著名な自然科学者と会おう

 前世、ヒキニートだった俺は、他のオタクどもと同じ様にファンタジー世界への転生に憧れを抱いていたことがあった。そのため、いつでも転生しても良いように、役に立ちそうな知識を無駄に集めていたのである。

 そんな俺が折角、逆行転生したのだから、転生モノで良くある内政チートや技術チートをしても良いじゃないかと思うのは致し方はず。

 まずは、内政チートや技術チートをするための下地造りが重要だと判断する。そのため、俺はドイツ圏で出会える著名な科学者たちに会うことにした。正確には、文通したり呼び出したりする訳だが。


 18世紀のドイツ圏における著名な自然科学者は意外と少ない。そんな中で、俺はゲオルク・クリストフ・リヒテンベルクに会うことにした。

 リヒテンベルクは、ドイツで初の実験物理学専門の教授となった科学者だ。元々は聖職者の子息だった様だが、幼い頃から知能と機知に恵まれ、ヘッセン=ダルムシュタット方伯ルートヴィヒ8世に学資の提供を受けて学業に勤しんだらしい。1763年にゲッティンゲン大学に入学し、1769年には物理学の員外教授 、6年後には教授となっている。


 リヒテンベルクは、講義で器具を使った実験を導入した最初の科学者の1人であり、当時のヨーロッパの学界では最も尊敬を集めいていた。

 物理学者としては、電気の研究をしているらしい。リヒテンベルクは、電気の研究をしているため、ベンジャミン・フランクリンの避雷針をいち早くドイツに持ち込み、ゲッティンゲンの自宅と物置小屋にそれを実際に設置している。


 リヒテンベルクは親英家としても知られていた。教え子に招かれ、イングランドを2回訪れたことがきっかけらしい。

 そこで、イギリス国王のジョージ3世とシャーロット王妃に手厚く歓待された。リヒテンベルクは、リッチモンドの王立天文台で王を先導し、そこで王から哲学教授にならないかと提案されたそうだ。

 イギリス国王はハノーファー選帝侯を兼ねおり、リヒテンベルクが所属するゲッティンゲンは、ハノーファー選帝侯国の領土だ。リヒテンベルクも自国の君主が治めているのだから、親英的になるだろう。


 俺は以前から侍従を通じて、リヒテンベルクを招待していた。書状の遣り取りも何度かしており、漸く招待に応じてくれることとなったのだ。

 ポツダムの宮廷に現れたリヒテンベルクは、背が低く腰が曲がっていた。彼は脊椎の奇形が生じたため「せむし」となってしまっていたのだ。

 実際に、リヒテンベルクに会っても、俺は上手く話すことが出来ないので、大体の対応は侍従たちがしてくれる。遣り取りした書状でも、上手く話せないことをぼやかしながらも書いていた。

 そんな俺の様子を、リヒテンベルクは気にすること無く、自身の研究などについて語ってくれる。上手く話せない俺に不快な様子を出さなかったのは、俺が王子だからだろう。

 議論が出来る訳も無く、一方的に話を聞くばかりだったが、リヒテンベルクと交流を持てたのは大きい。俺は侍従たちに命じて、彼を歓待し、帰る際には土産を持たせて送り出した。

 リヒテンベルクがゲッティンゲンへ帰った後、書状で上手く話せなかったことを詫びたが、気にしていないと言うことだった。その後もリヒテンベルクと書状の遣り取りをし、他の著名な学者やプロイセン出身の教え子を紹介してもらう様に頼むこととなる。



 俺は他にも著名な科学者に会うことが出来た。アメリカ合衆国建国の父の一人となるベンジャミン・フランクリンである。

 フランクリンは、物理学者、気象学者として有名であり、凧を用いた実験で、雷が電気であることを明らかにしたことでも知られている。勤勉性、探究心の強さ、合理主義、社会活動への参加など、18世紀における近代的人間像を象徴する人物だ。

 フランクリンは現在、アメリカ独立戦争で各国の支援を受けるべく、ヨーロッパを訪れている。主にフランスに滞在し、アメリカの在フランス公使を務めていた。

 フランクリンは、大伯父のフリードリヒ大王から支援を受けるべく、ポツダムを訪れる機会があったのだ。その機会を利用して、俺はフランクリンの話を聞く場を設けてもらう。

 いつも通り、フランクリンへの対応は侍従たちがする。フランクリンも始めは困惑していたが、彼の研究やアメリカのことを話してくれた。フランクリンとはその後も書状の遣り取りをしようと約束している。


 前世がコミュ障ヒキニートな俺は、当世でも人と話すのは苦手であるものの、プロイセンの宮廷で10年以上も生きていれば、上流階級の世界では人脈が重要であることは厭でも理解させられる。

 俺は人と上手く話せないが、著名な知識人と会ったことや書状の遣り取りをしていると言う事実が重要なのだ。

 俺は人と話せない分を取り戻すため、書状の遣り取りに力を入れようと思うのであった。

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