1番の幸せはこの日、この時でした

絶対人生負け組

ある日、ある時の俺の1番の幸せ

 これはある日、ある時の俺の1番幸せだった時の物語。









 今、俺は物凄い緊張に襲われている。

 別に、転校初日の自己紹介をしないといけない状況とかではない。

 ただ――女の子と一緒に下校しているだけだ。

 こう言うと、「それだけで緊張するとか陰キャじゃん」と思うだろう?

 別に俺は、そこまで暗いわけではない。同じクラスの男子はほとんど全員友達だしね!

 じゃあ、何故俺がこんなに緊張しているのか……それは一緒に帰っているのが――幼馴染の好きな子だからだ。




 ここは田舎だから、小中高と同じ学校になる事が多い。

 たまに、「こんなクソ田舎反吐が出る」とか言って、都会の高校に進学する人もいるけど……。


 今日、幼馴染の好きな子と帰ることになったのは、俺が勇気を出して誘ったからだ。

 俺は、この日を逃したら後がないと思っている。なぜなら明日から夏休みだからだ。高3の俺たちにとっては、最後の夏休み。

 告白して、付き合えたら夏休み一緒に勉強したりと甘々な時間を過ごすことができる。

 が、この機会を逃したら就職や大学受験と何かと忙しくなって、告白する機会がなくなってしまう!



「明日から、高校生活最後の夏休みだね」

 彼女はもの惜しそうに、明後日の方向を見ながら呟いた。

「そうだね……最後の夏はどうやって過ごす予定なの?」

 俺は緊張で、手汗はびっしょりだ。いや、これは夏の太陽が暑いせいだ。うん絶対そうだ。

 ともかく、緊張しながら夏の予定を聞いてみる。

「うーん。そうだなぁー……。特に行きたい大学もないし、就職先を探したりするだけかなぁ」

 彼女は、そんぐらいかな? と言ってニコッと俺に向かって笑う。

 日が傾きかけて、西の空はオレンジ色に染まっている。

「彼氏の1人でもいれば、楽しい夏になりそうなのになぁー」

 俺はその言葉に驚いて思わず立ち止まった。

 彼女の方を見ると、オレンジ色の太陽が俺の目を焼き付けてくる。

 俺は、今しかない。言うなら今だ! 勇気を出せ!

 そう自分を奮い立たせて口を開く。

「俺が、彼氏になってやろうか……?」

「えっ?」

 一瞬沈黙の時間が訪れる。その時の彼女の顔は太陽の光が邪魔して全く見えなかった。

 5秒くらい静かな時間が訪れる。耳には暑苦しくうるさいセミ達の声が響く。

 そのたった5秒の短い静かな時間は、俺にとっては1分ぐらいに感じられた。

 あぁ……何言ってんだろう。偉そうになってやろうか? なんて、俺は何様なんだろう……。

「ほ、ほんとに?」

 返ってきたのは、確認の言葉だった。俺は、さっき伝えきれなかった想いを改めて伝える。

「ずっと、小学校の頃から好きだった。ヤンチャで、色んなものに興味津々で危なっかしくて……でも優しい1面もあったり……。俺はそんなお前が好きだ――大好きだ」

 今まで隠してきた感情が、枷が外れたように次々と溢れだしてくる。

「俺と、付き合ってくれないかっ!?」

 そして、またも訪れる静寂の時間。だが、さっきよりも短く返ってきたのは「いいよ」の3文字の承諾の言葉だった。

「嬉しい……。私もずっとずっと好きだった。これから、よろしくお願いします!」

 太陽の光が、彼女に隠れる。その時みた彼女の頬は、夕日に照らされたわけでもなく、確かに紅で染まっていた。

 初めて見る表情に、不覚にもドキッとしてしまった。

 俺は嬉しいあまりに、涙が出てきた。

「ちょ、ちょっと?! そんな泣くこと?!」

「いや、その……。ホントに嬉しくて……グスッ」

 彼女は、「大袈裟だね」と苦笑いしていた。

 でも、その後泣いている俺を慰めるためなのか、抱きついてきた。

「気持ちに気付けなくてごめんね。もう、付き合ったんだから、泣かないで?」

 耳元で女神のように慈愛に満ちた声で、頭を撫でられながら囁かれた。

 高校生になった、彼女は小さい頃のヤンチャっぷりからは想像できないような柔らかく華奢な体だった。

 髪からはシャンプーの匂いなどが、漂ってくる。

 落ち着く、どこか懐かしい匂いを嗅いだおかげもあって、いつの間にか涙は止まっていた。

「迷惑たくさんかけるかもしれないけど、これからもよろしくね?」

「こちらこそ。大変な時もあると思うけど、2人で乗り越えよう」

 そうして、俺は長年の想いを告げることができ、付き合うことになった。





 世の中には、ありふれた幸せが沢山あるけれど、俺にとっての1番の幸せはこの日、この時だった。





 因みに夏休みは海行ったり買い物行ったり、家で一緒に勉強したり幸せな時を過ごした。



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