第11話 対人戦

 アランとアリスのジョブがわかった3日後、2人を昇格させるためにギルドに向かう。

「ちょっといいか。この2人がジョブを授かったから、ギルドランクを上げて欲しい」

「分かりました。では、お二人のジョブを教えてください」

「聞いても大声出さないでくれよ」

「そんなに珍しいジョブなのですか?私たちには守秘義務というものがありますから安心してください」

 彼女はそう言って、机の下からガラスのような板を2枚、そして針を取り出した。

「では、どちらから登録なさいますか?」

 ここはアリスからやった方がいいだろう。

 アリスのジョブも強いけど、知名度的にアランの後に来るのは可哀想だからな。

「アリスからやってもらおうか」

「はい。わかりました。では私は何をすればいいんですか?」

「はい。ではまずこちらの板に血を一滴で良いので垂らしてください」

 彼女はそう言って、アリスに針を差し出す。

 アリスは人差し指に針を差し、血を一滴垂らしこむ。

「では次に確認させてもらいます。あなたの名前はアリス。性別は女性でよろしいですか?」

「はい。どちらも問題ないです」

「では最後に、あなたのジョブの名前を教えてください」

「私のジョブの名前はMoAWメイドオブオールワークスです」

「はい、分かりました。では今まで使われて来たネームタグの代わりにこちらをお使いください」

 受付嬢はそう言って、机の下から新しいネームタグと思われるものを取り出し、アリスに渡す。

「古いネームタグはこちらで回収を行いますがどうされますか?」

「私は持っておきたいです」

「分かりました。でも、それはただの板となりましたので、その点はお気を付けてください」

「分かりました。ありがとうございました」


 アリスのジョブ登録と、ランクアップの作業が終了した。

 次はアランの番だ。

 アランも同様に、血を垂らし、質問に答えていた。

「では最後に、あなたのジョブの名前を教えてください」

「俺は聖騎士です」

 アランがそういうと、大して大きい声でもないのに辺りが静まった気がする。

「っ!そうですか。分かりました。もしあなたが虚偽の報告をしていたとしても、デメリットを負うのはギルドでは無く、あなた個人です。訂正するなら今のうちですよ」

「嘘じゃないです。本当に俺は聖騎士なんです」

「分かりました。ではそのように登録します」

 受付嬢はアランに新しいネームタグを渡す。

 アランはそれを受けとり、古いネームタグは受付嬢に渡していた。


「やることやったし、依頼を適当に受けるか」

「分かりました。何を受けるんですか?」

「そうだなぁ。実力はもう分かってるけど、森の奥にいるモンスターを狩ろうか」

「分かりました。じゃあ受けてきますね」

 アランとアリスは掲示板に貼ってある紙の一つを取り、さっきの受付嬢のところに行った。

 俺は受ける必要がないから、ギルドの外で待つか。


 ギルドの扉を潜ったところで、後ろから声をかけられる。

「ちょっと待った。そこのにいちゃん。あんた、ギャンブルに大当たりしたな」

 振り返ると、ギルドでよく見る男3人組がいた。

「兄ちゃんって俺のこと?そもそもお前らは誰なんだ?」

「そういっぺんに質問してくるな。俺の名前はバーナビー。隣にいる奴はニコとエドだ」

 バーナビーと名乗る男がそう言ったあと、彼らは俺の首元、正確には俺のネームタグを見て表情を変える。


「あ?こいつ、Eランクにもなってねぇひよっこじゃねーか。どうやってあの二人を仲間にしたのか知らねーが、こっちこい」

 今すぐ逃げてもよかったが、今後も逃げ続けることを考えたら、今のうちに話をつけておくのがいいと思った。

 ニコと呼ばれているムキムキマッチョの男に掴まれたて、逆らわずついて行く。

 近くの日陰になってる路地に入り、壁に投げつけられる。

 影でしっかりと衝撃を吸収した。

「兄ちゃん、Eランクにもなってないのによく奴隷が買えたな。痛い目見たくないだろ?多少の金はやるから、あの二人を譲ってくれや」

「無理だな。譲るメリットが全くない」

「だから、金ならやるって言ってんだろ!2人合わせて金貨5枚やるから!これなら文句ないだろ!」

「そんなんじゃ足りないな。少なくとも白金貨は必要だぞ」

「てめー。せっかく下手に出てやったっていうのに調子に乗りやがって」

 ようやく1人が暴力に走ってきてくれそうだ。

 俺から先に手を出して、ボコボコにしても良かったんだけど、それよりも相手の攻撃を受けて、なおかつ余裕な表情で倒した方が、力の差を見せつけれるはずだ。

 これで少なくともこいつらは二度と俺に関わらなくなるだろう。

 ニコが早速俺の顔面目掛けて殴ってくる。

 俺はその拳を難なく影で受け止め、お返しにニコの腹にパンチを繰り出す。影纏を使って。

 しかし、ニコも優秀なのだろう。俺のパンチが当たる前に後退しており、俺の拳は空を切ることになった。

「おい、こいつ強いぞ。壁を殴ったような感覚だった」

「Eランクに行ってないんだから、防御力が高いだけのジョブだろ。攻撃し続けたら限界が来るはずだ」

「そうだな、俺とバーナビーが正面から注意を惹きつけるから、その間にエドは奇襲を仕掛けてくれ」

 そう言って、バーナビーが背中に飾ってあった大剣を手に握りしめ、ニコが盾とハンマーを握りしめた。

 たぶんこいつらは人を襲うのが初めてなんだろう。じゃなきゃ人の前で今からやることを言うはずがない。今から相手するのは人の言葉が理解できないモンスターじゃあるまいし。

