第12話 戦闘前


「ご主人様、どこに行ってたんですか?」

「申し訳ない。ちょっと野暮用があってな。なんかあったか?」

「なんかあったか、どころじゃないですよ。あの後、色んな人に話しかけられて怖かったんですよ」

「まぁ、それだけお前らのジョブが凄いってことだ。これからもこんなことあるから、今のうちに初体験済ませたって事にして欲しい」

 2人は納得してないような顔だが、ここは主従関係を利用してこの場は流させてもらう。


「それで。2人はどんな依頼を受けたんだ?」

「アリスと相談して、俺たちはまだダンジョンに入れないから、森の奥に生息してるゴブリンを5体以上討伐する依頼にしました」

「なるほどな。Eランクはじめての依頼としても、良い依頼だと思うぞ。じゃあ早速向かうか」

「「はい」」

 俺たちはそのまま南門へと向かう。

 向かってる途中、アリスは安い食材を見つけたのか、俺を呼び止めて食材を買った。

 食事に関しては、完全にアリスにおんぶに抱っこだから、俺たち男はただ従うしかない。もし立ち向かおうなら、きっと次の日からの飯はなくなることだろう。

 まぁ、立ち向かうことなんて全くないんだけど。


 そんなこともありつつ、南門にたどり着く。俺の見た目は3ヶ月前とほとんど変わってないが、アランとアリスの見た目は大きく変わっている。

 2人とも、昔は動きやすそうだが、戦闘には向いていない、奴隷商から支給された服を着ていた。

 今のアランは革の鎧を身に纏っている。しかも、ジョブの能力の一つで鎧が常に強化されているから、防御力、耐久力は並の革鎧とは違うだろう。さらに、俺が持っているロングソードと同じぐらいの大きさの剣を腰に差している。

 アランは武器を選ぶ時、カウンターの近くに飾られていた刀が良いと言っていたけど、あまりに高すぎるから見送る事にした。それにしても、この刀を使う人はいないと思っていたが、まさか身近に出てくるとは思わなかった。


 アリスは逆に、パッと見た感じ戦闘に不向きな格好をしている。鎧も一切身につけていないうえ、膝下まであるスカートを身に纏っている。本当に給仕をする人みたいな格好をしている。

 アリスいわく、この格好が一番ジョブの能力を発揮するとのことらしい。

 俺は防御力の面が不安になったが、アリスは大丈夫だと言った。一応念のため、アリスが着ている服を軽く叩いてみたら、普通の革鎧と同じくらいの硬さを感じた。

 防御力はまぁまぁあるみたいだけど、機動性はそれよりも高い。なんせただの服なのだから。

 さらに、アリスは武器は見えないところに隠している。短剣やナイフなど、計6本の武器が隠されている。

 戦闘ですぐ対応できるか心配になったけど、気が付いたら手に武器を握っているから、アリスのジョブは本当に謎の塊のジョブだ。



 俺のジョブとは違って、アラン、アリスは魔力を使わずに防具を強化できる能力がある。

 アランが言うには、こういう能力はパッシブというらしい。

 もちろん、魔力を込めたらさらに防御力が高まるのは確認済みだ。

 俺は少し羨ましく思ったが、俺には無尽蔵に近い魔力量があるから、別になくてもいいかと落ち着いた。


 そんなことを考えながら、南門を潜り、森の奥へと進んでいく。

 道中、わざわざモンスターを探しに行かないが、出会ってしまった奴らはちゃんと処理して進んでいく。

 俺たちは今まで踏み込んだことのないエリアに入る。まぁ、俺は踏み込んだことはあるけど、この3人で入るのは初めてだからこう言っておく。


「ここから、ゴブリンが出てくるから気を引き締めて欲しい。あいつらは人間みたいに色々な個体がいる。粗末なものだが、奇襲や罠、集団行動をする奴もいる」

「了解です」「分かりました」

 この先は、多少薄暗い雰囲気ではあるが、問題なく俺の影は存在している。


「ご主人様。索敵は任せてください。ジョブの力である程度のことなら、気づけるようになりましたから」

「そうだったな。任せる」

 アリスは、戦うこともできるが、それ以外のサポート面の方が強いと、本人が言っていた。

 それでも、戦いようになっては、戦闘も強い部類に入ると俺は感じる。

「アラン。アリスが索敵をやってくれるからって、気を抜くなよ」

 アリスが索敵すると言った瞬間、活躍の場が先に訪れたのが悔しいのか、アランが少し不満そうな顔をしたのを見逃さなかった。


「俺はいつでも戦闘準備オッケーですよ」

「そうか。アランの戦闘力は一目置いてるから良かったよ」

「はい!頑張ります!」

 アランは声色を少し明るくして、返事をしてくれた。

 俺は、少し前の俺だと考えられない、仲間の士気をあげている。

 他人と長い時間一緒にいることで、機嫌というものがどれほど大事かわかったからだ。


 オーウェン達と、冒険の時間以外も付き合っていたら、俺は追放なんてされてなかったかもしれないな。

 こんなことを考えてるのは、あのパーティーに戻りたいわけじゃなくて、人と付き合っていく上で必要だと思うからだ。

 俺とアラン、アリスには、主人と奴隷という圧倒的上下関係はあるけど、やる気や気持ちなどはそれで縛ることは出来ない。いや、縛ることはできるけど、それをやると冒険者としての技術、正確にいうと即興的状況判断が、著しく落ちる。

 だから、反逆してきたなどの理由で返品された奴隷は、鉱山などであらかじめ決まっている単調な作業しかできなくなる。奴隷は、主人に対して不利益を被ることは出来ないはずだけど、抜け道はあるらしい。

 奴隷をただのものにしたくなければ、ある程度の関係を築いた方がいいとは、奴隷館の人も言っていた。


「右前に何かいます」

 アリスが小さい声でそう言った。

「俺は基本的に手を出さないから、2人で出来るだけやってくれ」

「了解です」「分かりました」

 アランは剣を構え、アリスはいつのまにか握っているナイフを構えている。

 2人の意識がそこに向かっていくのが分かる。だから俺はそこ以外に意識を割いて、2人の安全を確保する。

 ゴブリンが草影から飛び出してきて、2人に襲いかかる。



****設定****

冒険者のランクは、下からG、F、E、D、C、B、A、Sランクの8段階に分けられている。

だけど、同じランク内で実力差に違いがあるから、ギルド側はEから上には○−、○+の2つの段階を追加しており、それに見合った依頼を受理したり、勧めたり、それとなく諦めを促したりしている。

だけど、ルールにはそんな事記載されてないから、D−の冒険者がD+の依頼を受けることを拒否することは出来ない。


刀があまり使われてない理由について

剣士というジョブは数多く存在するが、刀剣士というジョブはそれほど多くない。だから、刀を扱う技術があまり普及していない。

さらに、冒険者は倒すことより、生き延びることの方が大事だから、剣でガードできるけど、刀でガードすると簡単に折れてしまうから、あまり好まれていない。

じゃあ刀と盾を併用すれば良いじゃん、ってなるけど作者的に刀と盾は一緒にしたくないから無理です。


****あとがき****

そういえばギルドのランクについて明記してなかったと思って書きました。

Sランクは作りたくなかったけど、S=最強みたいなイメージが普及してるから、わかりやすくするためにSランクを作りました。

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