第30話 悪魔の化身
此処まで来るのには相当な日数と色々な人達の出会いがあったと思う。
失ったものもあった。
得たものもあった。
その中で俺は保健室の先生に初恋をしたが保健室の先生は結婚していて失恋。
それから今までずっと生きてきた。
本当に色々な事があったと思う。
まるでそれは.....扉を開ける、開けられない様な感覚だった。
何というか俺は生涯これを機に恋をしないつもりで居たのだが。
いつの間にか.....だった。
それは運命と言える赤い糸で.....千佳に恋をしていた様だ。
千佳というのは大学時代、幼稚園時代を一緒に過ごした女の子。
丁度、千佳も俺が好きな様だった。
俺は.....そんな千佳を見る。
「じゃあどう行動しよか?これから。いー君」
「.....俺はちょっと用事がある。席を外すけどすぐ戻って来る。ちょっとだけ時間をくれないか。ごめんな。デートだっていうのに」
「え?そうなの?構わないけど.....じゃあ分かった。私は自由に見て回ってるね」
本当に良い子だな、千佳は。
こんな無理なお願いを聞いてくれるなんて.....、と思う。
千佳は、えへへ、と笑顔を見せる。
可愛らしい笑顔だ。
こういう理解が出来る子が.....俺の好きな人。
それだけで何だか嬉しい気持ちだった。
時間はそんなに無いな。
急ぐか。
俺は思いながら直ぐに駆け出してく。
家電量販店に、だ。
何というかそのまま待たせる訳にはいかないしな。
取り合えず。
「.....ここか.....」
見上げてみるとそこに家電量販店が有った。
俺は直ぐに店内に入ると.....何故かそこに雪さんと明日香さんが居た。
ビックリしながら見開く。
それから先回り成功、的な感じで俺を見つめてくる。
雪さんが言葉を発した。
「やっと来ましたね。いー先生」
「来た来た。いっすー先生」
「お前ら.....何しているんだ?」
「千佳さんの為に先回りしておススメの家電を選んでいました。いー先生はこの場所に来るだろうなって思って」
「.....そんな事しなくてもいいのに。.....時間が掛かるだろうに。俺が自分で.....」
雪さんは首を振った。
それから、いえ駄目ですよ。
みんなで千佳さんを助けるって約束しましたよね、と俺に笑みを浮かべて向いてくる雪さんと明日香さん。
何だか涙が出そうだった。
そして雪さんが早速、的な感じで指差す。
「これですね、炊飯器ですけど.....安いんです。こっちはヒーター。こっちは.....」
「そうそう。安いんだよね」
「.....雪さん。明日香さん」
「.....?」「?」
俺は拳を握りながら.....2人を見る。
そして顔を顰める。
本当に.....すまないという感じで、だ。
2人も好きなのにな、俺が。
思いつつ、だ。
「私達の事は気にしないで下さい。千佳さんが幸せになるのが一番です」
「そうそう。いっすー先生を取られたのは悲しいけど.....千佳さんには勝てないからね」
「.....有難うな。お前ら」
「.....私達は.....貴方の幸せを第一に願っています。だから.....です」
「.....」
だから今は私達にお礼とかそんな事をしている場合では無いですよ。
今はデート中ですしね。
早くしましょう、と雪さんが明日香さんが俺の手を引く。
俺は頷き、そうだな、と返事をした。
そして、じゃあ行きましょう、と直ぐに目標の場所まで連れて行ってくれた。
「いっすー先生」
「.....何だ?明日香さん」
「.....私は負けたけど.....でもそれでも幸せになってほしいから。頑張ってね」
「私もそうです。私も幸せを祈っています」
俺の手を引きながら2人は少しだけ悲しげな顔をしながらも願いを込める様な顔で俺を見てきた。
その顔に、そうだな、と頷く。
それから2人の頭に手を添える。
そして笑みを浮かべる。
「.....本当に有難う。.....お前らに出会えて本当に幸せだよ。俺」
「私達はいっすー先生に色々教わったからね」
「そうだね。明日香さん。だから恩返しだよね」
「.....俺は教えただけだ。.....それ以外は何もしてない」
「それが私達の全てになっているんです。血肉になっています」
負けたのは本当に残念ですが.....いー先生は良い人に巡り合えた筈です。
私達は見守っていく側になりました。
そしていー先生は過去を乗り越えていっている。
それは凄い事だと思いますよ、と笑みを浮かべた雪さん。
俺はその姿を見ながら、そうだな、と返事をした。
「だから愛している人を救ってあげて下さいね」
「心からの私達のお願いだよ。いっすー先生」
「.....ああ。だな」
今は本格的にとても苦しい状況下にある。