 しかし、エドっていう奴を見失ったのはでかい。

 影纏で動体視力や嗅覚など、五感を強化することはできない。

 だから、どこから攻撃されても良いように、敵に見える部分以外は影で守っておこう。見える範囲を守ってたら、怪しまれて隙のある攻撃をしてこなさそうだし。


 そんなこと考えている間に、バーナビーが大剣を上に振りかざして、襲ってくる。

 流石に素手で相手するのは、ジョブの能力を怪しまれるから、懐の影からお馴染みのロングソードを取り出す。もちろん影纏で強化しているため強度はある。

 ロングソードで相手の大剣を受けとめ、拮抗している。

 バーナビーは、体重と勢いを乗せた大剣が、受け止められたことに少し驚いている表情だ。

 横から、ハンマーを持ったニコがやってくる。

 ここはハンマーを振り回せるぐらい道が広い。

 ハンマーをスイングするニコを見て、俺はバーナビーの持つ大剣をロングソード越しに影で掴み、バーナビーを引っ張る。

 引っ張られるなんて微塵も考えていなかったバーナビーは、簡単に体制を崩されて、ニコのハンマーに直撃する。

「すまん!バーナビー!」

 これでまず1人脱落。次にニコを倒すか。

 そう思って、ニコに集中する。


 その瞬間、自分の首元に何かが巻き付いたのを感じた。

「エド、よくやった!」

 どうやら、エドが俺の首を絞めているらしい。さらに綺麗に脚を使われて、腕を封じられている。

 でも、事前に影で補強してたから一切苦しくない。

 もう、終わったと思ったのか、ニコはハンマーを下ろして、バーナビーの介抱に向かっている。

 ニコが俺から目を離した瞬間、俺は影でエドの腕、口、目、胴体に影をまとわりつかせ、固定する。

 そして首に影をまとわりつかせて、エドの首を絞める。頸動脈を中心に抑えることで、エドを気絶させる。

 抵抗がなくなったことを感じ、わざと音を立ててエドを落とす。

 ニコは振り返り、俺を見ると驚いた。

「お前、一体どうやってエドを倒したんだ」

「言うわけないだろ。それより、この2人を連れてさっさとどっか行ってくれないか?この後あの2人と依頼をこなさないといけないからな」

「てめーふざけるな…」

 ニコが言い切る前に、今度こそニコの腹を殴る。

 気絶した3人を綺麗に壁に並べて、座らせる。特に何かを取ったり、壊したりはしない。

 並べている時、若干意識があるバーナビーと会話した。

「どうしてそんなに強いのに、Eランクに入ってないんだ?」

「ただ、ギルドのルールに縛られているだけだ。俺もできることなら早くEランクに上がりたいよ」

「お前みたいな奴に喧嘩売るんじゃなかったよ」


 特に何もしないのには理由がある。

 俺はGランクだから、こいつら3人が自分の口から俺らに負けたとかは言わないと思う。恥ずかしいから。そして、ボロボロな姿を見られても、何も言わないから色々な憶測が飛び交うはずだ。

 そこで、俺に話しかけてたという証言が出れば、俺の勝ちだ。噂は誇張されていき、俺に突っかかってくる奴はいなくなるはずだ。

 さらに、アランとアリスじゃなくて、俺自身に興味を持ってくれる奴が出てくれればなによりだ。人脈というのはあって困るものじゃないしな。


 そんなこと考えながら、薄暗い路地を離れて、ギルド前まで戻る。

 そこで待っていたアラン、アリスと合流する。


****設定****

 Eランクに上がった時、血を垂らすのは、生体認証を登録するため。

 今までのランクとは違い、明らかに死の危険が多くなってくる依頼が多いから。


 Eランクから本当の冒険者と言われる。FとGは、アルバイトとパートで、Eから社員みたいな感じ。


 エドが攻撃じゃなくて、首締めを選んだ理由は、パンチは防御されたけど、腕を掴まれるのは防御されてなかったから、締める・掴む系なら通じると考えたから。



****あとがき****

新学期の準備等で遅くなりました。

学校も始まったから、これから更新が遅くなると思うけど、頑張って書き続けようと思います。


あと、俺がボッチだから、レインもボッチみたいな性格していますが、頑張って色んな人と絡めさせていきたいです。

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