番外編 奴隷達-2

****アリス****

 私は異世界転生をした。奴隷として。

 そして、今のご主人様に買われた。

 そのご主人様は今、薬屋の店の人と喋っている。


 私はご主人様が好きだ。かっこいいし優しいし、何より声が好きだ。たぶん、吊橋効果があったのかも知れないけど、それでもご主人様が好きだ。

 そんな私だから分かったんだけど、たぶん今喋っている店の人もご主人様のことが好きだと思う。

 あの人と私は恋敵になるってことね。


 あの人は私よりご主人様の付き合いが長いと見る。だって会話を聞いてると、明らかに客と店員の関係を超えている気がする。

 でも、これからだったら私の方が有利なはずだ。宿どころか同じ部屋だし、これからご主人様の胃袋を掴む予定だから。

 ご主人様とアランが店を出ようとしていて、慌ててついて行く。


 私たちはご主人様についていって、薬草が生えているという森に向かって行く。

「ご主人様は私たちにどんなジョブを授かって欲しいですか?」

 ご主人様に好かれるためにも役立つジョブが知りたい。

「できれば戦闘に関わるジョブを授かって欲しいが、別になんでも良いぞ。たとえ料理人になって、料理を作るのが上手くなっても、俺は嬉しいぞ」

「そうなんですね。分かりました」

 ご主人様はこう言ってくれたけど、絶対に戦えるようになりたい。

 そんな決意をしたところで門を潜り、森の前に着いた。


 その場でどれが薬草なのかの説明を受けた。葉っぱがハート型になってるのが薬草らしい。

 でも、葉っぱな形が同じでも、色によって効果が変わるらしい。例えば緑が深かったら、より効力の高いポーションができるっといった具合に。

 でも、今回集めることができる薬草は薄い緑色した薬草だけ。ここにはそれしか生えていないから。

 薬草は雑草のようにたくさん生えていて、本当にこれが薬草なのか不安になった。

 でも、ご主人様がこれが薬草って言うから、私はひたすらに薬草を採取した。


 ご主人様が「俺は少し奥で採取してるから、2人はここで採取してくれ」と言って、私はアランと2人きりになった。

「アリスはどんなジョブが欲しい?」

 そんな中、流石に単調な作業すぎてアランに話かけられた。

「私は…戦いにも参加したいけど、やっぱり料理も上手になりたいな」

「お前、結構欲張りなんだな」

「そういうあんたはどんなのが欲しいの?」

「俺はやっぱり勇者かな。最強のジョブでしょ!」

「正確には勇者はすぐにはなれないぞ」

 アランがなりたいジョブを言ったところでご主人様が近づいてきたことに気付く。

 気を抜いて喋ってたからかなり驚いた。ご主人様にいち早く気付くために私は気配察知が欲しくなった。


「それはどう言うことですか?勇者はジョブじゃないんですか?」

「勇者はな、特別なジョブで『勇者の卵』っていうジョブから成長するんだ」

「じゃあ、俺はその勇者の卵になりたいですね」

「まぁ、願うだけタダだしな。実際には俺みたいに全く知らないジョブを授かることになるかも知れないけどな」

「たとえ知らないジョブでも、俺はご主人様に役立ちます」

「っ!私もどんなジョブでも頑張ります!」

 アランが唐突にアピールしたから、慌てて私もアピールする。

 するとその様子を見たご主人様は軽く微笑んで、「安心しろ。元よりそうさせるつもりだ」と言った。

 その姿がカッコ良すぎて、鼻血が出るかと思った。


「ところで、ご主人様はどうして私たちのところへ?」

「そうだったな。渡した袋がそろそろ満杯になったころだと思って来たんだ」

 たしかに、アランとの会話に夢中になってたけど、預かった袋がもう満杯になりかけていた。

「そうですね。もう満杯になります」

「俺もです」

「そうか。じゃあ俺の影にそれを入れてくれ」

 ご主人様はそう言って、足元の影を伸ばした。

 私たちは何をしたらいいかわからずに戸惑ってしまう。

