邂逅

「護身用でごわす」

刀は滑るようにその腰元に収まる。

「護身て」

「あなたのような方でも…身を守ることが?」

「嘘だろ…」

無論嘘ではない、そういう顔をして力の士はつぶやく。

「護身とは己だけではなく、相手もまた護ってこその護身ゆえ」

「ちょっと待った!」

双葉が言う。

「て言うことは…あんだけ破壊的な実力のある相手を襲うようなのがまだこの街にいるっていうわけ…?ですか?」

「ねがてぃぶにごわす」

士の顔は険しい。

「わしの武勇などこの街においては大河の一滴。だれも知らぬ。ゆえにただのでかい的であるわしが道を歩けば日を置かずに若者がけんかを挑んでくる」

「あーなるほどデブだから」

「ッ失礼!!!」

「ねばまいん」

満面の笑みで、とろけるような顔(脂が)で士は謙遜した。

「わしの肉はいくさに備えてのものゆえ落とすことはできもうさぬ。しかして生活には変えられず往来を行きますし、経済的には徒歩が良いのでなおさらわしは目立つ。そのため慣れぬ刀を帯びておかねばなりますまい。ゆえに護身です」

如何程も年を重ねておらぬ肉達磨であったが、その言葉には信念と気遣いとサムライゆえの思慮深さがあった。

力持つ士。巨大な体躯。破壊力。武士の魂たる刀。精神性。

力士である。

この街で最強の人間は相撲取りであった。

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