だけど.....乗り越えられる。
そう。雪さん達が居るから、だ。
みんな支えてくれている。
「それはそうと何を選びます?」
「.....ヒーターとか選んでも良いかもしれない。扇風機とか使えるだろ」
「.....そうですね。確かに」
「扇風機かー。暑がりの私には必須だね」
「もー。明日香さんじゃないよ」
ケラケラ笑う2人。
何時の間にかみんな繋がっていっている。
そして今に至っている。
これだけでも世界は変わって見えるな本当に。
思いつつ俺は笑みを浮かべる。
「ヒーターと扇風機持って行きましょうね」
「俺が持つよ。すまん」
「良いから!先生は何もしない」
「そ、そうか」
俺は手を引く。
そんな感じで.....持って行ってもらう。
それからレジで精算を済ませて.....としていると。
店員さんが俺に向いてきた。
「此方は配送しますか?」
「.....あー。そうか.....何方が良いですか?」
「配送の方が良いとは思います。私達が無料で配送致しますよ」
「.....じゃあお願いします。住所は.....」
そして2人が見ている中。
俺は全ての手続きを終えてから.....2人を改めて見た。
2人はニコニコしている。
俺は.....少しだけ目線をずらす。
そして真正面を見た。
「.....何か必要な物は有るか?お前ら」
「え?」
「?」
「.....多少はお礼をさせてほしい。良いかな」
顔を見合わせる2人。
それから、今は要らないです、と断りを入れた。
だが直ぐに、だけど、と言葉を発する。
それから俺を見上げる。
「今度でも私達の女子会のお茶会に付き合って下さい。それで.....チャラで」
「オイオイそれは本気か.....」
「マジです」
「.....そ、そうか。分かった」
女子会って女子しか居ないんじゃ?
俺は場違いな気がするが.....と思ったが話がどんどん進められていた。
まあ良いかと思いながら見る。
すると雪さんが、私達は適当に見て回って帰りますね、と俺の手を握った。
「じゃあね。先生」
「それでは」
「気を付けて帰ってな」
俺は雪さんと明日香さんを見送ってから。
そのまま戻って行く。
すると.....千佳が中年の男の人と話していた。
千佳は困惑している。
「千佳?どうした」
「あ.....えっと.....」
「.....君、何だい?千佳の彼女か何かかな」
「.....貴方は誰ですか?」
「.....千佳の父親と言えるね。久々に千佳を見つけたから連れて帰ろうと思ってね。.....自宅に、ね」
俺はゾクッとした。
この人は.....千佳の親父さんって事か!?
それってパチスロの借金塗れの!?
俺は直ぐに表情を変える。
「.....私は帰らない。お父さん」
「駄目だ。帰るんだ。千佳」
「.....だって貴方は私の人生を食いつぶしたじゃない!」
「だから?」
「.....え.....」
俺の人生経験で言えば。
ニコニコはしているが絶対にこの人は良くない。
そう思ったら本性が出た。
どういう本性と言えば.....その、だから、で、だ。
千佳の手を握るのが強くなる。
「帰るんだ。君の居場所はそこしかないからね」
「いや.....だ!」
「オイ!」
流石の俺も堪らず声を掛けた。
俺をニコッとしながら見てくる千佳の親父さん。
悪魔の化身の様な顔をしていた。
ニコニコしながら.....全く感情を込めてない。
本当に悪魔か。
それから手を引っ張って笑顔を見せる。
通行人が立ち止まって何事かという感じになっているが。
そんな事も気にしないで続ける。
「君は何だい?一体この娘の何だって言うんだい?放って置いてくれないか」
「.....俺はその子。千佳の彼氏だ。パートナーだ。だから触るな」
「い、いー君.....?」
「.....千佳。行こう」
そして俺は千佳の手を引いた。
それから歩き出す。
だが後ろから、分かった。まあ今は見逃すけどね。それでも住所とかは知っているから~、と笑う声がした。
俺は.....その言葉に困惑しながら歩き続ける。
そして立ち止まる。
「.....千佳.....大丈夫か?」
「.....うん.....馬鹿だな。逃げれば良かったのに凄く怖い.....どうしよう.....」
「.....」
ビクビクしながら肩を震わせ青ざめている千佳。
俺はその姿を見ながらこの先どうしようかと思いつつ顎に手を添える。
それから考えてみる。
果たして.....俺はどう介入するべきか。
取り敢えずは.....対策を、と思うが.....新しい脅威だな.....。
住所を知っている。
気持ちが悪いな、クソ。
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