部活


「で、だ。あの転校生二人がボランティア部入部希望か? ……羽柴ぁ、お前が面倒見ろよ? 早川の時といい、全く世話好きな男だな」


 明美ちゃんはぶっきらぼうに言い放った。

 俺は渚と伊集院の入部届けを持って、顧問である明美ちゃんに報告をしに職員室へやってきた。

 明美ちゃんは俺と理央の担任の先生だ。

 目つきが鋭く、地元と鯵とジャージをこよなく愛する元ヤンである。


 明美ちゃんはぼさぼさの頭をガリガリとかきながら俺に言った。

 うん、化粧して身なりを整えたら恐ろしく綺麗なんだけどな。


「お前は早川以外とつるむとは思わなかったな。……俺が何度も言っただろ? 仲間は命よりも大切なんだよ。あれは俺が学生の頃――」


「あ、昔話は勘弁して下さい。それじゃあ、あいつらが待ってるんで」


 明美ちゃんの昔話は長くなるから……。

 俺は明美ちゃんの言葉を遮って席を立とうとした。


「お、おい! 寂しいだろ!? 全く最近の若いもんは……。まあいい、さっさと行って来い」


「うっす」


 職員室は居心地が悪くなる。

 俺は過去に色々問題を起こしたから、明美ちゃん以外の先生からの視線が痛い。

 俺は早々と職員室を出た。


 ……なぜか明美ちゃんも俺を後を付いて来た。

 放課後の廊下は誰もいない。


 明美ちゃんは、さっきまでの無愛想な表情ではない。

 まるで自分の子供を見ているような優しい笑顔であった。


 明美ちゃんは俺の肩に手をそっと置いた。


「羽柴、友達が増えて良かったな。おめでとう……」


「……はい」


 全く反則的だ。

 こんな顔をされたら素直な返事をするしかない。


 俺は廊下の階段に視線をやると、隠れて待っていた三人が頭を出した。

 心配そうに俺を見ている。


 先生は俺の背中を無言で押した。

 俺はみんなの元へ歩き出した――





 **********************




「改めてよろしくお願いします。葵……いえ、ゆーさく……君?」


「優作でいいぞ。渚」


「優作……、うん、優作ね!」


 無事に入部届けを出した俺たちは放課後部室に集まった。


「にしし、入部おめでとう、渚ちゃん、伊集院もね」


 俺たちは昨日のあの後、少しだけ話し合った。また放課後ここで落ち合う。

 それだけ決めて俺たちは帰宅した。理央以外、誰もが感情が追いついていなかった。

 だから心を休める必要があった。


「あ、ああ、わ、私に友達ができるなんて……うぅ……」


 俺と渚にとって公園が思い出の場所であった。

 だから、渚が大切と思える場所を作ろうと思った。


「優作、ここが新しい遊び場でいいのかしら?」


「そうだ、何かあったらここに集まる。何も無くてもここで過ごす」


 あの時と一緒だ。同じ時間、同じ場所で出会う事ができる。


「にしし、ゆーさく良かったね。大好きな渚ちゃんと仲直りできてさ」


 理央は机の上に座って足をぶらぶらさせていた。

 あの時の理央の言葉がなかったらこの状況は起こり得なかった。


 本当に感謝している。


「ああ、ありがとな」


「どうしたしまして。ねえ、早速本題に入ろっか? にしし、お菓子も持ってきたから歓迎会も兼ねて一杯話そ!」


 理央はバッグから大量のスナック菓子を取り出してみんなに配り始めた。

 そして、ポテチをポリポリと食べ始めた。


「これってどうやって食べるの? 伊集院、開けてくれる。あっ、たまには私がやるわよ」


「な、渚ちゃん……、わ、私が……」


「うんしょ、うんしょ……、固くて開かないわ……」


 俺は渚のポテチの袋を取って、開けてあげた。

 渚は満面の笑みを俺に浮かべる。


「へへ、優作ありがとう」


「ああ、良いってことよ――」


「はいはいー、そこ良い雰囲気作ってないで、本題話すよ? ――渚ちゃんの心について」


 伊集院は驚いた顔で理央を見つめた。


「そ、それはいきなりすぎる。もう少し様子を見て――」


「司、いいのよ。必要な事よ? 私は……葵ちゃんの思い出だけで生きていたわ。……あなたにも冷たい言葉ばかり言っていたわ。ごめんなさい。――言葉で心が変わるなら……変わりたいわ」

