Consolare ---コンソラーレ

空澄 晴(からすみ はれ)

第1話 気持ちのカタチ

この世界は時間を重ねる毎に暮らしは便利に豊かに変わっていく。

その豊かさは溢れんばかりの感情を抱えながらも日々働き続ける人の上に成り立っていた。

そして、そんな感情の一時預かり屋としてコンソラーレという職がある。


コンソラーレ ------- Consolare

それは、感情を抽出することが出来る者。

抽出した感情を具現化でき、その形は鉱物や液体、炎、時には花のような植物だったりと形は様々である。


港町 マリネ に住む青年ルメールもこの能力を持ち、気持ち預かり屋センチレスタを営んでいる。

センチレスタには、毎日抱えきれないぐらいの感情を抱いてお客さんがやってくる。


「いらっしゃいませー、本日はどのような用件で?」

「…すまないが、この感情を預かってくれないか。」

その男からは怒り、悲しみの感情が見えた。

大抵はこのようなマイナスな感情を預かることが多い。

「承知致しました。ただ、法律によりマイナスの感情のお預かりには1ヶ月という期限がございまして、それをご理解頂けましたらこの誓約書にサインをして頂けますか。」

ルメールはペンと誓約書1枚を男の前に差し出した。

「分かったから、早くしてくれ。」

と、男はぶっきらぼうに言いながら荒い字でサインした。


「…それでは抽出致しますので、このソファーに座って自分の感情の根源を探ってください。」

「…ちっ、何で思い出さなきゃいけねぇんだよ。」

「お客様?お願い致します。」

「わかったよ。探せばいいんだろ。」

最近はこんな客ばっかりだ。いかにこの社会が荒んでいるのか分かるとルメールは小さく溜息をつきながら男の気持ちに集中する。


ルメールが抽出を始めるとぶわっと真っ赤な色の炎があがり、その中で火山灰のようなものが舞った。よく見る怒りの気持ちだ。灰は小さく塊を作りルメールの採集瓶に集まった。

次にドロっとしたタールの様な物が出てきた。これがこの男の悲しみである。悲しみの形に関しては純度や産まれた人や状況により様々であるが、純度の低い物はタールの様な形をとる事が多い。ルメールは悲しみを怒りと同じ瓶に入れぐるっと1周回した。

こうしてその人の感情を混ぜ合わせて保管するのだ。


「お疲れ様でした。この量ですとお代は2500ルーンになります。」

「ほらよ。ありがとな。また一ヶ月後に。」

男は気持ちが軽くなったのか、顔色が良くなった。

「はい、お待ちしております。気持ちに余裕が出来ましたら早めにお引取りにお越しくださいね。」

男の豹変ぶりに驚きながらも営業スマイルでルメールは見送った。

「なんだ、ちゃんとお礼言えるんじゃないか。」

閉まったドアを眺めながら、ルメールは苦笑した。


溢れそうな気持ちは時に人の心を押し潰し、苦しめる。そんな気持ちに押し潰される前にコンソラーレが一時的に預かり、客には余裕のある時に少しずつ消化していってもらう。結局はどんな感情も本人が最後に処理しなくてはならない。この時代の人間は時間に追われ、感情の処理すらする時間もなくなってしまったのだ。


マリネはすっかり夕陽色に染まり、センチレスタの営業時間ももうすぐ終わりを迎えようとしている。


そこに1匹の黒猫がふらつきながら扉をくぐり、そして力尽きたように倒れ込んだ。

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