日本文化と醤油との再会

 次期国王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世の長子として、何れはプロイセン国王となる俺は、語学や教養などの勉強をさせられている。語学については、主語の欠如した話し方しか出来ないので、親も家庭教師も諦めたのか簡単な口語だけで、読み書きが主となっていはいるが。その分、空いた時間を他の勉強に使える。

 しつけに関しては、大伯父から虐待の様な教育を受けた反動からか、父上は煩くない。それどころか、幼少期の自分自身に重なるのか、素っ気ないと言うか、あまり関わろうとしない。しつけなどは侍従武官のブリュッヘル少佐が結構煩いほどだ。まぁ、俺も余り喋らないし、大人しいのでそこまで煩くは無いが。


 俺もそれなりに成長し、この時代の生活に慣れてきた。そのため、侍従に希望を伝えれば大抵のことは叶うようになっている。

 そんな俺は、オランダ東インド会社などを通じて、日本に関する文献を取り寄せさせたのだ。父上の妹がネーデルラント連邦共和国(オランダ)の総督であるウィレム5世に嫁いでいるため、オランダから品々を取り寄せやすい。

 オランダから日本の品々を取り寄せようと思ったところ、高い上に品揃えが悪いことに気付く。日本からの輸出品や数の制限をされているから、仕方無いので殆どは買わない。

 そんな俺でも、どうしても欲しいと取り寄せた品がある。それは「醤油」だ。醤油が欲しいと侍従にねだると、宮殿の厨房にあるらしい。高価な調味料であるものの、17世紀からオランダ東インド会社が取り扱っているため、ヨーロッパにも入ってきており、上流階級の中ではそれなりに知られた調味料となっている様だ。因みに、フランスのルイ14世も愛用していたらしい。

 侍従に命じて、厨房から醤油を取ってきてもらう。侍従はオランダ東インド会社「VOC」マークが入った陶磁器の白い瓶を抱えて戻ってきた。侍従が持ってきた醤油を試しに舐めてみると、しょっぱい。馴染みのある醤油の味ではあるが、21世紀の物に比べると旨味が少ない様に感じられるが、致し方ないだろう。

 長崎から届くので、もしかしたら九州の甘い醤油がなのではないかと不安に思っていたが、そんなことは無くて良かった。

 出来れば、味噌も取り寄せたいが、醤油と違って保管が難しいから、無理だろうな。

 思わず、前世の故郷の味に感動し、思わず泣いてしまったら、侍従たちが驚き、慌てて騒ぎ出す。危うく、醤油を持ってきた侍従がブリュッヘル少佐によって捕らえられるところだった。

 オランダの東インド会社が、醤油を取り扱う様になったのは、魚醤などの発酵調味料を使う東南アジア諸国では売れるかもしれないと思ったかららしいが、陶磁器の瓶に入れたことで風味を保存出来る様になり、ヨーロッパにも持ち込まれた様だ。

 慣れ親しんだ醤油が気軽に手に入ることが分かり、安心した。

 取り敢えず、俺のおやつは馬鈴薯のバター醤油味にする様に命じておいた。普段の食事の食事でも味気ないと感じたときは醤油を掛ける。馬鈴薯もヴルスト(ソーセージ)も前世の頃から大好物だったので、食事への不満は大きくは無かったが、醤油のお陰で大きく改善されたな。侍従に醤油をかけさせる姿を観て、両親は信じられない様な顔をしているが、気にするもんか。

 醤油が手に入ると、日本の品々が益々欲しくなってしまうな。

 

 俺は時間があれば、取り寄せた日本関連の書物を読み漁っている。ドイツ語と日本語の対照表なども作ってみた。何となく、前世のことを忘れたくないから作っている。そんな俺の身近にも、日本文化に触れられるところがあるのだ。

 それは、ポツダムの宮殿には大伯父のフリードリヒ大王が作った中国茶館である。中国茶館とは言うものの、中にある陶磁器は日本製が多いみたいなことを前世に聞いた気がした。

 俺は侍従たちを伴って、中国茶館を訪れると、入口に金ピカの不気味な人形が置いてある。中も陶磁器が不思議な展示をされており、元東洋人としては複雑な気分にさせられるな。

 これが、ヨーロッパで流行ったシノワズリと言うものなのだろう。ヨーロッパ人の考える東洋や中国の世界に違いないと思いつつ、当分訪れることは無いだろうなと思った。


 何とかプロイセンでも日本と交易出来ないものか、考えてみるか。

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