孤独と一人ぼっちに大差なんてないよ。

「、、、」

にこは黙りこくって、壊れてしてしまったかのように一点だけを、

自分の手元だけをじっと見ている。

気に障ることを言ってしまったと感じたあずさは慌てふためいて、

「あ、や、あの、ち、ちがうんです。あの、どっちかっていうと、その、

えぇっと、、、」

何か話題を変えようとするも、何も出てこないあずさは、うれた桃のように

赤かった顔をさらに赤くする。

ふと、そんなあずさに、にこが微笑み返して聞き返す。

「あはは、、誰かに何か言われたの?」

にこは怒っても、悲しんでもいなかった。

ただ、ちょっとだけ、声のトーンは落ちたけど。

「みんなが、みんなが言うんです。あなたが孤独だって、孤独な科学者だって。

地下の住人も、地上の学校の子も。」

あずさは科学者の顔を見ることはできなかった。


「へぇ、、、なら、なんで私にかまうの?」

にこは相変わらず優しい声。

「僕、悔しいんだよね、なんか。自分の住んでる町の人のこと、悪く言われると。

なんでもみんなうわべだけで決めつけて、表面上しか見てないの。それがなんか、

むかむかする感じがして。」

そして、今まで俯いたり、斜め下の方に視線をやったりして、にこと

視線を合わせなかったあずさは、なにかに決心したかのように顔を上げ、

にこと目を合わせて言った。

「僕ね、会って、そして言ってあげたくなったんだ。あなたに、にこさんに、、、

その、、、『あなたは孤独なんかじゃないよ』って。、、、おせっかいかもしれないけれど、そう言ってあげたくて、、」

そう言われたにこは、少し嬉しそうで、泣きそうで。少ししたたかなにこの猫目は、

暖かい瞳になった。

「ありがとう。でもね、私は孤独じゃないよ。」

「えぇ!!?」と驚くにこ。

「あははっ。まあ、誤解されても仕方ないんだろうけれどね。」


と、にこは立ち上がり、奥の扉に手をかける。すごく重そうな鉄製の扉。

かなり錆びてるというのに。

コツがいるのか、少しだけドアノブに寄り掛かる感じで、

扉の下の方を引きずりながら開ける。引きずりながら開けていくものだから、

ギギ、ギギギギイイィイイという鈍い音が響き渡る。

にこは淡々と扉を開け、

「こっちへおいで」

にこはあずさと手をつなぐ。そして、扉の向こう側へ一歩踏み出した。


二人が暗いくらい扉の中へ入ってく姿は、第三者から見れば、まるで

扉の向こうへ吸い込まれる感じに見えただろう。


にことあずさは手をつなぎながら長い廊下を歩いている。窓はあるけど、

薄暗くて、、、、(というか薄暗いのは地下だからなのだが、、、)

ところどころ電球はあるけれど、本当に、ただ廊下の道を照らしているだけみたい。


「、、、、暗い、、、なに?植物?」

廊下には1メートルほど間をあけて窓がある。その窓の手前に、

決まって何か植物がある。実がなっていたり、花が咲いていたり、様々な。

あずさがその植物の花に触ろうとすると、

『がぶぅっ』

「えっ?!」

なんと花弁があずさの手を肘から包み込むようにして、あずさの手は一瞬で

花に飲み込まれてしまった。

「どしたの、、って、うわ、、またかあ、、」

手をつないでいたおかげですぐ気づいたにこが、あきれた様子で花の付け根部分から

ハサミで花を切り落とす。とても慣れた手つきで。

切り落とされた花は、すぐにあずさの手からずるりと抜け落ち、

一瞬にして、燃えるように枯れていった。

「大丈夫?ごめんね、あの花はそこら辺のものすべてにかみつくのよ、、、」

「、、、、、、はい、、、」

あずさは呆然と立ち尽くし、花に飲み込まれた右手をずっと見ていた。

右手には何かの粘液が絡みついていた。

黄色くて、明るい色で、キラキラしてて。

「、、、、はちみつ?」

粘液から漂ってくる甘い香りに反射的に言葉が出たあずさ。

「あー、、わかっちゃったか。そうよ。これは花の蜜。

ちょっと、なめてごらん。大丈夫。数口なら蜜は舐めても平気。」

『数口なら』という言葉を不審に感じながらもその蜜を一口舐めた。

すると

「んぁ?、、、なんか、辛い?、、、あれ?だんだん甘くなってく、、、」

二口三口と舐めるうちに体が火照りだし、なんだか力が湧いてくる感じがした。

「それ、不思議でしょう?燃ゆり花っていうの。一口ごとに体が温かくなるの。

五口までね。舐めていいのは。それは舐めすぎるとほんとに体が燃えてしまうの。」

つい夢中になって舐めてしまったあずさは目を見開く。

「え!」

「地下でしか育たない花で、この通路に置いてある花などはすべて使い方を間違えると人間には毒よ。」

そして、『さあ、行きましょう』とでもいうように。

あずさの手を握り、あずさに微笑みかける。


そうしてまたにことあずさは長い長い通路を突き進む。


しばらく進むと、とても大きな、厳重な警備がされている、まるで金庫のような

扉の前についた。その扉の周りには、何もない。風も吹いていないし、

なんだか、この扉の前だけ時間が止まっているみたい。

まるで別世界にいるような。

「ねえ。」

にこがあずさの手をぎゅうっと握る。

「、、、?、、何ですか?」


にこがあずさの顔を見る。

しかし、あずさの方は薄暗くてにこの顔は見えなかった。

そして、何かさみしそうな顔をして、

にこは、ドアのパスワードを入れる欄の方をじっと見つめ、


「、、、、君は、私のこと、孤独だといったね」

あずさは『やっぱり怒ってる』と感じ、謝る。

「あ、あの、、、、、やっぱり、、ご、めんなさい、、、」

声をこわばらせて震えながら謝るあずさはしゃがみ込み、頭を抱えて

カタツムリのように丸まってしまった。

しゃがみ込むあずさを見て、にこは相変わらずの優しい声で梓に言う。

「違うんだよ、怒ってるんじゃないの。ただ私は、自分が孤独だということに

気づいてないかもしれなかった。だから、君の目からは、私は孤独に見えるのかと

思って、、、、」

にこはあずさに聞く。

「私のことを孤独だといった君は、孤独じゃないのかい?」

あずさは、丸まっていた体から足を延ばして立ちなおす。

自分が孤独なのかという意見に対し、少し黙りこくってから、

「僕は、わからない、、、最初から、親も友達もいないようなものだし、

孤独というか、独りぼっち。

、、、、、、、、、どんなに考えったって、自分が何の部類に入るのか

的確にはわからない。」

悲しげな声を口から出すけれども、にこは黙って聞いた。

そして聞き返す。

「孤独と一人ぼっちの違いがわかるのかい?」

「、、、、、わかんないけど」











にこは顔を作り直すように微笑み、パスワードに手をかけた。












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彼女はロボットだ。 春雨小僧 @ppl105rk

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