罠に掛かった囚われの姫と須崎とイスカと

第54話 居なくなった照魔と激昂する雪代

勇が拘置所内で自殺した。

俺がその事を知ったのは自殺してから3日後だ。

何がしたかったのか分からないが.....非常に迷惑な事をしたと思う。

だけどこうも思ってしまう。


勇の人生は何だったのだろうか。


と、だ。

俺が優し過ぎるのかもしれないけど。

でもただひたすらにそう思う。

家族を悲しませ。


自らの親もきっと悲しんでいる。

それなのにここまでした理由は.....きっと何かあったのだろう。

だけどその事はもう永遠に知る事は出来なくなった。


千佳に全てを聞くと。

共同墓地に勇を収めたという。

ちょうど.....葬式も無く、だ。

これだけ酷い目に遭わせてきた人間に葬式代なんか出せない、と言う事らしい。

それはそうだろうな。


思いながら俺達は.....病室で目の前を見る。

目の前の.....千佳の母親の律子さんを、である。

眉を顰めながら俺達に、迷惑を掛けましたね、と言ってくる。

俺はその言葉に何も言えなかった。

千佳は、でもこれでせいせいした。もう障害は無くなった、と切り捨てる。


「.....あの人との因縁はこれで終わり。.....お母さん」


「.....そうね。もう考えたくないわ。あの人の事なんか」


「私にはお母さんしかいないから」


「.....千佳.....」


「.....もう2度とこの絆は壊させない。これは」


そんな意を決した姿に俺は複雑な感情になる。

それから、これから目一杯楽しもうね、と見てくる千佳。

ニコニコしながら、だ。


そうだな。

確かにそうだ。

もう何も考えたくないもんだな。


「猫の死骸を送るような人間にしてしまって.....本当にクズね。御免なさいね。イスカ君。迷惑を掛けたわね」


「.....いえ。.....でも俺、少しだけ考えたんです」


「.....何をですか?」


「.....勇は.....きっと孤独だったんだろうなって」


「.....それはもう分からないです。.....でもそれであってもあの人は重罪を犯した。それには間違いはありません。だから思い詰めないで下さいね」


「.....そうですね」


それから笑みを浮かべる律子さん。

それはそうと、キスをしてみて下さい、と言ってきた。

俺達は顔を見合わせて、ハィ!?、と言う。

突然何なのか。


「.....いや。キスしている姿を見たくて、です」


「.....お母さん!?」


「.....駄目でしょうか?幸せそうな2人を見たいんですけど」


「.....いやいや.....お母さんそれはない」


「よし。やるか。千佳」


いや!?そんな!?、と千佳は赤面する。

それから.....俺達は赤面の中、キスを交わした。

その姿に、涙を浮かべて流し始めた律子さん。


俺達は動揺する。

ど。どうしたのだろうか、と、だ。

すると律子さんは、いえ。御免なさい。幸せそうな千佳が嬉しくて、と言ってくる。

それからまた笑みを浮かべた。


「.....私はもう母親卒業ですね」


「.....そんな事無いよ。お母さん」


「.....え?」


「.....お母さんはお母さんだし」


「.....千佳.....」


そして満面の笑顔を浮かべる千佳。

俺はその姿に柔和になりつつ外を見る。

そこには青空が広がっていた。

その光景を見ながら.....少しだけ溜息を吐く。


「.....千佳。お手洗いに行って来る」


「そう?行ってらっしゃい」


「ああ。それじゃまた後で、です。律子さん」


「.....はい」


それから俺はトイレに向かった。

そして.....トイレに入ってから。

鏡を見て笑みを浮かべる。

少しだけでも幸せそうな.....千佳。

良かった、と思いながら、だ。


「.....俺もしっかりしないとな」


そう思いながら俺は.....顔を洗浄した。

それから.....俺はハンカチで顔を拭いてから。

また鏡を見て頬を叩く。

守らなければ、と。

全てを、だ。


「.....」


『君への最後の死のプレゼントだよ』


