第5話

ダールベルク王国。

周囲を森に囲まれたそれほど国土面積・国家規模共にそれほど大きくない小国家であるが、優れた魔法技術を発見したことで大陸においては一目置かれる通称『叡智の国』。

とりわけダールベルク初代国王はかつて国を襲った魔族の大群をたった一人の防御魔法で退けたことでその名を大陸史に刻み、その血を引く子孫達もまた魔法士としての才覚を発揮して国を治めていた。


「中でもギルバート殿下は歴代屈指の魔法士として国民中から期待されていたわ。

 特に日照り続きだった農村に恵みの雨をもたらす魔法は王国はもちろん大陸全土で評価された。その功績は、国王が第一王子とはいえ正妻の子ではなかったギルバート殿下に王位継承権第一位の位を与えたきっかけになるほどだった」


軟禁中に2日間なんとなくの説明を受けた時よりもより詳しくより分かりやすく、シャーロットは王国やギルバートについて説明をしてくれる。


「予想以上に凄い奴だな、ギルバート」


「そうよ。あなたとは天と地ほどの差がある優秀な方なのよ」


「……」


ひっかかる言い草だが気にするのは無駄だとしばらく説明を受けていて気が付いた。俺のスルースキルは自分でも思っていた以上に高度だったらしい。いろんなものを見ないフリして生き続けてきただけはある。


「ん? ところで、さっきの説明だとギルバートは正妻の子じゃないのか?」


「そうよ。殿下は第3王妃との間に生まれた王子。

 正妻との間になかなかお子が出来ず、国王は第2王妃を娶ったけれどその方も王と婚姻後に体調を崩してしまったの。そうして3番目に娶った王妃がお生みになられたのがギルバート殿下」


「……王位継承権云々言ってるってことは正妻との間に別の王子がいるってことだよな」


「ええ。後に正妻との間に生まれた第2王子のルートヴィン・ディア・ダールベルク殿下がいらっしゃるわ」


「ふーん、ルートヴィンか」


何かどこかで聞き覚えのある名前だな。

だが、俺の知り合いに西洋人はいないし、何かしらのゲームか漫画のキャラクター名が頭に残っているだけだろう。


「もっともルートヴィン殿下は魔法士としてギルバート殿下の足元にも及ばないから、ダールベルク王国の王には向いていないわ。実際、国王も母親である王妃でさえもルートヴィン殿下には期待できないといっているもの」


「俺なら魔法士より剣を持って戦う方がなんかかっこいいと思うが、まぁダールベルク王国は魔法国家みたいだしそういう感性になるんだよな」


「剣なんて魔法の前ではただの鉄の棒。他の王国と比べ物にならないほど発達した我が国の魔法を捨てて剣を磨くなんて愚か者のすることよ。

 それなのに第2王子はギルバート殿下に魔法で敵わないと悟ったのか何故か剣の腕を鍛え始めた。おかげで王宮では無駄な努力を続ける愚かな王子といつも笑われているわ」


「……そりゃ、ひどい話だな」


「剣などに逃げるから笑われるのよ。例え兄であるギルバート殿下に勝てなくとも、魔法士として己の力を鍛え続けていればある程度評価されていたはずだわ」


シャーロットは第2王子を心底馬鹿にしているようだった。いや、こいつの場合はいかなる時でも基本的に人を馬鹿にしたそうだが。


今の話を聞くと俺としては第2王子を応援したくなる。

それに元々王国から評価されていなかった王子が下克上でのし上がるって面白くないか?

まるでゲームのような展開に胸が躍る。


「ルートヴィン殿下の話はもう良いでしょう。ギルバート殿下の話に戻すわ」


「ああ」


第2王子は面白そうだが、残念ながら俺はその優秀極まりない第1王子のギルバートだ。関係ない腹違いの弟の情報はそれほど役には立たないだろう。


「ところであなた、ギルバート殿下の記憶が全てないようだけれどまさか魔法も使えないわけないわよね?」


「えっ……、いや、そもそも魔法がそんなにこの国で重要だったことを今さっきの説明で分かったくらいだから使えるかなんか知らないが」


「何ですって!? あなた、私の話を聞いていたのよね?

 ギルバート殿下は王国屈指の魔法士! だからこそ王位継承権一位の王子なの。その王子が魔法が使えないなんて有り得ないわよ!」


シャーロットが俺に詰め寄って胸ぐらを掴む。


おいおい、いいとこ育ちのご令嬢にしてはやる事が時々アグレッシブだな。

お前こそ本当に貴族の教養を受けたのかと問いたくなるレベルだ。


もちろんそんなこと口に出せばまた烈火の如く罵られるので言わないが、今から答える内容でも結局同じ未来が見えた気がした。


「使えるかなんて分からないな! 少なくとも魔法を使うのに魔法陣やら呪文なんかが必要というのなら、何一つとして知らないぞ!」


あえて嬉々とした口調で答えると容赦のない平手が飛んできた。

大好きなギルバート殿下の顔をよくも思いっきり引っ叩けるもんだと思わず感心してしまった。

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