第57話 奪還と睡眠薬と

全ては長谷川先輩に任された。

そして母親の色付(いろつき)さんと一緒に俺達は向かう。

それから俺と長谷川先輩と色付さんと共に雪代先輩の実家にやって来た。

そうして見上げる。


「.....私の夫には事前に伝えています。後は.....全てが上手くいくかです」


「正直.....緊張するしか無いですね。.....大丈夫ですか。長谷川先輩」


「俺は大丈夫だ。今は怒りで動いているからな」


「.....そうですか」


俺達は頷き合いながら。

そのまま大きな門を潜って中に入る。

すると目の前に.....何故か家の玄関に雪代先輩が立っていた。


俺は愕然とする。

作戦がいきなり成功しそうになっていたが。

雪代先輩はこう切り出した。

待っていた。貴方方が来る事を、と。

そしてこう言ってきた。


「私は帰らないし」


「.....何でですか。雪代先輩」


「そうよ。何を言っているの貴方。せっかく貴方にお見合いをしたいって方が現れたのに」


「無理だよ。お父様は全ての作戦を見抜いているよ」


「.....!」


俺達は青ざめる。

そして俺は、ではどういう事ですか.....、と言葉がようやっと出てくる。

すると雪代先輩は顔を変える事無くこう告げてくる。

私は帰らない。私はお父様に洗脳された訳じゃ無いけど帰れないから、と言った。

長谷川先輩が眉を顰める。


「.....じゃあ無理矢理、愛人を奪い返すだけだ」


「それも無理だよ。.....何故って?.....私のネックレスにGPSが入っているから」


「外せば良いじゃ無いですか!先輩!」


「それをしたらこのGPSは首に向けて針が出るって脅されたよ。.....非人道的だけどね」


「.....信じられない.....」


すると.....。

奥からぬっと誰か現れた。

そして俺達を見据えてくる。

身長が2メートルは有りそうな大男だった。

俺達はたじろぐ。


「そういう事だ。すまないが帰ってもらえるかな」


「.....アナタ.....そんな事を娘に!」


「この装置は僕の同級生の勇くんがふざけて考えてくれたんだけどまさか今になって役に立つとはね。勇という名前に心当たりがあるんじゃ無いかな。イスカくん」


「.....!」


俺はゾッとした。

これまでに無いぐらいにゾッと、だ。

その勇という言葉。


散々聞いた。

そして散々.....絶望する。

どれだけ絶望した事か。

俺は青ざめる。


「.....勇.....がどうした!俺の愛人を返してもらうぞ!」


「では私は針を発動させるよ。これには睡眠薬が入っていてね」


「.....信じられない.....」


俺は唇を噛みながら大男を見据える。

そして俺は目の前の真剣な顔をしている雪代先輩。

俺達は顔を見合わせてから。


顎に手を添える。

どうしたものか。

こんな場所で止まるのか?

俺達は、か?


「.....そういう事だから帰ってもらっても良いかな」


「警察に電話するわ。アナタのやっている事は許せない」


「電話するが良い。色付。私は恐れるものはない。金と権力で捩じ伏せるだけだ」


「.....」


クソ.....。

チェックメイトなのか?

俺は考えながら.....唇を強く噛む。

それから見ていると。


待った、と声がしてきた。

その声に背後を見ると.....そこに。

照魔くんがいた。

俺は、待っていろって言っただろ、と照魔くんを見る。

照魔くんは冷静に話し始めた。


「.....僕のお姉ちゃんを返してもらう」


「照魔。貴様も其方に居るとは。地に落ちたものだな」


「.....どっちでも良いよ僕は。お父さん。.....実はその装置だけど速水さんに協力してもらって家を捜索したんだ。それでその装置の設計図の隠し場所を見つけてね」


「それってマジか?照魔くん」


俺達は顔を見合わせて驚愕で見ていると。

照魔くんはボロボロの紙を俺に見せた。

そして大男に突き付ける様にする。


大男は、!?、という感じの表情を浮かべる。

それから、じゃあね。お父さん、と言う照魔くん。

そしてリモコンを取り出して装置が反転して.....父親にビシュッと音がして針が飛びそれが脚に刺さった。


「グゥ.....」


どんだけ凄い威力の睡眠薬だったのか。

そのまま大男は針が脚に刺さってその場所で崩れ落ちながら.....俺はそのチャンスで雪代先輩の手を引いてから.....。

そのまま、走れ!!!!!、と俺は絶叫した。


それから俺達は一目散に走り出す。

前には門番が居たがそれをすり抜ける。

照魔くんと俺と長谷川先輩が、だ。

色付さんは残ると言い出したのでそのまま任せて駆け出す。


「取り敢えず奪還はした!急ごう!」


「そうだね。先ずは.....列車に乗ってこのまま」


雪代先輩は、信じられない、という感じの顔をしている。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。

そしてダッシュする。

取り敢えず.....走る。

走るしかない。


すると目の前に黒服の男達が現れた。

どうやら.....雪代先輩を取り返しに来た様だが。

俺は、どけコラ!!!!!、と絶叫してタックルする。

それから駆け出して行った。


「走るしかないね。取り敢えず急がないと」


「そうだな!」


「だな」


「.....」


雪代先輩は。

静かに背後で涙を流していた。

そして号泣し始める。

有難う、と言いながら。

俺はその姿を見ながら駆け出して行く。


「有難う。.....何かスッキリしたよ」


「いえいえ!」


「スッキリもするわな。こんなまるで奪還劇.....はっはっは!」


「楽しいね。確かに」


そして俺達は列車に飛び乗った。

この先がどうなろうとも。

俺達が雪代先輩を奪還して.....守る。

そうすれば良い筈だ、と思える。

考えながら俺は.....息を切らしながら外を見た。


逆転していく。

全てをそう思いながら.....目の前の3人を見る。

みんな息を切らしていたが、やったぜ、的な感じでハイタッチしていた。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。

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