第28話 ゲーム対決
「いただきます」
手を合わせ、俺と深雪さんは食事にありつく。
お化け屋敷から脱出して暫く待ち、深雪さんが目を覚ましたところでお昼を食べようということになった。
お化け屋敷での出来事はあまり覚えていないらしいので、ならば触れないでいようと思った。
お昼は屋台で売ってあった焼きそばを購入する。他にもいろいろあったけどとりあえずこれで腹を満たすことにした。
「ダイエットはやめたんですか?」
今までなら焼きそば一つも食べはしなかっただろう。その状態を見慣れていたので、少しおかしく思えてくる。
「あはは、さすがにあれだけ迷惑をかけちゃうとね。食事も気をつけるようにはするけど、無理なダイエットはしないようにするね」
きちんと反省しているようだ。
先日のあれは深雪さんの中でも大きな失態だったことが伺える。それで無理なことをやめようと思えたならちょうどよかったのかもしれない。
「そりゃよかったですよ。ていうか、何ならもっと食べた方がいいと思いますよ」
「んー、それはちょっと考えちゃうけど、悠一くんが買ってくれるなら考えようかな」
言いながら深雪さんはちらと視線を動かした。その先にあったのはクレープ屋さん。つまり奢れということだ。
「ま、気が向いたらということで」
「向いてくれる気がしないけど」
そんなことはない。こう見えてわりと気は向く方なのだ。
なんてことを考えながら焼きそばを頬張る。どこかの有名な焼きそばらしいけど普通に美味い。どこがどう美味しいかと言われると難しい。全部美味い。
「昼からはどうしましょうか」
「ここはどう?」
深雪さんがマップを開いて俺に見せてくる。
「魔界の森の冒険、ですか」
どうやらシューティングゲームらしい。魔界の森に住む魔獣を討伐する、という内容らしい。
「うん。ここは昔乗ったの覚えてるんだ」
ジェットコースターやお化け屋敷がトラウマなのか、大丈夫そうなアトラクションを選んできたな。まあ俺も楽しめるからいいんだけど。
「そうなんですか」
「うん。紗月ちゃんが強くてね、私が何度も乗りたいって駄々をこねてた」
「負けず嫌いってやつですか」
「んー、まあそれもあるけど。高スコアを出してお母さんに褒められる紗月ちゃんが羨ましかったんだろうね」
当時を懐かしむように言う深雪さん。
子供の頃ってことは、三人のお母さんが生きているってことだもんな。ここにはそんな思い出が散りばめられているのか。
「それじゃあご飯食べたらここに行きましょうか」
「うん」
そして食事を終えて俺達は宣言通り例のシューティングゲームアトラクションの前までやってきた。
深雪さんが中を執拗に確認しているのはお化け屋敷の例があるからだろうけど、ここは大丈夫なんでしょう?
「せっかくのゲームですし、何か勝負しましょうか」
並んでいる間の暇潰しに俺はそんな提案をしてみる。
「お、悠一くんやる気だね。言っておくけど私これは結構自信あるよ?」
「俺だって伊達にゲーマーを名乗っちゃいないですよ」
「これは燃えてきたね。なら、負けた方は勝った方の言うことを何でもきく、ていうのはどう?」
「そ、それはいいんですかね、いろいろと」
男と女の間でその約束はいろいろとマズイのではないだろうか。だってそれはつまり合法的に少年誌では行えないようなあんなことやこんなことを命令できるってことだろう?
「……悠一くんが何を考えているのかはその顔を見ればだいたい予想がつくけど、まあいいでしょう」
「い、いいんだ……」
深雪さんは少し頬を赤らめながらそう言った。さすがにそんなバカみたいなこと言うつもりはなかったけど、許容されるんだ。
「その後の悠一くんの評価がどうなるかは分からないけどね」
つんと言い放ってくる。
最初から言わせる気はなかったようだ。さすがにそんなこと言われて無理やり嫌なことをさせる気なんてさらさらない。
「そもそもそんなこと言う勇気が、悠一くんにあるとは思えないけどね」
くすり、と笑いながら深雪さんが言う。そうしている間に俺達の順番がきたようだ。
案内された乗り物に乗り、イスの前にセットされたレーザー銃を構える。照準の先に赤いポインターがあるので、それを魔獣のダメージゾーンに向けて放つだけ。
シンプルイズベスト。
ここはゲーマーとして負けるわけにはいかないぜ。
お互いのポイントはレーザー銃の下に表示されているけどこれは見ないようにと約束した。結果発表のときのドキドキが低減するからな。
ちらと自分のポイントを見ると一〇〇〇〇〇ポイントを超えていた。基準が分からないけど、これはそれなりの点数なのではないだろうか?
「……」
ポイントは見ないように一瞬だけ深雪さんの顔を見ると、それはもう真剣な顔つきだった。
負けず嫌いは今も健在らしい。
なんてことを考えているうちに最後のステージが終わる。
パンパカパーンとファンファーレが鳴り、俺達の乗り物は降り場へと向かう。
降り場にはモニターがあり、そこに戻ってきた乗り物のそれぞれのポイントが表示されていた。
俺のポイントは三〇一〇〇〇ポイント。悪くない点数だと思う。あそこからさらに伸ばせたのは大きいな。
対する深雪さんは三三三〇〇〇ポイント。つまり俺の負けである。
「結構いったかなって思ってたけど、あれで負けるのか」
「ふっふっふっ、甘かったね悠一くん。どうやらこの勝負は私の勝ちらしいよ!」
ものすごく嬉しそうに言うものだから、自分が負けたというショックはそこまでなく、深雪さんの喜んだ顔が見れてよかったという気持ちが強かった。
さて、一体何を言われるのだろうか。
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