習作200118B 〈狩人〉

 人狼ウェアウルフに襲われた村から、煙が立ち上った。

 人狼に殺された友人たちの亡骸なきがらを、残された〈狩人〉が焼いているのだ。

 彼は、友人たちに謝りながら、彼らの亡骸を焼いた。


 彼が信じる教えでは、死んだ人間は、最後の戦いが終わったときに甦って神の国に行くことになっている。そのため、彼の村では、死んだ人間を土葬して、その上に目印となる墓碑を建てる。

 しかし、生前の肉体が失われてしまえば、死んだ人間は、甦ることができず、神の国に行くこともできない。

 友人たちが人狼になるのを防ぐためには、その亡骸を焼くしかないと、彼は、わかっていた。それでも、彼は、彼らが神の国に行く未来を奪ってしまうことを申し訳なく思った。


 〈狩人〉がかつての友人たちから立ち上る煙を見つめていると、その向こうで動く灰色の生き物が見えた。彼は、目を凝らし、そして愕然がくぜんとした。


 人狼だ。


 口をだらしなくあけ、よだれをたらしながら落ち着きなく動き回るおおかみが、そこにいた。人狼の特徴を持つ狼だ。

 〈狩人〉は、気配を消すのも忘れて立ち上がった。

 狼は、彼が立ち上がった音を聞いて半狂乱になった。人狼であることを確信させる動きだ。


 〈狩人〉は、狩りに使うつえを取り出した。ゲベアと呼ばれるその杖は、雷鳴を放って遠く離れたところにいる獲物を仕留めることができる魔法の杖だ。

 同じような魔法の杖にシャイブやピストーレと呼ばれるものがあるが、それらの杖は、五十フースから三百フースほどまでしか破壊の力を届けられない。

 しかし、ゲベアは、違う。

 ゲベアの中には、渦を巻く魔法の文様が刻まれており、千フース離れたところにでも破壊の力を届けることができる。


 彼は、ゲベアの先端に空いた孔からザーペンティンの触媒を注ぎ込んだ。そして、円錐えんすい状の先端を持つ鈍い色の石を孔から落とし込んだ。


 杖の柄を肩に乗せた彼は、慎重に狙いをつけ、魔法を放った。

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