「.....娘を何だと思っていたのか、だな。アイツ。結局、最後の最後まで.....迷惑ばかり掛けて。人生を何だと思ってんだろうな」


俺は考えながらまた水を浴びる。

それから.....俺は拭いてから外に出る。

そして廊下に出ると。


そこに雪代先輩が通行して居た。

かなりデカい花束を持って、である。

ん?、と思いながら俺は雪代先輩に目を丸くする。


「あちゃー。このトイレだったんだね。君は」


「何しているんですか。雪代先輩」


「これを静かに持って行ってから驚かそうと思ったんだけど。見られちゃったね」


「.....雪代先輩。幾ら無限にあるって言ってもお金無くなりますよ?こんな事していると.....です」


「確かにね。.....まあでも華やかにしたいからね。これだけにしておくよ」


俺は苦笑いで巨大な花束を受け取る。

それから、雪代先輩も行きませんか、と道案内する。

雪代先輩は、分かった行こうか、と答える。

それに.....また振り込みがあったからね、と答えた。


「.....そうなんですね」


「娘には金さえ贈れば何でも良いって思っているんだろうな。最低な人間達だよ」


「.....金が全てって嫌ですね。本当に」


「金さえあれば何でも出来ると思うのは勘違いだ。.....まあもう愛情も何もかもをすっぽかしたけどね私は。アハハハハ」


「.....」


貰えるもんは貰っとく主義だしね私は。

とニヤッと笑顔を浮かべる雪代先輩。

俺は苦笑いを浮かべながら戻って来る。


そして花束を千佳に見せた。

千佳は驚愕している。

勿論だが律子さんも、だ。

それから雪代先輩は頭を律儀に下げて、お見舞いです、と言う。

その仕草は完璧に令嬢だ。


「まあまあ。雪代さん。有難う御座います」


「お気になさらないで下さい。私がしたかっただけです」


「雪代先輩。お金ばっかり使うと.....」


「.....まあ気にするな。千佳。ハッハッハ」


そうしていると雪代先輩の携帯が鳴った。

それから、すいません。.....誰だろう?、と出て行く。

俺達はそれを見送ってから律子さんを見る。


「.....でも雪代先輩、相変わらずだね」


「そうだな。確かにな。全く」


俺は額に手を添えながら.....花束を見る。

本当に大きな花束だな。

そう思いつつ眺め見ていると。

病室のドアが開いた。

それから苦笑いの雪代先輩が入って来る。


「会社の重鎮の身内が心不全で死んだって」


「.....え.....!?」


「とは言っても本当に愛情も何も感じないから何とも言えないんだけどね」


「.....それって大丈夫なんですか?」


「.....残念ながら大丈夫とは言えないかもね。.....一応、親族が来るらしいから」


俺達は顔を見合わせてから雪代先輩を見る。

心配げな顔で、だ。

だけど。

でももう大丈夫、と言ってくる雪代先輩。

それから俺達を柔和に見た。


「長谷川も居る。君達もいる。私はもう無敵だ。.....だから大丈夫だ。君達を裏切ったりしないさ」


「.....雪代先輩.....」


「私に任せてくれ。アッハッハ。.....しかしこれはちょっと厄介になるかもしれない。その時は.....ゴメン」


「.....俺達は気にしませんから。な?千佳」


「だね。いー君」


千佳と俺は口角を上げる。

全く。この8年間の中で一番最高の年だな、と雪代先輩は笑みをまた浮かべた。

それから雪代先輩は俺達に頭を下げる。

そして顔を上げた。


君達には何時も何時も本当に迷惑を掛けてしまってすまない、と。

それから暫く会話していたが。

この事があってから深刻な事態が発生した。


何が起こったかと言えば.....照魔くんがこの街から居なくなったのだ。

突然死した親族の代わりの、穴埋め、として無理矢理、連れ戻されたらしく、だ。

春香ちゃんが照魔が居ないと訴えてきて発覚したのだが。

その事に.....雪代先輩が激昂して実家に行った。

しかしこれは.....罠であったのだが.....。

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