夜十時に私は炙りチャーシュー麺を作った

隅田 天美

料理の素人がエッセーなどに出てきた料理を再現してみた その4

 私の通っているジムのトレーナーの言である。

「『明日、天気になぁれ』ってゴルフ漫画を知っています?……そう、最初は河川敷の打ちっ放しの練習場でおにぎり売って賭けゴルフしていて最後は世界のトップを取る漫画です……あれの功績は『チャー・シュー・メン!』という三拍子を植え付けたこととチャーシュー麺に市民権を与えたことですね」


 ジムでたっぷり汗を流し、家に帰って来たのが夜八時。

 一通りの儀式を行い、冷蔵庫を開ける。

 毎週通っている心療内科の病院へ行く途中のスーパーに寄って買ったばかりの豚バラをジップロックに「焼肉のたれ(甘口)」と共に入れて病院に行き、処方された薬をもらった。

『自動車の揺れとかで短時間で味がしみこむはず』

 という思い込みの元の行動である。

 某天才料理人少年もびっくりのやり方である。

 帰宅して肉をジップロックから出して脱水シートに包み冷蔵庫に入れる。

 その肉が目の前にある。

 封を解き、事前に用意した燻製器(古いフライパンと電熱器)に乗せて蓋をする。

 その間に『塔に上る』の第二弾を書き上げる。

 いい具合に燻された肉を料理用ガスバーナーで炙る。

 溶けた脂に引火して、ちょっと楽しい。


 さて、今回の動機だが、池波正太郎の『むかしの味』に出てきた炙りチャーシュー麺が出てきて、こんなことを思った。

『美味しそう。でも、場所が信州……長野県ってコロナ禍の今、旅行なんて御法度じゃん! ……待てよ、私は熱燻をする道具を持っている。炙りも燻製も似たようなものだろう。うん、ガスバーナーもあるし作れる!』

 これが昨日である。

 我ながら呆れる実行力とよくわからない理論である。

 

 年末に買ったラーメンの麵を茹でスープを作りチャーシューを切り葱を刻む。

 茹であがった麺を湯切りして丼にまとめる。

 改めて『むかしの味』に載っているチャーシュー麺を見る。

 誰が見ても明らかに違う姿だ。

 私は俗言う『育成ゲーム』や『配合ゲーム』などはしない。

 でも、カッコいい魔物モンスターを作ろうとしたら可愛げもない未知の生き物が生まれたときの絶望感と言うかやるせなさを今回感じた。

 でも、自分で作ったものである。

 食べてみる。

 悪くない。

 というか、美味しい。

 完食した。

『予定とは違ったけど、ま、いいか』

 丼を洗いながら私は思った。

 きっと、天界の池波先生はこう言うだろう。

「ぜんぜん、違うぞ」


 なお、一応、言い訳がましい解説を一つ。

 現在連載中の「ようこそ、異世界へ」は外食。

 作ったシリーズはお家ご飯(道具さえあれば基本誰でもできる)が主要テーマになっている。

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夜十時に私は炙りチャーシュー麺を作った 隅田 天美 @sumida-amami

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