第31話 夢の続き
千佳の親御さんが最悪だという事が分かった気がする。
今の俺に出来る事は.....このまま千佳を毒親から逃がして何としても幸せにする。
毒親から離す。
まるでトリカブトの毒に侵される様だ。
しかし本当にそれらが最善の手であろう。
思いつつ俺は千佳を見る。
にしても本当に気分が悪いな.....畜生め。
そんな事を考えながら千佳を見る。
「.....御免ね。気分悪くさせて」
「.....何でこの場所でしかも住所を知っているのか。分からないな」
「アハハ。結局は逃げれないって事だよ。私は。.....この事は多分.....市役所辺りに聞いたんじゃないかな。住民票とか」
「.....そうだな.....うん」
ファミレスでその様に会話する俺達。
千佳は唇を小さく噛む。
まるで何かを噛み砕く様に、だ。
そんな姿に俺は.....何も言えなくなる。
カレーやパスタの香りが、カチャカチャと食器の音が耳にする中。
家族の笑い声も耳にする中だが嫌な気持ちは拭えなかった。
俺は目線だけ動かしながら千佳を心配げに見る。
「.....千佳。取り敢えずは何か注文しようか」
「.....そうだね。ずっとこのままだもんね」
「.....俺がお金出すから」
「何で!?それは駄目だよ!?」
目を見開きながら千佳はワタワタ慌てる。
いや。良いんだ俺は男だからな。
彼氏としてサポートさせてくれ、と話す。
それから現金が財布に入っている事を思い出しながら。
俺は直ぐに店員さんを呼び止めた。
「千佳。何を食べる?何を飲む?」
「.....うん。わ、分かった。じゃあ.....そうだね。じゃあ一緒に食べれるものが良いな。君が食べれるものがいい」
「.....そうか。分かった」
フリフリの姿の店員さん。
そんな可愛らしい女性の店員さんに、パスタとドリンクバーなどを注文する。
俺達と持っている機械を交互に見ながら注文を機械に入力した。
それからご注文は以上ですか?、と俺達をニコッとしながら見てくる。
本当に優しげな顔をしている為にこっちも安心する。
俺はその姿を見ながら、無いです、と断りを入れてから俺はにこやかに千佳を見る。
千佳も安心した様な顔で俺に向いている。
かしこまりました。
メニューお下げしますね、と店員さんがメニューを持って去って行く。
そして反射するぐらいに綺麗なテーブルを見てから千佳を見る。
千佳は何だか複雑そうな顔をしている。
そして涙を浮かべ始めた。
俺はビックリしながら.....千佳に手拭きを渡す。
ハンカチが有れば良いのだが.....持ってくるのを忘れた。
馬鹿だな全く。
「優しくしてくれて有難う.....ね」
「.....ショックだよな。最悪な人にまた再会したの」
「.....でも君が居るから。守ってくれるって分かったから。安心したよ」
「.....御免な。それなのに逃げる事しか出来なかったのが.....辛い」
ううん、と千佳は笑顔を見せる。
誰よりも俺は恐らく痛みを知っている。
注射で太い針を刺されるよりも。
金づちで頭をぶん殴られるよりも。
それ以上に痛みを知っている。
嫌な人に会う事の痛みを、だ。
なのに逃げる事しか出来なかったのは.....本当に辛い。
それだけしか出来なかった自分も許せないが.....良い訳になってしまうかもしれないがとにかくあの親御さんから引き離したかった。
千佳を、だ。
だから間違った選択肢をしてはいないと思う。
「.....千佳。もし良かったら.....なんだが」
「.....何?」
「俺の家で暫く退避しないか」
「.....え?.....いや。それは悪いよ。駄目だよ」
「.....説得する。俺の親も真優さんも。だから大丈夫だ」
で、でも.....、と見るからに困惑する千佳。
しかしこれ以上.....あの親の危険な元に置きたくない。
仮にも好きな人を危険な目に遭わせたくない。
俺は思いつつ千佳のその小さな手を握り締める。
両手で優しく、だ。
千佳はビクッとしながら紅潮して顔を上げる。
「.....頼む。俺はお前が好きだ」
「.....ええっと。.....えっと!」
「.....だから逃げてほしい。お前の身が心配だ」
「.....うん。そこまで.....言ってくれるの?」
「.....ああ。俺は心配だ」
じゃあお世話になろうかな.....暫く。
と千佳は涙を流しながら拭い、俺の手を軽く握ってくる。
そして俺に、エヘヘ、ととても可愛い笑顔を見せた。
今日一番の紅潮した笑顔だ。
俺はそれを見つつ.....笑みを浮かべる。
周りの目が気になるがそれでも幸せだった。
良いわねー、等と声がする。
それから普通の生活音に戻っていく。
それはまるで去って行く風の様に、だ。
「.....恥ずかしいね。でも」
「.....そうだな。確かにな。でも俺はお前が好きだから」
