クレイジー・ダイヤモンド:歪んだ金剛石( 終戦)

《ルビを入力…》ダイヤモンド[1](英: diamond [ˈdaɪəmənd])は、炭素(英: Carbon すなわち C)の同素体の1つであり、実験で確かめられている中では天然で最も硬い物質である。

日本語で金剛石(こんごうせき)ともいう。ダイヤとも略される。(wikipediaより)


人類の知る最も硬い物質。

しかしその印象にそぐわず、たやすく砕けることもまた知られている。

また砕けてもダイヤモンドはダイヤモンド。破片でもなお固く、なお貴く。

あるいは裂けても分けても高貴であるその様こそが「最硬」の証なのかもしれない。


また砕けることこそが固さの条件ですらある。

ただ固いことが己以外を守ることはない。ゆえに最も固いということは誰も守らないということでもある。ダイヤモンドの騎士はその実、騎士たるには疑問があるのだ。

しかしダイヤに限らず破片は鋭いものである。ダイヤならばなおさら鋭利だろう。

ゆえにたやすく砕け、目の眩んだ者を例外なく傷つける。

あるいは傷つけられた者たちが口々に最硬を唱えたのではなかろうか。


ダイヤは知りもしない。

ただただ輝き、主の代わりに砕けるのみである。


しかし進化はダイヤモンドの歴史に新たな傷を刻む。

歪んだタイヤモンド。

歪むことを許された、柔軟性を併せ持つ究極の金剛石。


それは『可能性』の結晶としか言いようがなかった。

最も固く最も高価でほんの少しの冗長性を与えられた、人々が望む唯一の希望。

『完璧』の体現として。


「…この刀には、銘をつけないことにしている」

火の神は押し殺した声で言った。諭すように、脅すように、子供を躾けるように。


「ただの験担ぎだ。

…それがこのような形で役に立つとは…

…正直、予想していなかったと言えば嘘になる。そのための無銘だ」


刀。

その芸術的価値、刃物としての完成度、そして『武器』としてのいびつさが

現代においても人を魅了して止まない、その姿はまるで宝石のよう。


「嘘だ。

なぜ、この”騎士”が、名もなき刀ごときに敗れるというのか。

言え。

名を。

銘を。

私は敗れた。勝者は名乗るべきだ。この神聖な戦いを終わらせるために。」

地に伏す骸が呻いた。

その体躯は生前と比べてまるで細く、2つに別れていた。

硬く、高貴。ゆえに割れた、まさしくダイヤモンドだった。


「神聖と言ったか、恥知らず」

プロメテウスはなおも声を押し殺した。

「ならば問おう、何故お前は死ななかった。

主あらば共に或ろうなどとは愚問。騎士を名乗りたくば先に死ね。

その”権利”がありながらお前はおめおめと生き恥をさらしにここに来た。

強かったからか?硬かったからか?お前さえ生きていればどうとでもなると?

違う。お前が恥知らずだったからに過ぎん」


「愚弄するか、貴様」

骸は激高した。

いのちすらなく、めいすらなく、みことすら無くした彼女に最期に残されたもの。

魂を。

騎士の道を否定され、誰が激怒せずしていられようか。


「愚かだから愚かと言ったまでだ。

そしてだな、俺は愚かであるのもいいと思うぞ。

愚直であれば疑わん。今のお前のように”騎士”のまま死ぬには都合がいいだろうな。

そして、歪んだ金剛石は愚か者ですら騎士にする。

…これ以上は、言うまでもないだろう。」


「私を…騎士と」


「そうとも、恥知らずの騎士よ。

ゆえに大義は果たされたと見ていい。今なら苦しまずに逝けるぞ。

そもそもお前などオマケに過ぎん。俺とて単に余興と思って付き合っただけだ。」


もはや言葉は意味をなさぬ。

そう感じた彼女は最後の力を振り絞り、唯一の武器である破片を投擲した。

破片。

最も硬い、最も鋭い、最も高貴で”まれ”な刃。

ダイヤモンドの騎士の骸。戦いに敗れた戦士の魂そのものだった。


それは空中で蒸発した。


それは喉元めがけて正確に、究極の速度で放たれ火の神を殺めるはずだった。

しかし炭素の塊として焼却されるに過ぎなかった。

それほどまでに炎は高温で、戦は灼熱で、その予熱はダイヤを焼くに十分すぎた。


あとに残ったのは、硬さも鋭さも高貴さも失った、しかし美しい骸だけだった。


恥を知れShame-on-you、クレイジーダイアモンド」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る