第19話 似た者同士

 用意が整い、鹿狩りへと出発する。


 一応、代表はタジーとし、オレとメビアーヌはタジーの仲間。ミレアナたちは雇われと言う形だ。


「しかし、よく馬と荷車を買えたな。結構しっかりしてるだろう、これ」


 馬なら金さえ出せばすぐ買えるだろうが、荷車は完全受注生産だ。できたものを売ってるなんて聞いたことはない。そう簡単に手放すものでもないしな。


「盗賊に襲われた隊商から買ったんですよ。現金が欲しいと言うので」


 あーそれでか。補償金とか払わなくちゃならんからな。


「隊商も大変ですよね」


「まあ、運がなかったってことだな」


 王は流通を大事にしたが、安全な流通などない。自然災害、魔物被害、人為的問題と、危険はなくならない。どんなに気をつけても起こるときは起こる。もう運がなかったとしか言いようがないだろう。


「最初は金がかかってもちゃんと届けることを優先しろ。信頼は積み重ねだからな」


 なんの成果もない若造だ。信頼されることはないだろう。それに腐らず荷を運び続けるしかないさ。


「あなたがそんな賭けみたいなことしないでしょう」


 横を歩くミレアナが皮肉を言ってくる。


「魔法使いたるもの賭けはしない。やるからには成功させるし、失敗はさせないよ」


 商売は専門外だが、荷を守ることは専門職と言っても過言ではない。それができないようでは一流の魔法使いとは言えないからな。


「あなたをそこまで駆り立てるものはなんなの?」


「まあ、酒だな。滞ると飲めなくなる」


 私情と言いたいなら好きなだけ言うがよい。オレは酒のためなら矜持すら捨てる男なのだ!


「あなた、酒で身を滅ぼすわよ」


「それは最高だな」


 好きな酒で人生を終わらす。戦いで死ぬよりは人らしい死に方だろう。


「お前は、早く男を見つけて子を成せ」


 もう三十を過ぎている。どんどん産むのが大変になるぞ。


「それ、セクハラよ!」


 王が広めたものは多くあるが、このセクハラは広めて欲しくなかった。真っ当な助言もできないんだからよ。


 ……ってか、未だにセクハラの定義がわからんよ……。


「人に言う前にあなたこそ早く女性を見つけて家庭を持ちなさいよ」


「オレは真っ当な夫にも父親にもなれないよ」


 人生の大半を戦いに身を投じ、魔法ばかり極めてきた。仮に家庭を持てたとしても魔法を優先させるだろう。そんな男に家庭を持つ資格はない。


「……あなたは変わらないわね……」


「時代についていけない古い人おっさんだからな。お前はちゃんと変われよ」


 魔法は器用に扱えるのに、時代の変化にはついていけない。ほんと、歳を取りたくないもんだよ。


「わたしだってそんなに若くないわよ」


「三十なんてまだ小娘だよ」


 まあ、六歳しか違わないが、出会った頃のままで固定してるから若く見えてしまうんだよな……。


「だったらあなたもまだ小僧でしょうが。タルマルさんから見たら、だけど」


「あんな化石から見たら五十歳でも小僧だよ」


 タルマルじいさんは、出会った頃からじいさんだった。本人は七十を過ぎてから歳など忘れたと言ってたが、あれは軽く百歳は超えている。絶対にそうだ。


「それもそうね。わたし、未だにお嬢ちゃん呼びされるわ」


「タルマルじいさんから見たら孫にしか見えんだろうよ」


 オレは認められてるからか名前で呼ばれているが、たまに小僧扱いされるよ。


「あんな祖父がいたら気が滅入るわね」


「お前とは正反対だからな」


 タルマルじいさんは情熱派。ミレアナは理論派だ。馴染むことはないだろうよ。


「そう言えば、ミグジたちに魔法剣を教えたようね」


「教えたと言うほど教えてはいないよ。その前段階だな。お前、できたっけ?」


 人を圧死させるような氷の玉はよく放っていたけどな。


「氷の剣ならできるわよ」


 と、見事な氷の剣を作り出した。


「触れたものすべて凍らせそうだ」


 氷の剣を貸してもらい、道脇の雑草を薙ぐと、周辺が凍りついた。


「剣にする意味ないな」


「そうね。ミグジはなぜ覚えようとしたの?」


「咄嗟のときに使いたいそうだ」


 その咄嗟にならないよう考えて動くのが魔法使いなんだけどな。


「ふふ。わたしもそんな時代があったわね」


 確かに、あの頃になると魔法剣とかかっこよく思えるよな。オレもそうだったよ。


「魔法使いあるあるだな」


 似たような道を通るとか、笑えてくるぜ。


 ミレアナが作り出した氷の剣を遠くに放り投げる。


「ちょっと、ちゃんと消しなさいよ。誰かが触ったらどうするのよ」


「触るバカが悪いだろう」


「触るバカがいるから言ってるのよ」


「ハイハイ、ごめんなさいね」


 炎の矢を飛ばして氷の剣を溶かした。


「まったく、雑なんだから。燃え移ったらどうするのよ」


 水の玉を飛ばして炎の矢を消した。


「……メビアーヌ。この二人はいつもこうなのか……?」


「概ねこんな感じですね」


 なにやら後ろを歩くメイナ姫と弟子が呆れている。なんだって言うんだよ?


「だから離れて歩いてたのか」


「はい。似た者同士ですから、お師匠様とミレアナさんは」


 はぁ? オレがミレアナと似てる? 


「メビ。わたしはちゃんと常識を持っていますよ」


「オレだって持ってるよ!」


 お前はなに言っちゃってくれてんだよ!


「なるほど。確かに似た者同士だ」


 だから違うって! まったく似てないよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る