第20話 再び動き出す

「ねえ」






「……」






「ねえってば!」






「…あ」






「もう!またぼーっとして!」








「ごめん、、」






謝る私に香織が溜息を吐く。








「まだあの男のこと気にしてるわけ?」








「…っ」








詩音の事を話題にされてとっさに否定の言葉が出なかった自分に驚く。










しかし、それは香織の指摘が間違いではないということの何よりの証拠になってしまっていた。









詩音と連絡をとらなくなってから既に半年近くが経過していた。










私が連絡を絶てば詩音の方から何かあると思っていたけれどそれもなく、気付けば時が流れていた。










私から連絡を絶っといておかしな話だけれど、全く気にしていないという訳でもなかった。










そして気付いてしまった。








私は詩音から連絡が来ることを待っているのだと。









詩音と出会って一緒にお酒を飲んで。









あの不思議なたった一か月間の中であった出会いは夢だったのかとさえ思う。








そう、良い意味でも悪い意味でも夢のようだった。









大好きな彼に浮気されて、そこに私を救う天使のような詩音が現れて。











今考えれば怪しすぎると思うほど異常に顔を隠していた詩音に介せず意気投合して仲良くなって。









「はあ。私には理解できないわ。」







「うん、私もそう思う」






そんな香織の意見に同意する。







自分でもなぜ顔も見せなかった相手をこんなに気にかけているのかわからなかった。






そんな私を香織は呆れた顔で眺めてる。






「よし!もう気にしない!」






その視線を受けて私は自分の心を奮い立たせた







その時。






ピロン





「!!!」






突然の通知音に反射的に携帯を開く








「え?」






思わず声が出たのは、そのメッセージが思い浮かべてた相手からだったから







ーーではなく、そのメッセージの内容のせいだった。







「携帯の通知にそんな反応するとか、、やっぱりまだ気にしてるんじゃん!」






そんな香織の言葉を無視して何度もメッセージを読み返す。







「で?その反応を見るに、、例の男からだったの?」






「違う…香織も自分の携帯見てみて!」








思えば香織の携帯も私のと同時に鳴っていた。






それなら同じ内容が香織にも届いてるはずでーーー






「はぁ?私の携帯?」







不審そうにしながらも携帯を確認した香織が目を見開く。







「……!!!」






やっぱり香織も…






「しゃ、Shineのサイン会当選のお知らせ…!?」






絶句したようにそう言った香織が私の顔を見る。







「私もー!!」






その後Shineのファン同士、興奮し合ったのは言うまでもない。






そして、2人とも直前まで話していた詩音のことなどすっかり忘れてしまっていた。







ーー何も知らない私は、この時運命が再び動き出したことを知る由もなかった。

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