掌話

習作200108 スぺシム

名誉あるM88アカデミーで発表する運びとなり、大変に緊張しております。

ご参加の皆様、なにとぞお手柔らかにお願いいたします。



さて、原子番号133番、スぺシムなる物質が一対のハサミ状器官を持つ地球外生命体、いわゆる怪獣に対して致命的な効果を持つことは、皆さまがご存じのとおりです。また、かの地球外から来訪した宇宙警備隊員がスぺシムを光線として放つことも、周知の事実であります。


私たちは、光であるはずのスぺシムの光線がゆっくり進んでいるように見える現象について、長年にわたり研究を続けてまいりました。そして、ついに、その現象を解き明かしたのであります。



かの宇宙警備隊員は、右腕にマイナス、左腕にプラスの磁場を蓄え、それらをスパークさせて光線を発射しております。この磁場のスパークがスぺシムの光線として怪獣に至る道筋が、これまでわかっておりませんでした。


結論から申し上げますと、この磁場のスパークは、私たちがナノマシンと呼ぶものと同様の装置を製造いたします。ただし、ナノマシンと異なり、これがナノメートルより1万倍以上小さいフエムトメートル単位の世界で行われます。仮にこの装置を原子機械、アトミックマシンと呼ばせていただきます。


スぺシムは、原子番号が大きいため、ごく短い時間でアルファ崩壊を起こします。つまり、この宇宙に現れたスぺシムは、1マイクロ秒よりさらに短い時間でヘリウム原子核を放出して、スぺシムより原子番号が小さい、より安定した元素に変化いたします。このような不安定な物質を怪獣まで到達させるのは、容易ではございません。


そこで、スぺシムを怪獣に到達させるために、かの宇宙警備隊員は、スぺシムそのものを両腕から怪獣に放出するのではなく、スぺシムを生成するアトミックマシンを怪獣に向かって放出いたします。そして、怪獣に到達したアトミックマシンが怪獣のすぐ近くでスぺシムを生成し、致命的な効果を怪獣に与えるのであります。


スぺシムのような原子番号が大きい元素を合成するためには、莫大なエネルギーを必要といたします。アトミックマシンは、このエネルギーを内側に蓄えた状態で怪獣に向かって移動するため、光り輝いて見えます。これがゆっくりと進む「光線」の正体であります。


これは、かの宇宙警備隊員の戦術によっても裏付けられます。大気中を高速移動できないアトミックマシンを怪獣に届かせるため、かの宇宙警備隊員は、まず格闘術でもって怪獣の動きを止め、アトミックマシンを確実に届かせることが可能な状況を作るのであります。



彼らの技術は、私たちの数万年先を行っております。しかしながら、この発見により、私たちもアトミックマシンを作れる進歩した種族に、一歩近づいたと言えるのではないでしょうか。



ご清聴ありがとうございました。

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