習作200116F 〈冒険者〉

 この世界には、魔法と呼ばれる力がある。

 呪文を唱えながら秘せられた手順と道具を用いて触媒を混ぜ合わせることで、触媒に魔法の力が宿る。

 魔法の力により、木や鉄の道具だけでは成し得ない様々な奇跡が起こる。


 そのような奇跡のなかに、東方から伝えられたザーペンティンと呼ばれる魔法がある。軍で用いられ、傭兵たちにも人気がある魔法である。

 ザーペンティンは、破壊の魔法である。魔術師たちの手によってザーペンティンの力を宿された触媒は、わずかな火種を食んで叫び声をあげ、恐るべき破壊力をもたらす。


 〈冒険者〉が懐から取り出した道具に、〈公証人〉は、見覚えがあった。

 火打石によって起こされた火を食んでザーペンティンの力を呼び覚ます破壊の道具。

 大きなものはシャイブと呼ばれ、〈冒険者〉が持っているような短いものは、ピストーレと呼ばれる道具だ。


 ピストーレの先端が、赤く開かれた魔物の口に押し当てられた。

 魔物は、邪魔くさそうにピストーレを噛み、押しのけようとした。


 大音響が続けざまに鳴り響いた。

 叫び声と聞いていたが、そんなものではなかった。

 それは、むしろ雷鳴だった。


 大音響に思わずつぶってしまった目を開けたとき、〈公証人〉が見たものは、鎌首から先の頭部を失ったヒュドラーの姿だった。

 大音響がもたらした耳鳴りに顔をしかめつつ、彼女は、ヒュドラーの頭を探した。頭がないと、裁判で証拠不足となり、命の恩人に与えられる懸賞金が払われないためだ。


 耳鳴りのせいでよろめいた〈公証人〉は、足元に水を感じた。

 水たまりを確認しようと足元に目を向けた彼女は、足元に落ちているモノに気づき、そのまま気を失った。


 水たまりを作っていたのは、吹き飛んだヒュドラーの頭から流れる真っ赤な血だった。その鎌首の端から、緑色の肉が顔を見せていた。

 血には慣れている〈公証人〉だが、緑色の肉は、あんまりだった。

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