第24話 棚岡隆也とハル先輩-4

心境に変化は起きたものの


其れを指すものが何かも知れず


具体的には別段変わりはなく過ごしていた


強いて言うと


「お互い今年で卒業だねぇ」


と、言うハル先輩の言葉で


進路を少し考え始めたことくらい


進学するか就職するか


早々と5月の進路調査を機に少し考えた


「高校くらいあたしでもいってるんだから、ちゃんと雪君も行きなよー」


そう言われなんとなく、進学の方向で検討を始めた


結構ハル先輩と学校をサボったりしてるが、成績はそこそこ悪くないのである程度の進学先は、苦労せずともありそうだった


「そういえばハル先輩は大学ですか?就職ですか?」


決めているものだと思ったが意外な返答が返ってきた


んーまだちょっと考えてて

誰にもいってない、と


ハル先輩は成績がいい


出席日数は問題だけど、空手にバンドにバイトに遊び、全部を全力で楽しみたいから追試など時間の無駄と、テストは上位をキープしていた


たまに勉強をみてもらってるおかげで、僕も出席日数や勉強時間は減ってるのに成績は下がらないという不思議な事が起きていた


夏休み前には、地元の高校に進学をほぼ決めて、問題なく受かるだろうと受験を気にせず夏休みを迎えた


兄貴やハル先輩のライブを見に行ったり

クラブに行ったり

たなりゅーは2年にしてレギュラーな為、部活が忙しくてバーベキューにしか参加出来なかったが、うちの庭で皆でバーベキューしたり

遊び尽くしていた


夏休みの終わり際、それは不意に訪れた



ハル先輩に地元の祭りへ行こうと誘われた


この夏はなにかと大人数で出掛ける事が多かった


だから忘れていた、変化を


甚兵衛を着て支度していると、兄貴がゴロゴロしていた


「兄貴、なにしてんの?早く支度しないと」


「ん?ああ。今日は誰も行かねーよ。2人で行ってこい。ほりゃ」


そう言い1万円を手渡していた兄貴


オールでもしてこい、と


誰も行かないってなんで急に?


たなりゅーに電話をかけた


夜なら練習も無いだろうし、たなりゅーも来るはずだと思って


「お疲れっす。え、俺バスケ部のマネージャーと行くんでー、まあマネージャーハル先輩と面識無いし別で行きましょ、ハル先輩もそのほーがいいと思うし。」


「え、なんだよそれ」


「お兄さんなんかゆーてました?」


「兄貴が?なんで?」


「ふーん、ほーん。まあハル先輩から聞いたらよろしおま。あ、お兄さんに祭りの小遣いもらったんでお土産買ってくんで、雪君買わないか被らんよーにしてくださいねーんじゃっ」


「え、どゆこと?」


「あ、もう待ち合わせなんでほんなら。会っても一緒にまわるってのは絶対言わんで下さいね」


そう言うと、通話は切れた


「おーい、雪。ハル来たぞー」


なにがなんだかの所にタイミングをはかったかのようなハル先輩のお迎え


うちからの方が祭りの会場に近いから、うちから行くことに予定していた


浴衣姿でリビングに佇むハル先輩を見て驚いた


いつも見てるはずなのに


改めて、驚いた


そもそも武神とか物騒な通り名がついた大元にあるのはその容姿から告白するやつが後を絶たないってわけで


つまるところとんでもない美人なわけで


とんでもなく似合っている浴衣姿を見て改めてとか、普段の僕の視力はどうなっているのだろうと疑問に思った




当たり前にいつも居るけれど


僕はなんでこんな人と一緒にいるのだろう


たなりゅーとの会話が頭をよぎった



僕がいる


じゃない


なんでこんな人が僕と居るんだろう


それだ




「おー、ハル似合ってんな。って似合わないわけなねーか。でもそれだとあれだな、ナンパ野郎に回し蹴りできねーな。」

兄貴は軽く笑った


「もぉ先輩、なんでその前提なんですかっ」


「雪、今日は代わりにお前がやってやれよー。」


僕とたなりゅーは春休み、夏休み、何度か先輩の指導する空手の練習会に参加していた


防具ありとはいえ、直に先輩の放つ技を受け体で覚え、かじった程度には出来るようになった


たなりゅーに至っては、短期間で先輩が合格を出す上段回し蹴り、胴回し回転蹴りを身につけた


高身長に足が長く、並外れた運動神経とバスケによる動体視力、格闘技をやらせても逸材のようだ


「そんな物騒な状況にならない事を祈るよ。先輩行きましょう」


僕はひらひらと兄貴に手を振り玄関へ向かった


玄関を出るまでに平常心を取り戻さねば


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