第8話 炎の魔剣
蒸留酒を飲みながらフルボッコ祭を見物してたが、疲れてきたのか少年少女たちの動きが落ちてきた。
オレの代わりに薬草を集めてもらわなくちゃならないので力尽きられては困る。
「火の矢!」
で、蟻どもの頭をぶち抜く。
「お前ら、休め。リオタ、まだ動けるな?」
魔力を使い、体力を使う。十三、四歳の体では辛いだろうが、騎士になるならこのくらいでへばっていたら勤まらない。へばってからが本番だ。
「だ、大丈夫です!」
ふふ。根性があってなによりだ。
「それはなにより。蟻の首を
魔法の鞄から炎の魔剣を出す。
魔導王軍から鹵獲した魔剣であり、風呂を沸かす道具でもある。
「これをリオタにやる。国のため、民のために使うといい。オレにはもう不要だからな」
いやまあ、九割以上、風呂を沸かすことにしか使ってないんだけどな!
「こんな凄いものもらえませんよ!」
「いらないならお湯を沸かすときに使えばいいさ。騎士たる者、清潔でいるのも役目だぞ」
戦いのときは鼻をつくような臭いになるが、戦い以外は清潔でいなくちゃならない。平和な時代では騎士の役目も違ってくるからな。
「……わ、わかりました。ありがたくお受けします」
「おう。一人前の騎士になれ。それを以てお前からの礼とするからよ」
「はい! 一人前の騎士となってみせます」
国を守る騎士が増えればオレが戦いに出なくて済むのだ。将来性がある者に目をかけるくらいならなんでもないさ。
「炎の魔剣に魔力を送れば剣が炎に包まれる。極めれば鉄ですら斬り裂ける。蟻で練習しろ」
実践に勝る修行なし、かどうかはわからんし、剣のことは専門外。オレは魔法使い。魔力を高めることしか教えてやれんよ。
炎の魔剣を振って蟻の首を斬るリオタにオレの魔力を流し、魔力が体に耐えられるよう手伝ってやる。
これはあまりいい方法ではないが、リオタはオレの弟子ではない。側について教える機会は少ない。一つ二つ教えてミレアナに託すとしよう。
そして、十八匹ほど首を落としてリオタの力が尽きた。
「まあまあだな」
リオタの襟首をつかみ、焚き火の近くまで運んでやる。
まだ日はあるが、これ以上は無茶させられんので、休ませることにした。
蟻に防御魔法をかけ、蟻に感知されないようにと獣に食い散らかされないようにする。
「ミドロックさん。見張りはどうするんですか?」
「オレが起きてるから大丈夫だよ」
昔は三徹もよくあったし、今は徹夜で飲むときもある。一晩寝なくても平気である。
申し訳なさそうな少年少女を寝かせ、オレは魔法の鞄からお茶の道具を出して茶を淹れた。
「……焚き火を見ながら夜を過ごすのもいいもんだな……」
戦いのときは心休まることはなかったが、平和な世では夜営も娯楽になり、焚き火に心が癒される。
何度か獣が近づいてきたが、火の矢で追い払ってやると逃げていった。
そして、日が昇り、少年少女たちが起き出した。
「おはようごさいます、ミドロックさん」
ミレアナの教育か、孤児なのに挨拶がしっかりしている。オレ、メビアーヌにそう言うこと教えてこなかったわ。それが師匠に優しくない原因だろうか?
師匠として失敗した感が否めないが、今さらどうしようもない。メビアーヌがあれ以上、厳しい弟子にならないことを切に願うとしよう。
各自、水筒(固瓜を革で包んだもの)で顔を洗い、昨日の残りで朝食を済ませた。
「今日は薬草採りとキダラの樹液を集める。リオタ。男を纏めて薬草を採ってこい。女はオレとキダラの樹液集めだ」
薬草は前にも集めたことがあると言うのでリオタに一任し、オレは少女三人を連れてキダラの樹を探しに向かった。
キダラの樹液は防腐剤となり、木造家屋によく使われるから常に求められているものだ。
「キダラの樹がどれかわかるか?」
少女たちに尋ねると、ボサボサ髪の少女が手を挙げた。
「どれだ?」
「あれです!」
と、白い皮の樹を指差した。
「前にも集めたことがあるのか?」
キダラの樹が生えているのは大森林の奥がほうに生えている。こんな小さい子がくるなんてなかなかないはずだ。
「はい。一回だけですけど」
つまり、今回が初めてではないってことか。この感じだと数回はきてるみたいだな。
……ミレンティが仕込んでいるのか……?
短剣で樹に溝を掘り、壺に集まるようにする。
「一人は集まるのを見て、二人は見張りだ。上にも注意しろよ。肉食の猿も出るからな」
滅多に現れることはないが、そんな猿もいることを教えておく。あの猿は、人も食うからな。
樹液集めは時間がかかるので、気長に待つことにする。
あー今日の夜は浴びるほど酒を飲むぞ~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます