第6話

「恭一、助けて。お願い、私のスマホを今、この電車が到着する東京へ」

 甘いな。

 先ほどまで、別れようと思って何も告げずに、眠っていた自分の男に、私はこんなにも会いたいと思っている。というか、スマホを欲していた。

 恭一があのクマちゃんの形のキーホルダーをどんなに嬉しそうに見ていたか。きっと喜んでくれるだろうという思いが満面の笑み。

「な、これ。いいだろ? 就活に行く時のお守りだよ。ずっと欲しがっていたじゃないか、黒のバッグに合うと思ってた。面接や試験の時はバッグの中に入れればいいよ。これがあれば、僕が見守っているからさ」それは三月の終わりの日曜日の事だった。

「ありがとう、大事にするよ。いつも一緒だね」

 私は誕生日のお祝いのレストランのテーブルでそう返事をした。

 恭一は、お気に入りのジャケットを買わずに私のキーホルダーを買ったのだろう。ウインドウで見ていたジャケットじゃなく、去年と同じジャケットを着ている。Paul Smithのジャケットを私がプレゼントできるはずない。マフラーを今年のクリスマスはプレゼントしようと思っていた。

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