第53話 思いを残して

「素人ガ振ッタ所デ俺様ニ勝テルカ!」


 そう言って無防備に突っ込む怪人!

 だが、隆幸は静かに構え……そのまま思うがままに振るった!


「おりゃぁぁ!」


 ブルン!

 

 隆幸が払った下段横薙切りが怪人に襲い掛かる!

 だが……


「フン!」


 怪人は軽くジャンプしてこれを避ける。

 だが、一瞬だけ宙に浮いた怪人は全く身動きが取れなくなった。


 ビュオン!


 その怪人の頭に隆幸の脳天唐竹割りが襲い掛かった!

 怪人の脳天に隆幸の振るった刃が当たり……


 パキィン!


 

 その瞬間、怪人は勝ちを確信した!


(馬鹿メ! 頭ニ鉄板ガ無イトデモ思ッタカ!)


 頭は脳を守る大事な場所である。

 兵隊の大半はヘルメットを着用するのが当たりまえなのも、一番守るべきところだからだ。


(コレデ奴ノ武器ハ無クナッタ! 後ハジックリ痛ブッテ殺シテヤル!)


 そう確信した怪人がニヤリと嗤い、隆幸を捕まえようとしたその時……


 ズブリ


 


「……………………ごけ……………………」


 一瞬で思考がぐちゃぐちゃになる怪人。

 一方、隆幸の方はと言えば……


「……………………えっ?」


 何が起こったのかもわからなかった。

 だが、すぐに何故そうなったのかもわかった。


(折れた刀でそのまま突いちゃったら……勝った?)


 人間、毎日の訓練がいざと言うときに出る。

 日々の練習が隆幸に突きをさせた。

 そして、隆幸はようやく何が起きたのかわかった。


(兜抜きは…………)


 だから

 確かに折れた刀でそのまま戦い続けるよりは拾った方が早い。

 実戦で培われた技にはちゃんと理由があったのだ。

 ただ、剣舞にすると恰好が悪くなるだけだった。


 


「くかえぱらとみては……」


 完全に脳を壊された怪人は、もはや何を言っているのかわからない。

 すると……


 ガシィ!


 怪人は隆幸の体を羽交い絞めにした!


「なに?」


 怪人の謎の行動に訝しむ隆幸だが、ツギオが叫んだ!


「逃げてタカ! そいつは爆発する気だ!」

「嘘だろ!」


 慌てて振りほどこうとする隆幸が、怪人の羽交い絞めは強力でびくりともしない。

 

「くそ! いたたたたたた!!」


 必死で振りほどこうとするのだが、上手く行かない隆幸。

 ツギオは大声で叫んだ!


「装着解除!」


 パキャン


 隆幸のパワードスーツが解除され、その勢いで少しだけ絞める力が緩んだ。


「何とか……うぐ!」


 折れた骨がどこかに刺さったのか痛みが激しくなっていくので、体が上手く動かせない。

 

「くそ! 外れろ!」

「タカ! 頑張って!」


 羅護とツギオも一緒になって振りほどこうと引っ張る!

 すると……


 ズル……


 ようやく隆幸の体が抜けた!


「いたたた……」

「しっかりしろ!」

「急いで!」


 羅護とツギオの二人で隆幸の体を引っ張って引きずり出す!

 その瞬間だった……


 ボゴォン!


 怪人の姿は爆裂四散して砕け散った。


「「「……………………」」」


 燃えカスがチリチリしてるのを見て、呆気に取られる三人。

 羅護は呆然としていると隆幸が叫ぶ。


「うぎぃ……………………痛い……」

「おい! 大丈夫か!」

「大丈夫じゃない……救急車呼んで……」

「わかった!」


 慌てて救急車を呼ぶ羅護。

 携帯を取り出して電話をかける羅護を尻目に隆幸は言った。


「ツギオは今すぐ未来に帰れ」

「えっ? どうしたの急に?」


 苦しそうに呻きながら言う隆幸に戸惑うツギオだが、隆幸は言った。


「ここに居ると事情聴取とかで大変になる。お前が未来に帰った方が隠しやすい」


 当り前だが、事情が分かっている人間が居るのと居ないとでわかることの差は大きい。

 とは言え、こんな未来の話をイチイチ事情聴取に付き合っても迷宮入りするだけだし、その間は何年もずっと拘束される。


「下手すると捕まって帰れなくなる……だから早く帰れ」

「でも……」

「良いから! 俺は大丈夫だから……」


 そう言って隆幸は苦しそうに笑う。


「早く行け……お祭り馬鹿はさっさと未来に帰れ……」

「……うん……元気でね」


 そう言ってツギオは去って行った。

 入れ替わりで看病に入る羅護。


「あいつはどこ行ったんだ?」

「一旦、家に帰らせた」


 さらっと誤魔化す隆幸。

 だが、羅護は眉を顰める。


「結局、何だったんだ? 何か特撮の怪人みたいな奴が居たし、あいつはあいつでパワードスーツみたいなもん出してきたし、どういうことなんだよ?」

「とりあえず……落ち着いてからにしようぜ」


 そう言って隆幸は一息つけた。


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