第15話 バグったオーパーツ

「ねぇねぇ。さっきのって結局なんだったの、レーム君?」


 現在、草原を歩いている最中。

 リリがそんなことを聞いてきた。


 因みにリザードマンとの戦いの後、僕はまたぶっ倒れて気絶してしまったのだが。

 割とすぐ起きて問題なく歩けているので、リリのアイドルパフォーマンスによるバフの反動が凄く大きいというわけではないらしい。

(まぁ気絶はしたのだから反動がないわけでもないのだが)


「さっきというと、ライブ映像を送った件についてですか?」

「そうそう、それそれ」

「あれは契約系スキルの能力ですね」


 この世界には、他者と情報を直接共有するスキル、というのが普通に存在する。

 契約系スキルもその一つだ。


 例えば僕が教会で受けた鑑定スキルもその一種だろう。

 鑑定者が得た情報を、契約によって僕もいつでも見ることができる状態な訳だからな。


 他にも精神干渉系スキルなんかも該当したはず。

 こっちは共有というか、半ば強制的に相手の脳に情報を送りこむようなイメージだった気がするけど。


 もっといえば、言語翻訳というか、他種族や異種族と意思疎通する為のスキルも契約系や精神干渉系のスキルに属している、みたいな設定もあったような記憶がある。

 まぁ要するに、実はそんなに珍しい現象でもない、ということだろう。


「僕とリリとの間に結ばれたアイドル契約スキルによって、アイドルのことに関する記憶なんかを共有することができたんだと思います」

「あれって、レーム君の記憶だったんだ……。なんだか不思議な世界だった気がするけど、人間の町ではああいう場所があったりするの?」


 あ。

 そうか、現代日本のライブ映像の記憶送るとそういう事になるよね。


 うーん、説明しても別にいいけど、ややこしくなるだけな気もするしなぁ。


「僕はちょっと特殊な事情があって、不思議な世界の記憶を持っているんですよ。別に隠し事をするつもりはないんですが、口で説明するのは難しいといいますか……」

「そーなんだぁ」


 そーなんだ、で納得するリリも凄いな。

 得体の知れない記憶を持った相手と契約しているというのに。


「ウチはレーム君が何者でも別にいいっていうか、何者でも驚かないっていうか。だから無理に説明しないでもいいよ? ウチは全力でアイドルを目指すだけだから」


 穏やかに微笑みつつ、リリはそんなことを言ったのだった。

 担当アイドルからの信頼が妙に厚くて、なかなかプレッシャーである。




 二人でしばし歩いて草原の丘陵、その中でも標高が比較的高めな丘の頂上にたどり着いた。


 ここに来れば多分――――あ、見えた。


「あっ。お、おっきい…………あれって、おばーちゃんの話しで聞いたやつ、なのかな?」

「そうですね。あれが古代の遺跡ってやつです」


 草原の中にポツンと建っている異形の塔。

 いわゆるオーパーツな遺跡である。


 各地に存在しているがここは普通に露出していて見つけやすい、というかむしろ目立ちすぎて人が近づかない類いの場所だな。


 この世界で一般的に見られる建造物とも違うし、現代日本の高層建築とも趣が違う。


 なんといえばいいのか上手く例えが思いつかないが、多分スチームパンクとかそういうタイプのセンスなんだろうなアレ。

 いや別に蒸気で動きはしないだろうけど、どう考えても意味不明の場所についてる歯車とか、ぼんやり光る謎の魔方陣とか、そういうのがつまっている系の。

 魔導パンク、とでもいえばいいのだろうか?


 そういった雰囲気の塔が見えた。


「あそこが我々の目的地ですね」

「そ、そうなんだ。実際にいくとなると、ちょっと怖いかも……」

「大丈夫です。多分」

「た、多分なんだ……。う、うん。行くけどね?」


 ゲームのシナリオ通りにいけば、多分大丈夫なはず。

 と、いうことで僕らは塔に向かって歩き出したのだった。







 塔にたどり着く頃にはすっかり夜になっていたので、兄たちの馬車からかっぱらってきた野営用の装備で野宿をした。


 草原では魔物に遭遇しなかったとはいえ、一応警戒して徹夜で見張りをしようとしていたのだが。


『大丈夫! ウチ、森での経験で魔物とか動物の気配に敏感だから、なんか近づいたらすぐ起きれるよ!』


 と、リリが言うので寝ることにしたのである。


 確かに、戦闘訓練はしていても魔物の気配を感じる練習なんてまったくしてない僕よりはリリの方が専門家といっていいだろうからな。

 いつも森にいたリリが魔物に対して警戒していないように見えたのはそういう理由だったんだなぁ。寧ろ警戒慣れしていて、僕には気づけないくらい自然に周囲の状況を察知していたのだろう。


