ポツダムの日本関連書籍の蔵書と収集

 俺も10歳を過ぎているので、思い通りに過ごせる様になっていた。

 ブリュッヘル少佐は、フリードリヒ大王に嫌われているので、俺の侍従武官から離任出来ていない。しかし、ポツダムにいることで、シュトイベン男爵など他の軍人たちから軍事教育を受ける機会が多かった。一応、次期国王であるフリードリヒ・ヴィルヘルム2世の長子の侍従武官なので、軍事的教養が必要だと思われているだろう。

 ナポレオンと戦うとき、彼が高位指揮官であるためには、軍歴が必要なので頑張って欲しい。史実では、除隊してからの期間が長かったため、歳下のリュッヒェル将軍より階級や序列が下になってしまっている。

 俺がナポレオンと戦うために、ブリュッヘル少佐には軍歴をしっかり積んでもらう必要があるのだ。


 俺は母国語となったドイツ語を含め、数ヶ国語を読み書き出来る様になった。しかし、コミュ障なのでドイツ語すら満足に会話出来ないままだ。一応、聞き取りは出来ないと不便と言うことで、会話も習っているが。

 読み書きが上手くなったことで、他人とコミニュケーションの手段として手紙の遣り取りが加わった。身近な人間にも細かい意図を伝えたい時は、筆記で指示している。そのため、他人との意思疎通が多少は円滑になった気がしていた。


 趣味として日本研究も相変わらず行っている。以前から、俺は日本に関連する書籍を取り寄せていたが、ポツダムの宮廷にも日本関連の書籍は元々置いてあった。

 一番の有名どころは、エンゲルベルト・ケンペルの『日本誌』だろう。ケンペルが実際に執筆したのは『廻国奇観』と『日本誌』の草稿だが。勿論、ポツダムには『廻国奇観』も置いてある。

 ケンペルの『日本誌』は、イギリス国王の侍医で熱心な収集家だったハンス・スローンによって、1727年、遺稿を英語に訳させたれたものが出版された。ケンペルの遺品の多くは遺族によって、スローンに売却されていたのである。

 イギリスでの出版の後、『日本誌』は、フランス語、オランダ語にも訳されている。

 そして、プロイセン王国枢密顧問官クリスティアン・コンラート・ヴィルヘルム・ドームが、甥ヨハン・ヘルマンによって書かれた『日本誌』の草稿を見つけ、1777‐79年にドイツ語版を出版することとなる。今の内に、ドームと関わりを持つのも良いかもしれないな。

 ケンペルの『日本誌』は、特にフランス語版が出版されたことと、ディドロの『百科全書』の日本関連項目の記述が、ほぼ全て『日本誌』を典拠としたことが原動力となり、知識人の間で一世を風靡した。そのため、ゲーテ、カント、ヴォルテール、モンテスキューらも愛読し、19世紀のジャポニスムに繋がってゆく。

 勿論、啓蒙専制君主である大伯父のフリードリヒ大王も御覧になられたのだろう。ポツダムの宮廷には、英語、フランス語、オランダ語の『日本誌』が揃っており、『百科全書』も置いてある。


 ケンペルの『日本誌』の中には、日本人にとってはお馴染みのイチョウについて書いてある。ヨーロッパでイチョウは、学問的にも既に絶滅したと考えられていた植物だったらしい。しかし、日本にイチョウが生えていることをケンペルが書いたため「生きている化石」の発見と受け取られた様だ。

 因みに、ケンペルは日本からヨーロッパにイチョウを持ち帰っている。

 日本で有名なフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトもケンペルに大きな影響を受けていた様だ。そのため、シーボルトは著書で、ケンペルを顕彰している。


 スローンが購入したケンペルの収集品は、今では大英博物館に所蔵されている。と言うより、スローンの膨大な収集品が元になって大英博物館が設立されのだ。

 一方、神聖ローマ帝国内に残っていたケンペルの膨大な蔵書類は差し押さえに合ってしまい、散逸してしまっている。21世紀では彼のメモや書類はデトモルトに現存している様だが、俺が生きている18世紀では散逸したままだろう。

 ケンペルの原稿の校訂は21世紀でも行われているそうで、『日本誌』は遺稿と英語の初版とでは、かなりの違うらしい。2001年にはケンペルが残したオリジナル版が初めて発表されたそうだ。

 ドームもケンペル関連の資料を集めているかもしれないが、俺も侍従たちに命じて、ケンペルの遺産を集めさせるとしよう。

 

 ポツダムの宮廷に他にあった日本関連の書籍は、オランダ東インド会社の日本商館長だったフランソワ・カロンの『日本大王国志』やマルコ・ポーロの『東方見聞録』ぐらいだろう。

 俺が取寄せた日本関連の書籍は、フェルナン・メンデス・ピントの『遍歴記』があるが、信頼性は高くない。それでも、それなりに当時の日本の情報が書かれている。

 俺が読みたかったルイス・フロイスの『日本史』は、わざわざポルトガルに人を遣って、写させてきた。ポルトガル本国にも写本が少ししかないと言う貴重な品だ。

 まだ手に入れていない書籍や資料は、イエズス会が保有している。アレッサンドロ・ヴァリニャーノの『日本巡察記』が欲しいのだが、機密報告書だったらしいので、イエズス会に日本関連の書類の写しが欲しいと依頼をしていた。ジョアン・ロドリゲスの『日本教会史』の写本もあるはずなので欲しい。

 ロドリゲスの『日本語文典』と『日本語小文典』は手に入れているのだ。他にも、ザビエルの伝記など、日本関連の書物を集めている。


 個人的に作った独日辞書もそれなりに出来上がっているので、俺は日本研究家と名乗っても良いのではないかと思ったりする。しかし、人と話すのが苦手なので、本物の日本研究家が現れたら嫌だから、名乗るのは止めておこう。

 取り敢えず、日本研究は継続することにしよう。

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