「.....嬉しい。とっても。こんな私で良いのかな」
「みんな俺達を祝福してくれている。だから大丈夫だ」
「.....だね。分かった.....うん!」
そうしていると向こうから店員さんがやって来た。
先程の店員さんだが料理を持って、コップを持っている。
俺達は隙間を空ける様にしてから受け取った。
お待たせ致しました、と。
それから伝票を、ごゆっくりどうぞ、と置いていく。
俺達は軽く会釈をしてからその背中が去って行ったのを見計らい。
2人同時に立ち上がる。
「あ、えっと。私行くよ。ドリンクバーだよね」
「俺に任せろよ。千佳」
「でも全部.....君に回してるよ?」
「.....構わないさ」
「.....じゃあ分かった。任せるね。私は.....君が入れたものだったら何でも良いから」
俺は、じゃあジュースでも入れてくるな、と断りを入れてから。
そのままカツカツと地面を鳴らす様にして歩き出す。
そして.....俺はドリンクバーのスイッチを押した。
オレンジ色のジュースが注ぎ込まれるのを.....俺は複雑な顔で見る。
千佳を救いたい。
その一心の気持ちで.....見つめる。
俺は.....千佳を愛しているから、だ。
「みんなに任せられたってのも有るしな。何とかしないと」
思いつつ俺は.....オレンジジュースを見る。
注ぎ込まれたオレンジジュースはまるで夕日の様で。
何だか.....切ない感じがした。
思いつつ俺はそのまま首を振ってから紅茶を注ぐ。
そしてそのまま戻って来ると。
ニコニコして千佳が待っていた。
礼儀正しく、だ。
「千佳。お待たせ」
「ううん。待ってないよ。全然大丈夫」
「.....そうか。有難うな」
「.....オレンジジュースを入れてくれたの?.....嬉しいな。好物だから」
「.....多分昔の事を思い出した」
え?、と千佳は俺を見てくる。
俺はその顔に答える様にニコッと笑みを浮かべる。
それから椅子に腰掛けてから.....説明した。
昔の記憶。
つまり.....俺達が幼稚園時代に共に居た記憶だ。
それから俺は顔を上げて千佳を見る。
破片的だが思い出した。
「千佳ちゃんはオレンジジュースだねって思い出した」
「.....そうなんだ。いー君.....」
「.....懐かしいよな。そういうの」
「うん。全部が輝いて見えるから」
「.....そうだな。互いに色々あったけどな」
クスクスと笑い合う俺達。
それから俺は薄茶色の飲み物を見ながら懐かしみそのまま飲む。
そうしてから千佳を見つめた。
千佳。食べようか、と、だ。
すると千佳は赤くなりながら俺を見てきた。
「食べさせて」
「.....え?」
「.....はい。フォーク。ね?」
「.....お前.....マジか」
「うん」
小さな口を開ける千佳。
俺は赤くなりながらそれを見ながら。
トマトパスタを巻き込んでからそのまま千佳に優しく食べさせた。
するとそれをゆっくりと受け止めて噛み絞める様に咀.....なんかエッチな感じだが。
それを飲み込んだ。
「.....美味しいか」
「.....うん。君と一緒だからとても美味しい」
「.....恥ずかしいなオイ」
「君が居るから。.....愛してるよ。いー君」
「.....」
えへへ、と笑顔を見せる千佳。
何だか日が俺に照る様な感じだ。
此処は室内なのに、だ。
だけど何だかカーッとなって暑い。
詳しく言うなら暖房ヒーターを身体に巻き付けている様な。
そんな感覚だ。
でも目の前の眩しい笑顔のせいかもしれない。
それらは、だ。
それから髪をかき上げてから俺を見てくる。
フォークを手に取った。
「じゃあいー君の番」
「.....オイ冗談だろ。みんな見ているぞ」
「覚悟するんだよ。アハハ」
「.....」
ニコニコする千佳。
この子に巡り合った事。
それが一番.....そうだな。
俺の人生でかけがえの無い話だ。
もう二度と無いだろう。
こういう子との出会いは、だ。
その様にふと考えながら。
今の全ての幸せを全身で水をぶっ被る様に感じながら。
受け止めてみている。
でも溢れてしまうな、心の器から。
幸せが、だ。
「千佳。一緒に居てくれて有難うな」
「.....それはこっちの台詞だよ?有難うね。いー君」
「ああ。みんなの分も幸せになろうな」
「だね。うん」
目の前の料理を見ながら考える。
その溢れる幸せの波を絶対に壊させる訳にはいかない。
この先どんな運命だろうが.....どんなジョーカーが切り札で出ようが。
俺は千佳を守ってみせるとその様に誓った。
何故ならそれがみんなからの願いだから、だ。
思いつつ俺達は.....料理を嗜んだ。
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