第42話 幾ら積んでも世界は変わらないよ?

体育祭が開かれた。

それも雪と夜空の、だ。

だけどその中で.....かなり厄介な事が起こった。

俺は照魔くんと雪代先輩を見る。

雪代先輩は全く動揺もせずに照魔くんに、君は誰かな、と答える。


俺はその姿を見ながら居ると。

照魔くんが、相変わらずだね。姉さん。その他人行儀な性格も全部。どれだけ僕が心配したかも知らずに、と。

その様な言葉で照魔くんは雪代先輩を見る。

でも今日は姉さんに振り向いてもらうから、と切り出す。


「姉さん。貴方は家族を守る為に捨てたんですね。僕達を。.....それも何らかの事情で」


「.....」


「.....家族を捨てたってどう言う事ですか?雪代先輩.....?」


千佳が不安そうな顔で雪代先輩を見る。

俺も少しだけ複雑な顔で雪代先輩を見る。

雪代先輩は、うーん。何の事やら?、とすっとぼける。

明日香さんが俺を見つめる。


「何か隠してない?いっすー先生」


「.....何も隠してないけど.....」


「そう思えないな。お前のその姿。.....お前のその姿は1人で何もかもを背負おうとする姿だからな」


「.....」


俺は静かに光景を見る。

雪代先輩は俺達の姿に盛大に溜息を吐いてから。

表情を変える。

全く。相変わらずだね。照魔。何をやっているのかな、と。

本当に静かに真顔になる。


「姉さんが悪いんだけどね。1人で何もかもを解決しようとするから」


「私は悪いと思ってないからね。.....あくまで家族を守るつもりでやっていたから。何も被害は無いでしょ?だから」


「.....姉さん。それで全て終わらせて良い訳が無いよ。家族の心配はどうするんだ」


「.....もう帰ってくれない?照魔。君はこの場に居るべきでは無いからね。私は応援しに来ているだ。君に会う為にこの場所に居るんじゃないよ」


「そうなんだね。.....家族がみんな心配しているのにそんな事をするんだね。姉さん」


俺は、雪代先輩、と声を掛ける。

すると笑みを浮かべて、ん?、と向いてくる。

その姿に俺は胸に手を添える。

そして雪代先輩を見た。

それから、何かあったら言って下さい、と俺は言う。


「何も心配する事は無いよ。イスカ君。それから照魔。君も観戦しよう」


「.....そのつもりは無いよ姉さん。.....今日は連れ戻しに来たから。姉さんを」


「.....あの家に帰れって感じ?.....帰らないよ。まあ1億だろうが2億だろうが金を積まれても帰らないよ〜。.....簡単に言うと本気でつまらないから」


1億2億?

何の話だ、と思いつつ照魔くんを見ていると。

照魔くんは、つまらない、ってだけで帰らないの?、と不愉快そうな目をする。

雪代先輩は満面の笑顔を見せた。

あの家はお金で全てを解決しようとするからね。つまらない以上にゴミクズかな、と言葉を発する。


「つまらないだけで家族が納得すると思うの。姉さん」


体育祭のプログラムは進む。

それをたまに見つつ俺達は照魔くんを見る。

その中で、照魔。良い加減にして、と遂に雪代先輩が怒りのメッセージを送った。

そしてニコッとする。

うーん。これ以上言わせるなら私はキレるよ。照魔。その怖さぐらいは知っているでしょ?君も、と話す。


「それだけで帰れないよ。何時もそれで僕を置いていったよね。.....今日は違う」


「ふーん。照魔。君は何時からそんなに偉くなったのか分からないけど。私は帰らない。そして今が好きだからほっといてね」


「.....」


そして、さて。じゃあこれで解決したね。帰ってね照魔。それからみんなプログラムを見ようか!、と満面の笑顔になる。

照魔くんは、溜息を吐いてから踵を返した。

それから去ろうとする。


「て、照魔くん帰っちゃいますけど.....良いんですか?」


「あの子は帰った方が良いよ。大丈夫だからね」


それから前を見る雪代先輩。

えっと。次のプログラムは?、と能天気に、だ。

すると照魔くんが、伝言だけ伝えるね。姉さん、と言った。

それから俺達をまた見る。


「あの家の全ての相続は長女の姉さんだから。.....何時か連れ戻しに行くみたいだよ。家族が」


「まあどうあれ帰らないけどね。それでも。私は忙しいから」


「今以上に危険が及んだら父さんが直ぐ連れ帰るらしいから」


「.....大学を卒業してないのに帰れる訳ないでしょ。無茶苦茶だね」


でも姉さんは現状、危険な目に遭っているよね。

それ以上に連れ帰るのに納得する理由有る?、と言ってから。

照魔くんは帰った。

俺達はその姿を伺いながら雪代先輩を見る。

だけど雪代先輩はニコニコしているだけで何も反応が無かった。


「家がお金持ちなんですね.....雪代先輩」


「まあそうだね。でも金なんて所詮は汚いもんだよ。健介くん。アッハッハ。幾らあっても絆は買えないからね」


「でも絆は買えなくても家族の絆が.....」


「そうだね。明日香さん。でも私はもう名前も変えたし。関係無いよ。アハハ」


それから結局、何も言わなくなった雪代先輩。

そして雪と夜空が活躍する姿を一生懸命にビデオに捉えていた。

俺は少しだけ複雑ながらも目の前の演技を見る。


だが問題はここから始まった。

ご飯をみんなで食べて、表彰もされて。

紅組、つまり夜空と雪さんが居る組が勝ってからの翌日。

雪代先輩が居なくなった。

大学に来なくなった、と言った方が正しいかもしれないが。



「雪代先輩.....何処に行ったんだろ.....」


「.....そうだな」


体育祭終了後。

丁度だが3日が経過した。

その3日で雪代先輩の姿を一度も見てない。


部室もそうだがサークル活動にも姿を現さない。

そして大学に居ない。

何処に行ったかも分からない。


連絡しても返事が無い.....。

どうしたのだろうか.....。

そう考えつつ顎に手を添えて考えるが.....。

千佳が不安そうにペットボトルに入った飲み物を見る。


「こうやって付き合えたのも雪代先輩のお陰でもあるのだが.....」


「.....そうだね.....」


「.....困ったな.....」


「そうだね.....うん。困ったね.....」


千佳は涙を浮かべる。

それをゆっくり拭いてあげた。

そしてウェーブのかかった短い髪を上げながら千佳は、有難う、と言う。

それからまた俯く。

そうしてから涙をまた浮かべた。


「.....滅茶苦茶に不安だよ.....私の父親のせいで.....」


「.....だな.....」


そうしていると。

健介が、おい!、とやって来た。

ゼエゼエ息を切らしながら、である。

俺は、どうした?、と聞く。

すると.....健介がこう言った。


「.....雪代先輩な。.....大学を辞めるかもしれない」


「.....は!!!!?」


「.....え.....」


千佳が口元に手を添える。

遂に恐れていた事が.....現実になりそうだった。

この事は7年生としての雪代先輩という事もあり。


雪代先輩の人脈とかのせいもあり。

大学の中でも噂になっている様であり.....みんな顔を見合わせて噂をしている。

俺はそれらの姿を見ながら唇を噛んでから。

そして複雑な顔で空を見上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る