第22話 子爵の依頼とタジル平原。

翌日、俺はリカルド商会に顔を出した。

新たな依頼を請けるに際して欲しい物が出来たからである。

店に入るとジェシーが2階から小走りでやって来る。


「やっぱりサルナスだったのね!!今日はどうしたの?」


「うむ、ちょっと欲しい物があってな」


「何かしら?私が見繕うわよ」


「実は使い勝手の良いマジックバッグを探している。このマジックポシェットも悪くないのだが、もっとこう…口が大きく開くのが欲しいんだ」


「口が大きく…ちょっと其処に腰掛けて待ってて」


俺は言われた通りに椅子に腰掛けて待っていると、しばらくしてジェシーが皮袋の様な物を持って来た。


「これ、少し古い物なのだけどジャイアントスパイダーの毒腺で作ったマジックバッグよ。ジャイアントスパイダーの毒腺は強烈な毒を溜めてる臓器だから、かなり丈夫で長持ちなの。普通の皮袋に見えて目立たないし、口が大きく開くからお勧めよ」


皮袋で肩掛けのベルトが付いてるのか。口は大きく開くし余計な装飾が無いのも良いな…普通の皮袋に見える。


「確かに…これは良いな。いくら位だ?」


「そうね…売値は大金貨25枚なのだけど…在庫処分みたいな物だし大金貨13枚で如何かしら?」


「良いのか?俺は助かるが…」


「う〜ん…良い品なのだけど、この店で売るには客層に合わなくてね、やっぱり見栄えが悪いと敬遠されるのよ。それで倉庫の肥やしになってたの。だから売れるだけこちらも助かるわ。キチンと利益は出てるから問題無いわよ」


「そうか。ちょい待ちよ…じゃあ、大金貨13枚な。確認してくれ」


ジェシーはお金をキチっと勘定してから俺に向かってこう言った。


「はい、確かに。毎度有難うございました。またどうぞ!」


「フフフ…商人らしい挨拶だな」


「当然じゃないの!お客様にはキチンとご挨拶するわよ!」


「良い物をありがとう。大事に使うよ」


「適度に壊して、また買ってくれても良いわよ?」


おいおい…買った側から中々商魂逞しい台詞だな…。




翌日、宿を引き払い、俺達は冒険者ギルトに向かった。


ギルトに着き、サリーさんに声を掛けると直ぐにギルマスの部屋に案内された。


「よお、早かったな」


「依頼ですからね、当然ですよ」


「真面目なのは良い事だ。コッチも仕事の出し甲斐があるってもんだ」


「また期限が無いとか止めて下さいよ…」


「フハハハ!アレはタマタマだ。今度は普段通りだからな」


「そうですか。で、依頼と言うのは?もちろん鑑定絡みですよね?」


「もちろんだ。鑑定レベルアップしたのなら尚良い…来た様だな」


すると部屋の扉が開いて何やら貴族っぽいのが執事の様なおっさんと入って来た。


「この者が今回の冒険者か?」


「ええ、Cクラス冒険者のサルナスです。サルナス、こちらはハーマン子爵閣下だ」


俺は頭だけ下げる。貴族はあまり好きでは無い…無理に請けるつもりは無かった。


「Cクラスだと?それでは実力不足では無いか??」


「サルナスの実力は保証します。レイダースでのオークジェネラル討伐の件はご存知ですか?」


「ああ、それがどうした?!」


「このサルナスがオークジェネラルの首を刎ねました」


「は?そんな馬鹿な!Cクラス風情が倒せる訳が無い!」


俺はこの依頼に興味を失って居たのでギルマスに声を掛けた。


「ギルマス、申し訳無いが今回の依頼は請けない。他の依頼で頼む」


俺は立ち上がりそのまま部屋を出ようとすると執事の男が俺の前に進み出た。


「サルナス様、申し訳御座いません。是非とも貴方にお願いしたい」


「パトリック!!何を勝手な…」


するとパトリックと呼ばれた執事から尋常じゃ無い覇気が発せられる。俺は思わず後に飛んで刀に手を掛ける。


「エルド様…サルナス様の実力は間違い有りません。彼の背中の『朱刃』はオーガリーダーを倒して出るレアアイテムです。それを持っているのは少なくともオーガリーダーを倒している証ですぞ」


