ある転生者の日記

シューギュ

ある転生者の日記

令和●年 △月□日(推定)


「ようこそ! 星界最高種族(エルフ)の里へ。ここは邪悪で低脳な劣等種族(モブ)どもが献上する労働力を、我が最高! の知能と、最高! の技術によって搾り取り栄華を極める、どこよりも栄えた最高! の世界。元の世界は辛かったでしょう? ここでは働くこともなく、飢えることもなく、異世界から来た、名誉星界最高種族のお客人として歓迎いたします」


トラックにはねられて起きたら、そんなことを言うおかしな女性にかしづかれる生活が始まった。何かのドッキリだろうか。


星界歴3011年 4の月

学習装置の使い方、暦の読み方、劣等種族の使い方。

この生活が始まってから3ヶ月、ものすごいスピードでこの世界のことを覚えていく。

「さすが名誉最高種族さま! この里にふさわしい頭脳の持ち主です!! これでもう『レイワ』などという元の世界の言葉を使わなくて良さそうですね」

なんで誰にも見せていないはずのこの日記を知っているのか気になったけど、この仕掛け人が間違えたのだろうし、まぁいいか。

最高! だなぁ。


星界歴3011年 6の月

学習装置で、この世界の歴史を学ぶ。

星界で主権、国家運営を握っているのは自分が暮らしているエルフ族の一族であり、

美しく聡明な(彼ら曰く)種族として、里から外を檻で覆っているらしい。

いちいち「星界最高民族」と名乗っているのと、居住区の屋根から見た「檻」が、明らかに「里を外から覆う、大きな壁」なのが気になるけど、そういうセットなのだろうか。


星界歴3011年 9の月 

劣等種族と呼ばれていた生き物を殺した。

こちらがぶつかって、向こうは気づかなかっただけなのに。

よくわからない言葉で叫んでいた幼そうな彼は、駆けつけたエルフたちによって殴られ蹴られ息も絶え絶えの姿になるまで痛めつけられてから殺された。

後になって調べたら彼らの言葉で「なんでもするからころさないで」という意味らしい。

寝ようとするたびに彼のウサギのような耳が裂かれた時の絶叫が聞こえる。

俺が殺したようなものだ。

飛び散った彼の血で、ようやく自分が異世界に来ているのだと、今更ながら気づいた。

礼和●年 △▽月 ■日

このクソみたいな世界への抵抗としてここに記す。

近いうちに俺は、「劣等民族の血液摂取により発狂した暴徒のひとり」として処刑されるらしい。

星界歴は、元は劣等とさげずんでいた種族のものだった。

利用していた学習装置は、技術を聞き出して根絶やしにした、どこにもいなくなった種族が発明していた。

星界最高種族を名乗り、他の種族を隷属させる制度は、この世界にきた俺と同じ世界の人間が、始めたことのマネだった。


本当は、俺にもエルフたちを敵視する資格なんてないのだろう。

彼らとともに他の民族を搾取した生活を送った、共犯者だもの。

(星界最高種族 機密保持部隊によって閲覧済)

(脅威度:最高位 我が種族を最高! でいつづけるべく、即刻暗殺すべし)



ここまで読んで、私は、目の前でうなだれる転生者に蹴りを入れる。

うめいて顔を向けた情けない彼の顔に読んでいた日記を突きつける。

「それで? 自分も散々いい思いしておいて、最高種族主義者たち相手にレジスタンスごっこ始めて、たのしかった?」

転生者はベソをかくばかりで、しゃべる気配がない。

「いいご身分な気分がまだ抜けないのかしら? 運んでいる輸送船ごと爆破されて、自分を転生させた奴らに殺されかけてるのよ? こっちだってあんたなんかより大事な仲間を何人も死なせて、やっと! やっと助けたのに!! 異世界転生者がこんなやつだったなんて!!! 『ごめんなさい』くらい言えよ!!!!」

彼はそれでも喋らない。

「ミリィ隊長!! もうそろそろエルフの奴らが感づきますぜ。目的の情報は無かったにせよ、こいつを助けるか殺すか、さっさと決めないと!!」

味方のキツネ耳が私を急かす。

私は、転生者の腹を踏みつけて、銃を突きつけた。

「最期に、いうことはない?」

彼は震える手で私の頭上を指差した。

「いつも、夢に見るんだ。君と同じ耳をした子が、殺される夢を」

「そう。あいつらならやるでしょうね」

「その子が、夢でいたぶられながら、いつもいうんだ。『ミリィ、ごめん。バカなにいちゃんでごめん』って・・・

俺が、俺がぶつかったりしなかったら。ごめん。ごめんなぁ」

私が今までで1番の力で彼のあたまを蹴り飛ばしたせいか、泣きじゃくったまま、日記の書き主は気絶した。


「こいつは連れて帰る。ここで死なせて、楽になんか、しない」

部下にそう言い残して、燃える輸送車をあとにする。

自分の心を守るためか、種族の古い言葉が口から出る。


そうだ。ここでらくになんか、させない。


にいちゃんのかたきをとって、コイツに、このきょうはんしゃに。はかのまえでいまみたいにオンオンないてあやまらせるまで。

なにをさせてでも。わたしは、ゆるさない。

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ある転生者の日記 シューギュ @syugyu1208

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