 ご主人様はその様子に気付いたみたいで、口を開く。

「この影の上にその袋を置いてくれ。そしたら影の中に入れるから」

 私たちは言われた通りに、影の上にその袋を置く。

 すると、袋は影の中に沈み込んでいき、影も形も無くなった。

「まだ日は高いから、薬草採取を続けるぞ。だが、袋はもうないから取った薬草は俺の影の中に直接入れてくれ」

「はい」「分かりました」

 それから日が傾いてきて、夕焼けが差し始めた頃に薬草採取は終了した。


 それから薬屋に向かい、発覚した事実が一つ分かった。

 それは魔力は誰にでも存在すると言うこと。

 その事実をご主人様に伝えた店の人改め、メリナさんは、ご主人様に詰め寄られていた。

 それはもう本当に羨ましかった。でも、私にはまだその魅力が無い。いち早く私の価値をご主人様に見せつけたい。

 そして、後日またこの店に来てご主人様の魔力を使えるようにしてくれる。でも、この方法は確証がないらしい。

 正直、私も早く魔力が感じられるようになりたい。だって、その力で料理が一段と美味しくなったり、追加効果が発生したりするのはよく聞く話だから。

 でも、あと1年以内にジョブが発生するから、その時まで我慢すればいいかなって思う。ご主人様に変な迷惑をかけたりしたく無いから。


 話がひと段落ついたようで、お金をもらうためにギルドに向かう。

 少し早めに帰ったから、ギルドは空いているみたい。

 そこで問題が起きた。

 それはご主人様にペナルティが科せられると言う問題だった。

 黙って話を聞いていたんだけど、これはご主人様じゃなくて、ご主人様が死んだっていう虚偽の報告をした元メンバーが悪いと思う。

 でも、話を聞いていてこのギルドの人は融通が効かないと分かるし、言ったとしてもご主人様がやるせない気持ちになるだけだと考えたから何も言わなかった。


 それからご主人様は疲れた様子で、今日の売り上げをそのまま私に渡してくれた。

「このお金を使って今日の夜ご飯を作ってくれ」

「わかりました」

 私は物価やお金の価値とかを聞きたかったけど、あまりにご主人様が疲れた様子でいたから、ぶっつけで買い物をすることにした。

 その結果、3リースで今夜と明日の朝の分のお肉と野菜、4リースで同じ分のパン、3リースで料理できる場所を借りて結果10リースで収まった。

 元々夜ご飯代だけを稼ぐって言って、今日の薬草採取の依頼を受けて、受け取った金額の半分だけで今日と明日の朝食の分の料理を作ることができたから、すごく節約できたと思う。でも、もう少し

 でも、調味料を買うのを忘れたから、調理場に置いてある塩だけで、味が淡白になってしまった。

 せっかく最初の料理だと言うのに、失敗してしまった。

 それでも、ご主人様とアランは美味しいと言ってくれた。

 調味料が無い分、切り方とかを工夫して良かった。

 余った料理はご主人様の影の中に入れてもらい、明日の朝に食べる。


 そのあとは近くの井戸から水を汲んで、その水をご主人様の力を使って部屋に運び込む。

 そして、布を使って体を清潔にする。

 私は2人に裸を見られることを危惧したけど、2人ともこちらに興味がないようにしている。

 チラチラと見るような視線も感じないから、本当に興味がないんだ。

 私の体には魅力がないことを突きつけられてものすごく落ち込んだ。


 体を清潔にしたあと、ご主人様は布団と毛布を出してくれた。

「アラン、アリス。今から文字を教えようと思ったけど、今日は疲れたから俺はもう寝る。俺が寝てる間は部屋から出ないように」

「「わかりました」」

 私も久しぶりに歩いたりして、体が疲れていることに気付く。

 ご主人様がベッドに入ってすぐに私たちも毛布に潜り込み、すぐに寝た。

 すぐ隣にいるアランも私と同じ状況みたいで、私より先に寝息を立てていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る