第3章 生徒会と恋愛お約束条項③

「――と言うわけで俺は柑奈さんの親御さんに甘えて校則違反をしてるわけ。それで柑奈さんと知り合いだったんだよ。見つかったら停学ものの校則違反をしてる俺が仕事の手伝いならまだしも、人前で演説して信任投票はないだろ」


「――ごめんね、柏くん。生徒会長が校則違反をしていて」


「や、柑奈さんは自分の親と俺の話を口外してないってだけで、別に自分が違反してるわけじゃないじゃないすか。柑奈さんが気にすることじゃないすよ」


「でも、違反だと知っていて止めないし口外もしないのだから共犯だよ」


 俺と柑奈さんの秘密を打ち明けると、柏はさして考え込む様子も見せず、


「ははーん、姫崎くんの陰があるように見えるところはそれかな? 秘密があるからバレないようにって気を張ってるのがそう見せるのかな」


 実に予想外の答えを返してきた。


「は?」


「いやあ、バイクかぁ……良いよね。僕らぐらいの年代だと一度は憧れるものだけど、両親を説き伏せて実際に乗っているなんて行動力があるなぁ」


「……ウチで成績維持しなきゃ免許取り上げられるんだけどな」


「それで定期試験上位をキープしてるんだから大したものだよ」


「……っていうか、校則違反は気にしないのか?」


「僕個人はね。校則は風紀を乱さず生徒が健やかな学生生活を送るためのものであって、生徒を縛るためのものじゃないと思ってるんだ。例えばバイク通学の禁は非行に繋がらないようにという趣旨のものだと思うけど、姫崎くんは非行に走るようなタイプじゃないし、むしろ学業に繋がっている。別にいいんじゃない?」


 柏は一旦言葉を区切り、


「でもそれは僕個人の意見で、先生方や執行部下部組織の風紀委員なんかはそうはいかないだろうね。風紀を守り生徒を取り締まる立場にあるんだ、『姫崎くんは大丈夫そうだから』で見逃せるものじゃない。先生方や風紀委員に見つからないように気をつけるべきだと思うよ」


「……まあ、そりゃあそうだよな」


「うん。姫崎くん――僕個人としては君のことを会長が言ったように誠実で実直なんだろうと思うよ。けど、全校生徒の前に立つのは避けるべきじゃないかな」


「だよな。俺もそう思う。信任投票ったって推薦人は誰がやるんだ? 柑奈さんにしたって柏にしたって万が一俺の校則違反が露呈したら印象悪くなるもんな」


「それは僕がやればいいんだけれどさ。転校するんだし、その後に印象が悪くなってもさほど困らないよ。けれどどのみち執行部の役員が謹慎処分を受けるような事態は避けたいな」


「……別にそこまで大事じゃないんじゃないですか?」


 これは美月だ。抗議でもするように柏に言う。


「そうも行かないよ。生徒会執行部は生徒の代表で学校の顔だもの。生徒の規範であるべきだとまでは言わないけれど」


「……ごめんなさい。そこまで考えが至らなくて」


 しゅんとして柑奈さんが言う。柏はそんな柑奈さんに――ではなく、俺に耳打ちをした。


「いや、姫崎くん――君は罪作りな男だなぁ」


「何のことだよ」


「とぼけなくてもいいよ。先週と今日の会長を見ていればわかるさ」


 柏が面白がるように笑う。


「……柏くんの代役は別に立てなければいけないね」


 残念そうに呟く柑奈さん。その彼女に待ったをかけたのもまた柏だった。


「いや、そんなこともないですよ」


「え?」


「――姫崎くん、一度引き受けてくれる気になったんだ。生徒会の仕事に興味を持ってくれたのかな?」


「や、まあな。柏の話を聞いて――そんな風に考えたこと無かったからさ」


「それは話した甲斐があったよ。姫崎くんが執行部に参加するなら我妻さんも参加してくれるんだよね?」


「はい、それは勿論」


 美月が頷くと、柏は柑奈さんに――


「ほら、話は簡単です」


「……どこが?」


「姫崎くんと我妻さん」


 柏は俺と美月の名前を挙げながら、左右それぞれの人差し指を立て――それを交錯させた。


「二人の役割を替えたらいいです。我妻さんを庶務に、姫崎くんを有志メンバーに。それなら誰も困らない」


「や、それは――」


 その言葉に俺は抗議の声を上げかける――が、


「……………………」


「……………………」


 美月と柑奈さんはそれぞれ黙考していた。あ、あれ?


 そして――


「じゃあ私が庶務ってことで」


「それじゃあその方向でもう一回話し合ってみましょうか。柏くん、今日は放課後大丈夫?」


「僕は構いませんけど――副会長たちにはどう切り出すんです?」


「それはセンパイがアルバイトで専任庶務は難しいから――とかでよくないですか?」


「そうだね。そこで有志メンバーに志願してくれた我妻さんを庶務として立てて――でいいんじゃないかな」


「じゃあグループラインで招集かけておきますね」


「お願いね。とは言っても特に反対意見はでないだろうから――我妻さんは一言二言でいいからスピーチを考えておいてもらえるかな?」


「はいです。推薦人は?」


「私でいいかな?」


「勿論です」


「それじゃあ、そういうことで」


「はい」


「はい」


 俺を置いてきぼりで三人が話を進める。三人が合意したところで、全員の視線が俺に向けられた。


「……はい」


「それじゃあ意見がまとまったところでお昼にしましょうか。颯太くんはコーヒーでいいんだよね? 我妻さんは何か飲む?」


「あ、私自前のがありまーす」


「そう。それじゃあ颯太くん、ちょっと待っててね」


 言って柑奈さんは立ち上がり、コーヒーの用意をしてくれる。


 腑に落ちないのは俺だけらしい。それきり執行部の話はされず、雑談を交えながらの昼食会となった。





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