣は恐怖で満ち溢れた場所でしか使えない。

 だから、海をわざと悪魔のように恐怖で満ち溢れた場所にして、アウロスへの魔法陣を有効にするということに。

 少し胸が痛むが、仕方がないのだ。

 今日は大荒れしている西洋の海。雷鳴が辺りに轟いて、波も荒い。そんな海岸に傘も差さずに佇んでいたのは……そう、エステラを救うために舞い降りた救世主、サルバドルたち。

「行くよ!!!」

 荒波のように張り上げられたアネラの声。それはサルバドルたちの心を揺さぶり、士気を高めるものだった。

「マエルストロン・ティラノ・マル・グリタル!! 大渦よ! 暴君なまでに荒れた海よ!! 叫ぶのだ!! 叫んでもっと荒れ狂え!!」

 アネラの言葉に答えるようにして荒れ行く海。その海は本当に叫んでいるようで、荒波は陸にまで到達する。

 雷姫にそっとアイコンタクトするアネラ。雷姫は「任せろ」と呟いて海岸の先端に。もう崩れ落ちそうな地面だが、雷姫は恐れることもなくそこに佇んだ。

风暴フンバオ爆炸バオチャー疯狂フンクアン!! 大嵐よ! 爆発せよ!! その狂気に身を任せ、大自然の力を爆発させるのだ!!」

 さっきよりも激しく、地面を削るような大雨。吹き飛びそうなほどの暴風。本当に爆発してしまったかのように止まらず、容赦ない。

 ソフィアは、雷姫とハイタッチして場所を交換する。海に自分の力を知らしめるかのようにニヤリと笑ったソフィアは、深呼吸した。

「カタストロフィ・プリャツィコ・ニュクテリス・エレンホス!! 破壊せよ! 略奪せよ!! 悪の蝙蝠よ!! この暗き世界を支配するのだ!!」

 浸食されていく地面。ソフィアも落ちそうになったが、雷姫が手を引いたので落ちずに済んだ。

 エレナは牙をギロッと輝かせながら前へ出る。そしてその鋭い爪を立てた。

「ウプイーリ・クルイーク・ノーゴチ・イャート!! 強しヴァンパイアよ! その鋭い爪と牙を立てよ!! 毒をこの荒れ狂う海に入れ、更に荒らすのだ!!」

 海水の色は黒から紫へと変化していく。そしてさらに荒れた海は、命を奪うものへと化していた。

 アネラ、雷姫、ソフィア、エレナの四人があたしにアイコンタクトを取る。あたしはしっかりと答えるようにして頷き、前に出た。

 海を荒らし、恐怖で満たすことで、アウロスへ通じる魔法陣が有効になる……!! 

「エスパシオ・オスクロ・ミエド!!  広大で偉大なる宇宙よ!! 一切の光を絶ち、この世界を恐怖と暗闇で満ち溢れたものにするのだ!!!」

 残酷な海に共鳴する呪文は、狂気に満ち溢れていた。海をわざと恐怖の場にするなんて、やってはいけないこと。でもこれは、あたしがやらなくてはならないのだった。あたしがやらなくても、他の誰かがやる。

 ただでさえ暗かった海が、本当に暗闇に包まれて、恐怖を感じた。

 ここで、魔法陣を描かなくてはならない。大規模魔法だから、魔導書は使えないのだ。

 姿は見えずとも、皆魔法陣を宙に描いていく。描いたところは桔梗色の光となって表れた。円担当はソフィア、六芒星担当は雷姫、悪魔の瞳孔担当はアネラ、円に沿って書いてある呪文担当はエレナ、そして中心の悪魔担当はあたし、レウェリエだ。

 悪魔以外、全て出来上がった魔法陣。途轍もなく巨大になった魔法陣。ここが、異世界へ通じる場所……!! 

 あたしは悪魔を描いていく。輪郭、体、羽、爪。触覚を描き上げると、悪魔の瞳部分から超空間になっているのが見えた。

「行こう!!!」

 あたしたちは一斉にそこへ飛び込む。

 眩い光に包まれたまま、あたしたちは超空間の中を飛ばされた。

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