第2話 方法

「ああ、私は私と1つになりたいんです。身も心も、私は私の全てを取り込みたいんです」


 1つになる……


 意味がわからない。


 もし、相談者の好きな人が、本人とは違う他人であったら。

 意中の男子に告白なんかして、付き合い、やがては愛し合い、結婚したりして、そんな未来が描ける。


 でも、自分と1つになるって……


 手を止めた俺を無視するかのように返信がくる。


「私は生まれた時から、私が大好きでした。他の女子、男子なんか目もくれません。右に鏡があれば右を向き、左に鏡があればそちらに顔を向ける。そんな毎日でした」


「なるほどですね、よっぽど好きなんですね」


「はい。でも、そのうち虚しさが襲いました。どんなに、私が私を好きでも、常に自分の近くにいても、仲良く手を繋ぐこともできません。ああ、永遠の片思い。そんな叶わぬ恋だと気づきました」


 まあ……そうなるわな。

 俺はコーヒーを口に運び、続きを待った。


「だから、考えました。それならば、いっそのこと1つになろう。でも、もともと私は私なんで1つの存在といえば、1つなんですけど」


「ですよね、汗。自分を好きになるはいいことだけど、あまり追い込まない方が……」


「違います」


「違う?」


「はい、あるんです。私が私と1つになる方法が。完全に1つになる方法を考えたんです!」


「方法? ??? どうゆうことですか??」


 1つになる。

 自分自身と。

 でも、もともと1つの存在だよな。

 だって、自分自身だぞ。


 頭にわいた靄を振り払うように首を振った。


 だめだだめだ。

 冷静にならねば。


 そんな混乱に追い打ちをかけるように、その子は言った。


 見つけたんです。方法を。


「古来より、生けとし生けるもの全てが当たり前に営む活動。本能に刻まれし、あがらうことができない根本的な衝動。生命を取り込み、己の生命を繋ぐこと。それは……」


 俺はごくりと唾を飲み込む。


「食べればいいんです」


 続けてその子は、こう言った。


 私は私を食べたんです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る