「渚……」


 伊集院は沈黙した。

 理央は続ける。


「うんじゃあ、整理するね。渚ちゃんは心を開かない。感情が希薄……というよりも葵ちゃん以外の他人がどうでもいい感じだった」


「ええ、そうね。葵ちゃん以外はどうでも良かったわ。……長く付き合っていた司に対しても、葵ちゃんだった羽柴優作が話しかけてきても……」


 今の渚からは感情が感じられる。初めて会った時のように友達が出来て嬉しい反面、気持ちを持て余しているようであった。

 伊集院に対して人材という言葉を使うくらいだ。

 本当に感情がなかったんだろう。


「今はどう?」


 渚はゆっくりと俺たちを見渡して考え込んでいた。


「……うん、葵ちゃんと初めて会った時みたい。友達が出来て嬉しかったわ。もちろん葵ちゃんは特別だけど、葵ちゃんの友達なら、って思ったわ。司に対して新しい友達という目で見ることが出来たわ」


「にしし、そうだね。私達友達になったばっかりだもんね。友達の信頼度、好感度は無いしね」


「ええ、でも、ゼロとイチの違いは大きいわ。葵ちゃんの友達、葵ちゃんだった優作……」


 渚にとって俺は葵だった優作。

 なら簡単だ。


「渚、またイチから関係を築きあげればいい。今度は時間があるんだ。だから――」


「にしし、一緒にたくさん遊べばいいよ!!」


 理央は渚に抱きついた。理央なりのスキンシップだ。

 渚は困惑した表情であった。


「え、ええ? わ、私……」


「にしし、友達ならハグするのは当たり前だよ! ほら、伊集院も」


「な、に? そ、そうなのか?」


 伊集院は俺の方をチラチラと見ていた。

 おい、ちょっと待て? 


 伊集院はジリジリと俺に近づいて来た。

 なにやら興奮した顔付きである。


「しからば……、私は……」


 俺と伊集院が見つめ合っている時、誰かが部室の扉をノックした。

 ガラガラと扉が開く。


「す、すみませーん、ボランティア部はここで……、え!?」


 ん、なんで時任さんが?

 時任さんは目を丸くして驚いていた。


 抱き合っている渚と理央。

 伊集院が俺に熱い視線を送っている……。


「あわわぁ!? す、すいません! ま、間違えました!!」


 時任さんは真っ赤な顔をして扉を閉めてしまった。


 扉越しから声が聞こえる。


『ムリムリ、あの雰囲気の中入れないよ……片桐さんいるし!』

『大丈夫だって! 時任さんならイケるっしょ!』

網子あみこ、あんた勇気出すんでしょ? ていうか、彼って片桐さんに振られたんでしょ?』

『あたって玉砕よ、網子!』



 理央は渚から離れてトコトコと扉に近づいた。

 扉を開けて顔だけ出して時任さんに言った。


「にしし、時任さんはまた今度ね。もう少しごちゃごちゃしたのが落ち着いたら」


「は、はひ!! さ、さよならです!」


 時任さんと友達の足音が遠ざかっていった。

 理央は再び俺たちに向かい合う。


「じゃあ、何して遊ぼっか!」


 こうして、俺達は四人はボランティア部の活動を開始する事なった。





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幼い頃に大切な約束をした幼馴染に振られた俺は、思い出を忘れて友達と仲良くしたい。女友達を絶対応援したくなるラブコメ うさこ @usako09

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