第14話 ※デビューしたてのアイドルがショッピングモールとかのイベントスペースで一人パフォーマンスを披露している時の曲(のイメージ

 <アイドル契約スキル発動>


 んん!? スキル!?


 契約スキル発動っていわれても、既にリリとは契約済みなんだが。

 まさかリザードマンとアイドル契約をしろってわけじゃないだろうし?


 よ、よく分からないが、やるだけやってみるか。


「えーっと、アイドル契約っ」


 虚空に手を翳して叫んでみる。


 が、なにも起きない。

 踊っていたリリをビクッとさせただけだ。すまぬ。


 「スキル発動って一体なにが……。ッ!?」


 困惑しつつもリザードマンの攻撃を回避していたら、頭の中で突然に『映像』が湧き上がってくるような感覚を覚えた。


 これは、記憶、か?

 まるで水底に沈んだモノが浮き上がってくるように、急に鮮明に映像と音が――。


 ――具体的には『ハピネスクローバー3周年ライブ』が浮かんできた?


「こ、これって僕が持っていた円盤に収録されていたヤツじゃ……なんで今!?」


 わけが分からない。これってスキルの効果なのか?


 くそっ。スキルというものを使ったことがないので、いまいちスキルを意図的に使いこなす感覚が分からない。

 鑑定スキルを受けた影響で、スキルが発動したことだけは分かるんだけども。


 兄たちがスキルを使う修練を受けていた際に教師役に言われていたのは『スキルの使い方は体が教えてくれる。己のスキルとの対話が重要なのだ』みたいな内容だった。


 急場だが、なんとか攻撃を回避して逃げ回りつつ、僕も教えにならって己の中のスキルに集中していく。


 すると、たしかになんとなく、ぼんやりだが感覚が掴めてきた。


「そうか、そういえばスキルだものな」


 ならば、こういう使い方もできるってことか。


「契約者、リリと情報共有。ライブ映像を転送!」


 先ほど、恐らくはスキルの影響を受けて浮かび上がってきたライブの記憶を、契約スキルを通してリリに送る。


「ふぁっ!?」


 リリがビクッとなって踊りを止めた。


 まるで立ちながら夢でも見ているかのように、虚空を見つめて固まってしまっている。

 今、リリの脳内にはハッピークローバー3周年ライブが――僕が今まで散々劣化コピーとして教えていた歌と踊りの本物が――直接情報として叩きこまれているはずだ。


 一挙に送り込みすぎると負担が大きすぎる可能性があるので今回は1曲分だけにしてあるが。それでも現在この世界で初めて、唯一リリだけが僕とアイドルの存在を共有したことになる。


「……これが、これが、アイドルっ……!?」


 文字通り、夢から覚めたように大きな声を上げるリリ。


「ピカピカしてウキウキして――待っててレーム君、ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってて!!」


 リリがまた目を瞑って、瞑想? してるみたいな状態になったのが気配で分かった。


「了解です」


 そろそろ、魔眼の集中連続使用のせいで頭痛が酷くなってきた。

 複数体の敵を相手に攻撃を避け続ける為にはしかたないとはいえ、限界が近い。


 だが、担当アイドルが待てというのだから、当然いつまでだって待とうじゃないか。


「…………こうして、そう、うん、そうっ! いくよっ、ウチのアイドル!」


 リリが大きく息を吸い込む音。


 ついで、歌声。


 いや、それだけじゃない。

 契約スキルを通じて今度は僕の方にリリのアイドルパフォーマンスが送られてきた。

 背中越しでも、気配だけでも、しっかりハッキリとリリの歌って踊る姿が見える。


「あぁ……やっぱり」


 やっぱり下手くそだ。まだまだダンスも曖昧だし、歌も完璧にはほど遠い。

 そりゃそうだ。リリはまだ一回本物を見聞きしただけなのだから。

 いきなり完コピなんてできるわけもない。しかも相変わらずアカペラのまま。


 けれども。


「やっぱり、アイドルは最高だ!!」


 敵に向かって大きく踏み込む。


 体が軽い。

 まるで羽の様に動く。


『グルゥッ!?』


 一瞬で背後に回り込まれたことで、リザードマンが僕を見失う。


 その隙に背中に剣先で突きを放ち、鎧通し!


『グルルァッ!!』


 リザードマンの固い鱗を無視して、内部に衝撃の波紋が広がる。

 断末魔と共にヤツは崩れて落ちた。


『グルルル――シャァ!!』


 他のリザードマンが口から高速の水鉄砲の様なモノを吐いてきた。

 恐らく、魔物特有の魔術やスキルみたいなものだろう。


「よっ!」


 リリのダンスステップに合わせるように、体が軽やかに動く。

 まるで半分自分の体ではないみたいだ。


 高速水鉄砲を躱し、カウンター気味に突っ込んでリザードマンの頭部に剣を振り下ろした。


 残りの二体にも視線を送る、が最早とても脅威とは思えない。


「まだ、続けます?」


 別に言葉が通じたわけでもないのだろうが、残りのリザードマンはジリジリと下がったあとに川の中へと逃走していった。戦力差を悟ったということだろう。


 魔物に対しての初勝利、かな?

 でも今はそんなことよりも。


 振り返ると、リリのパフォーマンスがちょうど終わるところだった。


 息を切らし、汗だくで、下手をすると戦闘後の僕よりも消耗してみえる。

 ……多分、たった一回見聞きしただけのパフォーマンスを、可能な限り高いクオリティで再現する為に全身全霊を尽くしたのだろう。


 アイドルパフォーマンスこそが僕の力になるとリリは知っている。

 それこそが、いずれ僕の夢そのものになると彼女は分かっている。


「レ、レーム君、どうだった? ウチの、アイドル」


 開口一番、何よりも先にソレを確認して聞いてくるリリ。

 真剣な瞳に応えるべく、こちらも真摯に答える。


「まだまだです」

「あ、あぅ……」


 まだまだクオリティは上げられる。

 なんとか音楽、BGMもつけてあげたい。

 衣装や髪型なんかのビジュアル面も今後は考えないとだ。


「でも、アイドルでした」

「……え?」

「さっきのリリは、アイドルでした」


 僕の言葉に、リリは少しばかりぽかんとした後。


 無言のままに笑って応えた。

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