番外編 奴隷達-1

****アラン****

 ここはどこ?

 薄暗い空間に冷たい石畳、周りにいる子供たち、灯りの方に目をやると鉄で作られた檻のような柵。

 どうしてここにいる?

 直近の記憶は車との衝突事故だった。

 やった!転生したんだ!

 そう口にだそうと思ったけど、だせなかった。

 左胸に痛みが走り、それで声が出せなかった。痛みで声がでそうになっても、その声すらだせなかった。

 こんなもの、日本にいたら体験することはできない。やっぱり俺は異世界に転生したんだ。


 痛みに耐えて、痛みが引いた時、窓から朝日が差し込んでくる。

 そして、檻の外側に男の人がやってきて口を開く。

「キャンセルオーダー」

 それだけ言って、男の人はどこかに行ってしまった。そして、声が出せることに気づいた。

 俺は奴隷で、命令のせいで喋れないようにさせられていたことに気付く。

 さっきまで痛かった左胸をよく見ると、刺青が入っていて、これがいわゆる奴隷紋だと気づいた。


 痛みが引いて、周りの状況をよくよく見ると、この身体の持ち主の記憶が頭の中に駆け巡る。

 あまりの情報量の多さに俺は気絶してしまった。


 目を覚ますと、また夜だった。

 さっきまで気絶していて眠気もなく、何もすることがないから、その日は一晩ずっと起きていた。

 一晩中、どうすればチートができるのか考えたけど、魔力は感じられないし、ステータスと言っても何も出てこない。

 それにこの状況を打開できる方法が思いつかないし、俺には思いつく頭があるとは思えない。


 せっかく転生したのにチートも、ましてや自由な生活すらも出来ない。こんな地獄を味わうぐらいなら転生なんてしたくなかった。

 こんなことを思って生活していると、寒さが和らぎ段々と暖かくなってきた頃、俺に買い手が現れたらしい。

 この世界に来て、初めて石鹸を使って体をきれいにした。


 俺を買ったという人は、長い髪の人だった。

 一瞬女の人かと思って期待したけど、顔を見たら男だという事がすぐにわかってちょっと落ち込んだ。

 でも、話してみると優しい人って事がわかって、嬉しかった。漫画の知識だけど、奴隷ってこき使われる事が多そうだから、俺はとても運が良い方だと思う。

 どうやらレインという俺を買った人は、もう1人買ってるみたいで、アリスという女の子も買っていた。


 その3人で奴隷館から出て行く。

 記憶の中では見たことある風景だけど、実際に見てみて本当に異世界に来たんだと実感した。

 それから黙って、ご主人様について行く。

 ご飯を食べる場所に着いたらしく、メニューを見せてもらう。でも文字が地球の文字とは違って読めなかった。

 発音は日本語だから不思議な感覚だ。


 ご主人様は安くはない食事を食べさせてくれた。

 半年間、素朴な飯を食べてきたから、ステーキだけでお腹いっぱいになった。

 日本料理が恋しくなったけど、半年間ここにいたから、漫画でよくある米が食いたくてたまらないなんてことはなかった。その点は少し奴隷スタートで良かったかもって思ってる。


 それからご主人様は俺たちに何をさせるために買ったのかを説明してくれた。

 つい大声を出したけど、暴力を振われることなく、俺の話を聞いてくれた。

 チートはできないけど、この人の元だったら良い異世界ライフを送れると思った。

 その時、隣にいるアリスが急に発狂しだした。

 主人公、異世界など、言葉を聞いてみるとどうやらアリスも異世界転生してきたみたいだ。

 アリスが落ち着いたところで、ご主人様と俺たち、それぞれについて説明した。そこで知ったんだけど魔力は一応この世界にあって、でもご主人様はわからないんだって言ってて少し落ち込んだ。