「なっ!『朱刃』だと??」


「そのような事も理解せずにクラスだけ聞いてその様な振る舞いをするとは…もう一度矯正が必要ですかな??」


子爵は青い顔をして脂汗を吹き出している。これじゃあどっちが主人か分からんな…。

それにしてもこの執事…只者じゃないな…。


「サルナス様、主人の無礼何卒ご容赦下さいませ…」


するとギルマスが助け舟を出す。


「サルナス、まあそのくらいで許してやれ。パトリックは元Aクラスの冒険者でお前の大先輩だぞ」


なるほど…あの覇気は元Aクラスの実力の一旦か…。俺は席に座り直す。パトリックさんはホッとした様子だった。


「ココは先輩の顔を立てましょう。但し、次は有りませんよ」


「お気遣い痛み入ります…。…エルド様…」


「す、済まなかった…」


完全に脅されて謝ってる訳だが…コイツはもう相手をしない。俺はパトリックさんの方に話をするだけだ。


「それでは依頼についてお聞きしましょうか」


「我が地領はレッドロックスから西方にあるタジル平原なのだが、最近になって魔獣が多く出没するようになった。村では怪我人も出てるとの事で非常に困っておる。其処で魔獣の数と発生場所等を詳しく調べて欲しいのだ。期間は3週間以内で、向こうには片道4日有れば村に着く。調査が早く済むならそれに超した事はない。此方は報告を聞き次第、人数を集めて討伐に向かう予定である」


子爵は一気に答えるとお茶を啜りながらため息を吐く…パトリックさんの覇気で相当ヤラれた様だな。


「なるほど…地図は頂けますか?」


「もちろんだ。パトリック、出してくれ」


パトリックさんは地図を出すと三ヶ所に印を点けた。


「此処が怪しい地点です。本来なら私が行ければ問題なかったのですが、エルド様が国王陛下より召還されましたので、これから王都に行かねばなりません。その為に私はここに残り準備を整え、報告が終わり次第、エルド様の名代として騎士団を引き連れ地領に向かう予定です」


「では、村に行き状況を聞いてから調査をすれば宜しいですね?」


「そうしてもらうと助かります。大体の魔獣の数とレベル。発生場所の特定とその場所に居る魔獣のレベルが調査内容です」


「調査内容は了解しました。直ぐに向かいます」


「ありがとう御座います。此方は当面の資金で御座います。報告後に割符をお渡し致します」


パトリックさんは割符のハマって無い特殊依頼カードと資金の入った皮袋、それに紋章の入った小型のフラッグを机の上に出した。


「このフラッグを村で見せればハーマン子爵家の者だと分かります。何かと世話をしてくれるはずです」


「ありがとう御座います。では行ってきます。ギルマス、馬車借りますよ」


「下に用意済みだ。頼むぞ」


俺は机の上の物を受け取ると、下に用意されていた馬車を借りてそのまま出発した。


俺は街から出ると直ぐに魔獣武装(ビーストアームス)で装着してそのままタジル平原へと向かう。予め旅の用意はして来てるので、店に寄らなくても問題無しだ。



3日後にタジル平原に到着したが、確かに魔獣の数が多い。こりゃあ嫌な予感しかしないぞ…。

村に向かうまでもソコソコの魔獣を倒しながら馬車を走らせた。

魔獣はコボルドが中心か。中にはダークウルフ等も居る。


しばらく走って村に到着すると、衛兵達がやって来たのでフラッグを見せた。するとその中の隊長らしき人物が話し掛けて来る。


「おお、ハーマン子爵家から頼まれた調査の者かな??」


「そうだ。レッドロックスの冒険者サルナスだ。宜しく頼む」


「私はカイムス、村の護衛でコチラに来ている。魔獣が増えてるのでな…調査結果を早めに持って行って欲しいのだ」


「うむ。早速、話を聞いた上でパトリックさんから怪しいと言われてる三ヶ所を中心に調べたい。協力を頼みたい」


「案内は任せて欲しい。ウチの斥候を出すよ。じゃあこちらに来てくれ」


俺はカイムスさんに連れて行かれ、衛兵の出張所になっている小屋にやって来た。


さて、コレからどうやって迅速に調査をするか…綿密な計画を立てないとな。

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