晴れ渡りのリリィ・ライゼ
阿部藍樹
第1話 シエラトゥール第3階層・東の大島――リリィ・ライゼ15歳、旅立ちⅠ
街の島渡りギルドに申請を出して一週間。明日だ、明日だ、と思うと、いつもは夜になればぐっすりの私でも、さすがに上手く寝付けなかったのでした。
ついに、いよいよ、初仕事の時です。
緊張している時ほど、日々の行いを当たり前に。遺憾ながら、結構(いや、相当?)うっかりなことを自覚している私ですから、朝の準備は時間に余裕を持って。
いつもの通り、顔を洗い、朝ごはんを済ませ、歯を磨き、髪を梳きます。風に乗るには邪魔だから(そして手間がかからないから)と、同級生たちが伸ばしたり巻いたり、横目に見ながら我慢して保ち続けた、ショートカットのおかっぱ頭。それも今日ばかりは誇らしく思えます。
「父さん、母さん。私は今日から島渡りになります……信じられないかな? 多分、本当だって知ったら、びっくりするよね? ……直接話せる時が、楽しみです」
毎朝毎晩、欠かさず語り掛けた、父さんと、母さんと、私の写った写真立て。私たち家族三人で行った、数少ない贅沢にして、今や唯一、私の手元に残った二人の姿。迷いに迷って、私はそれを置いていくことにしました。
なんというか、願掛け。またちゃんと、家にただいまって、帰って来られるように。
それにもう、この写真の姿は私の中に焼き付いていました。見るまでもなく、細部まではっきりと、目蓋の裏に浮かび上がります。もし二人をどこかで見つけたとして――7年分の加齢もきっちり補正して、一目で分かる自信があります。
チェストの上の写真立てを、そっと倒しました。
服を着替えます。学校で使っていたカーキ色の飛行実習服(本当はかわいい飛行服を着たいけれど、お金が無いので今は我慢……それに校章入りで身分保証も兼ねてるし、外見より実用性実用性)に、飛行帽とゴーグル、自前の
編み上げのブーツの紐をぎゅっと締めて。
「行ってきます!」
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