Episode 4.2

 リィカに促され、一行は街の中にある巨大なディスプレイの前へと向かった。

「ちょうど今から記者会見が行われるところデス」

「記者会見? 一体なんの話だ?」言われるがままに来てみたはいいが、アルドたちはまだ状況をよく掴めていない。


 そうこうしているうちに、なにやら緊急生中継と題された映像が流れ始め、女性が話し始めた。「先程発表されました今年度のエルジオン映画祭大賞作品の監督である、カネヴィン氏へのインタビューを生中継でお送り致します」どうやら映画監督に話を伺うらしいということはアルドにも分かった。そして、紹介された映画監督という男を見てアルドは、いや、全員が驚嘆した。


「あ、アウイル!?」


 つい昨日、アルドの時代で会ったばかりの男がその映像には映っていた。いや、よく見ると別人であることは分かる。顔は非常に見ているが、その佇まいはこの時代の人間のものに他ならなかった。

「あの人物こそ、ヒライス氏の息子であるカネヴィン氏デス。事実上、アウイルさんとは異母兄弟ということになりマス」

「異母兄弟って言ったって、ここまで似るもんなのか!? ほぼ同一人物じゃないか」アルドは目を見開いて確認したが、本当にそっくりだ。


「カネヴィンさんは弱冠20歳にして、初の監督・脚本のみならず、主演までご自身が務め、映画『遠い未来の君に』を制作なされました。そして今年一番の大ヒットを記録し、今なお記録を更新し続けているのは記憶に新しいですね。この度はエルジオン映画祭大賞の受賞、おめでとうございます。今の率直な感想を是非ともお聞かせ下さい」

「ありがとうございます。先ずはこの映画に携わった全ての出演者・スタッフ、そして劇場に足を運んで下さった観客の皆様に感謝を伝えたいです。決して僕ひとりでは成し得ない、関係者全員で作り上げた一本だと言えます。本当にありがとうございます」

「声まで似てるな・・・」思わずぽろっとこぼしてしまうくらい、アルドにはその男がアウイルそのままに見えた。「いや、それよりも、『遠い未来の君に』って、アウイルが書いた作品と同じ名前じゃないか!!」


 監督の回答は続く。「また、今作には僕の家族、ひいては祖先の存在が不可欠でした。既にご存知の方も多いでしょうが、この物語は冒険家であり作家であった僕の遠い祖先が記した古典作品で、当時から大衆に親しまれていたものです。同じく作家であった僕の父が研究し、現代風に編集したものが脚本の大元となっております」

 それを聞き、アルドたちはハッとした。

「父は・・・」少し言葉を詰まらせそうになりながらも続ける。「僕が幼少の頃、不慮の事故で行方不明となってしまいました。未だに見つかってはおりません。幼い頃から父が書いた本で読み書きを勉強し、父の作品に登場する冒険家にいつかなるんだと夢を語っておりました。しかし、事故に巻き込まれそうになった僕を助けてくれた父は、その後行方が分からなくなってしまいました」監督の話をインタビュアーの女性が悲哀に満ちた顔で聞いているのが映像で伺える。


「もし父が何処かで元気に暮らしているのであれば、こうして立派に成長した僕の姿を見せられたかと思うと感無量です」

 黙って聞いていたエイミが、ぽろっと涙をこぼした。

「いいや」監督はちょっと涙ぐむ姿を見せたかと思うと、向き直って「父はきっと立派だなんて思わないでしょう。『親父の目を気にしてなに言ってんだ。お前の人生は、お前がやりたいように自由に生きろ』そんな風に笑い飛ばすんじゃないかな」監督も笑い飛ばすように言った。

「お父さんに会ったら、なんと伝えたいですか?」

 女性の問いに、カネヴィン監督は笑顔でこう答える。


「父さん。あの時助けてくれて、ありがとう」


 エルジオンの空には今日も青空が広がる。

 あの日父と並んで見たのと同じ青空が――。

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