 そんなこんなで、朝。


「さて、それでは内部に侵入しましょうか」

「うんっ」


 改めて遺跡に侵入である。


 入り口は普通に開け放された扉みたいなものだ。

 中はがらんどうで、一見すると特に何も無い。

 ただ奥に伸びる廊下があるだけだった。


「うぅ、やっぱりちょっと怖いかも」

「まぁ確かに。でも、ここはむか~しの人達が使っていた施設が残っているってだけなので、あんまり怯える必要はないですよ」


 流石オーパーツというべきか、こんな堂々と開け放されているというのにあまり風化もしていない。

 流石に埃や土が所々堆積していたり、そこから植物が育ってしまったりしてはいるが、塔の基礎そのものはしっかりと残っている。


 時間経過を感じさせる部分とそうでない部分とのギャップが妙に不安にさせるのだ。

 ゲームの記憶からすれば大きな危険はないと分かっているので実際には問題ないのだけれど。


「多分大丈夫なので進みましょう。一応警戒はしつつですが」

「う、うん」


 廊下を歩いていく。


 周りは薄暗いが、壁や床、天井に所々ぼんやりと光る魔方陣が書き込まれているので真っ暗にはならない。


 つまりこの施設は今も生きているのだ。あまり風化していないのもソレが理由だろう。

 ゆえにある程度安全なのである。


 元々はなんかの研究施設だかという設定で、警備システムも不完全ながらまだ生きているので魔物の巣みたいにはならないとかだったはず。

 人間が入る分には、奥の研究室みたいな所までは警備も反応しないのだ。


 因みに、ここでいう『人間』には亜人や魔人も入っている。

 超古代文明は多種族共生共存が達成された社会だったから人種の有無は関係がなかった、という設定があった。

 だとしたらなんで滅んだんだろう? とは思うが、その辺は僕がプレイしてた範囲では明かされていなかったからな。


「あ、あれ? 行き止まりだよ?」


 リリの言葉通り、扉に阻まれてしまった。


 ここからが研究エリア、ということなのだろう。

 つまりこの先に入ると警備システムが作動する。


 そのせいでここは禁断の地みたいに扱われているし、盗掘者とかも手をだせないでいたわけなのだ、が。


「リリ、ちょっとここで待っていてください」

「え? う、うん」


 リリを置いて、一人で扉の前に立つ。


 扉の横にスイッチみたいなものがあり、押すと扉は自動で開いた。

 後ろでリリが小さく驚きの声を上げるのを聞きつつ、扉をくぐる。


『警告。しん――にゅう者。登録、システむ、に……認証――』


 くぐった瞬間、腰までくらいの身長の多脚ロボみたいな物が控えており、合成音声みたいな声で話しかけてきた。

 またまた後ろで「ふぁっ!?」とか声が聞こえるが、説明しようにも下手なことを言うと余計混乱させそうなので今は置いておく。


 ただ、この様子だとロボにはかなりガタがきているようだ。

 なるほどな。そのせいでスキルが通じてしまった、と。


「契約スキル、発動!」


 アイドル契約のスキルを多脚ロボに対して発動させる。


 ゲームでは、レームの『亜人契約』スキルが誤認証されたことでここのシステムを利用できるようになってしまった……みたいな設定があった。つまりはバグだ。


 つまり、スキル側はロボを亜人の一種と捉えて契約し、ロボ側はこの施設で働く契約職員かなんかと勘違いして認証してしまった、みたいな話しなのだろう。

 ということは、古代でもやっぱりスキルやジョブは普通にあって、システムに組み込まれていたということなんだろうな。


 僕のアイドル契約スキルは亜人契約スキルの変化したものだから、多分同じことができるはず――。


『――認証、にんしょう、かくニンしました』


 お、できた。


 ならば。


「もう一人は僕の助手、みたいな感じなんですけど。入っても大丈夫ですか?」


 後ろにいるリリを指さしながら聞いてみる、と。


『かくニンします』


 多脚ロボのカメラアイみたいな所から謎の光が出てリリを照らした。

 またまたまたリリが「ふぁああ!?」って慌てているが、やっぱり認証がどうとか説明が難しいから「大丈夫ですよ」とだけ言っておく。


『かくニン。認証できマした』


 問題なかったようだ。

 リリは僕と契約状態にあるからな。どういう理屈でかしらないが、それを判別する方法をこいつは持っているのだろう。


 魔導は魔術を再現できる技術だ。

 スキルを判別する鑑定スキルのような特殊な魔術も、魔導技術で再現しているのかもしれない。


「では、奥にいきましょうリリ。制御系を掌握すれば色々便利なことができるはずです」

「ふぇっ!? う、うん? こ、これ、噛みついてこないよね……?」


 リリは多脚ロボを壁ギリギリまで張り付いて避けながら、僕の後について歩き出した。


 小動物みたいで可愛い。

 うちの担当アイドルはリアクション系の芸風もいけるかもしれない……!

 

 などという考えが先行してしまったが、あまり怖がらせるのも可哀想なのですぐに安全生について説明したのだった。



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