第10話 最終話
ザザザザ、という雑音と共に、ある声が流れて来た。
─────────
『はい、これであと喋れば録音されるから、終わったらここを押してね』
「ありがとうございます」
あっ、菜々星の声だ。目が見えないから使い方を看護士さんに聞いていたのだろう。
「こんにちは。菜々星です。今日は晴れてるのかな? 曇りなのかな? ……んふふ、そんなのはどうでもいいか。
……お母さん。まず、お母さん。大好きだよ。多分、私の病状は悪化したんだと思う。それに結構悪く。でしょ? だから、あんまり先が長くないんじゃないかなって思ったので今こうやって録音しています。
私の人生はお母さんなしじゃ、ここまで来なかったと思うよ、本当に感謝してます。本当にありがとう。お母さん、嘘つくのヘタだから、分かっちゃった! これからはもっと上手に嘘ついてよ? ね? これからも幸せでいて。見守ってるからね。
……そして、仁。……大好きだよ仁、言葉に出来ない程。私に初めての感情をくれた。私の初めての友達になってくれた。私の初めての彼氏になってくれた。 本当にありがとう。
本当はね、仁と初めて会った時、すごく体調が悪かったの。でもね、仁と仲良くなるにつれて、元気になっていって……調子悪い事なんて全然気にしなくなっちゃった、んふふ。でも、仁がいなくなった今はすんごく体調が悪い。咳をすれば口から血が出て、もう、駄目みたい。仁に会えるまではって思って必死に生きてる。
早く会いたいよ。仁に会えたら、もう何もいらない。仁と一緒ならずっと永遠に生きていけるような気がするよ。ねぇ、仁。また仁の声が聞きたい。手術が上手く行ったら、仁の顔が見たい。仁に……触れたいよ。だから私は毎日神様に祈り続けてます。早く、一日でも早く仁に会えますようにって。
ね? だから仁、早く来てぇ~……なんてね。んふふ」
────────
そこで録音は終了した。
菜々星は、菜々星は……俺の事を待っていたんだ。それなら、いくら遠くても、どんな道でも、会いに行ってあげれば良かった。いくら後悔してもしきれない。
もう一回、菜々星の笑った顔が見たかった。あの、可愛らしい声が聞きたかった。たくさん、他愛のない話をしたかった。これからもずっと、ずっと……一緒にいたかった。一緒に生きていたかった。目が見えるようになったら、「本当だ、イケメンじゃない!」って笑ってほしかった。
ずっと、ずっと、これからの俺の人生は、菜々星の色で染まっていくはずだった。菜々星……俺も会いたいよ、菜々星にすごく会いたい。……会いたい。
十年後。
俺は菜々星の命日に、菜々星の眠っている墓を訪れた。綺麗な花束を添える。菜々星の名前が刻まれている石を見る。
「7月7日……死亡。ななせ。……ねぇ、菜々星。運命って決まってるのかな。7月7日にあの世へ行った、なんてさ……」
仁は、爽やかに染まった青空を見上げた。菜々星、俺はここにいるよ。すると、菜々星のいる墓の上に白い鳥がとまった。
「菜々星。会いに来てくれたんだね」
仁はその鳥に話しかけた。
「俺、これからも、菜々星の分まで生きるよ。菜々星に言われた通り、バスケ、これからも菜々星のためにやるよ。世界的なバスケ選手になった今でも、上を目指してる。俺、頑張るよ」
仁は腕時計を見た。
「あ、もうこんな時間だ。これからアメリカに行ってくるからね。試合に勝ってくるよ。約束する。じゃ、行ってくるね」
仁は立ち上がり、空港へと向かう。仁がいなくなった後、白い鳥は青い空へと消えていった。
仁……頑張れ
~FIN~
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