 それから、冒険者ギルドに冒険者登録をするために連れていかれる。

 そこに向かう間に、さっきとは違って質問に近い会話があった。

「ご主人様の年齢はいくつなんですか?」

「16だな」

 意外にご主人様は若いんだな。俺が奴隷商にいた時、買っている人は明らかな大人たちだったから、若く見えるだけで結構年上と思ってた。

 ご主人様ぐらい若い人はよく奴隷商に来てたけど、その人たちはただ見て行くだけで買ってはいなさそうだったし。

 ご主人様のジョブがお金を稼ぐのにちょうどいいかも知れないな。

「ご主人様のジョブってどんなのなんですか」

「そういえば教えてなかったな。俺のジョブは影を操る能力だ」

 ご主人様はそう言って、影を操って見せてくれる。

 某錬金術師の敵みたいな感じで影が動いていた。

 だから、戦闘能力が高そうだと思った。だけどご主人様は裏切られたって言ってたから、うまく噛み合ってなかっただけなんだろう。


「ご主人様ってどうしてそんなに髪を伸ばしてるんですか?」

「あ、あぁ。今までは伸ばしておいた方が良かったんだ。でも、伸ばす必要がなくなったし、切って売ろうかな」

「ダメですよ!勿体ないです」

「切らないでおこう」

 俺がご主人様に質問したら、横からアリスが口を挟んできた。

 たしかにご主人様は、きれいな黒髪をしている。でも、俺は短髪でもカッコいいと思うけどなぁ。

 そんなことを考えると今度はアリスが質問し出した。


「ご主人様は彼女か奥さんはいらっしゃるのですか」

「いいや、いない。だから俺以外のことを気にしなくて良いぞ」

「分かりました」

 心なしかアリスは嬉しそうな気がした。たぶんアリスはご主人様のことが好きなんだろう。

 アリスは俺からしたら少し痩せかけているが、整っている気がする。でも、これは日本人の感性だからこの世界だとアリスは綺麗なのか気になるところだ。

 ぜひアリスとご主人様にはくっついてもらいたいものだね。

「そういえばご主人様、ここって結婚制度ってどんな感じなんですか?一夫多妻制だったりするんですか?」

 さっきのアリスとの会話を聞いて思いついたことをご主人様に聞く。

「他の種族のことは知らないけど、経済的に余裕がある貴族とかは一夫多妻や一妻多夫をしてるのは聞いたことある」

「そうなんですね!」

 よく異世界にあるハーレムを築ける、そう考えて嬉しくなっていると、アリスから汚物を見るような目で見られていることに気づく。


「なんだよ、アリス」

 小声でアリスに話しかける。

「アラン。もしかしてハーレムとか考えてる?もしそうだとしても私は絶対入らないからね」

「分かってるよ。お前すでにご主人様のこと好きだろ。さっきの会話ですぐに分かったわ」

「そんなに分かりやすかった?」

 アリスにそう言われ、俺は頷く。

「だって仕方ないじゃない。一目惚れしちゃったんだから」

「俺はお前を応援するよ」

「ありがとう」

 そんな会話をしている間に冒険者ギルドに着いたみたいだ。


 冒険者登録は針をさして血を使ったり、水晶に手を置いたりしなかった。

 受付にいる人に名前を伝えて、首にかけるネームタグを作ってもらうだけだった。

 でも、このネームタグは特殊で、偽造・複製不可らしい。だから、身分証明にも使えるらしい。

 俺のネームタグの材質は安っぽい軽い金属だけど、ランクが上がれば材質も変わっていくらしい。


 俺たちの冒険者登録が終わったところで早速俺たちの初仕事をするらしい。

 そのためにまず薬屋、ポーションを売ってる店に向かう。

 その間にアリスが料理をしたいとのことでご主人様にそのことに関して聞いていた。

 どうやらご主人様も知らなかったらしく、商業ギルドによることになった。 


 商業ギルドは冒険者ギルドと違って、綺麗な雰囲気があった。

 ご主人様が離れていって、アリスと2人きりになった。

「アリス、なんで料理すんの?」

「なんでって。私料理美味しかったし、やっぱり胃袋を掴むのが大事ってよく言うじゃない。多分これは世界が変わっても通用すると思う」

「そっかぁ、料理頑張ってくれよ。俺も美味しい料理食べたいし」

「美味しい料理のために犠牲になってもらうかも知れないけどよろしくね」

 仕方ない、ご主人様のために奴隷が身を削るのも当たり前だしな。

 そんな会話をしているとご主人様が来て、一緒にギルドを出る。

 そしてご主人様は聞いた話を伝えてくれた。

 そして軽く大通りの店を覗きながら薬屋に向かう。


 薬屋の目の前でご主人様が突如振り返ってきた。

「アラン、アリス。この薬屋の店主はエルフっていう種族らしく、若く見えるけどお前らよりは年上だ。だから対応には気をつけてくれよ」

「「はい」」

 唐突にそんなこと言われて、少し驚いた。

 それにしてもエルフか。さっきも結婚の話の時にも言ってたけどそういう種族がやっぱりいるんだな。

 エルフは美しいっていうのが定番だから、楽しみにして店の中に入る。


 ご主人様が言った店主を見たけど、よくあるエルフっぽい特徴の耳じゃない。普通の人間のような耳をしている。

 でも、美しい見た目をしている。

 もしかしたらこの世界のエルフは耳が短いのかも知れない。

 そんなことを考えながら、ご主人様とその店主の会話を待っていた。


****あとがき****

 この世界のエルフは耳が長いです。つまり店主ルミナはエルフじゃないです。ハーフエルフとかでもないです。

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