♬7 十六夜が明ける頃
ここに来てはじめの十五夜が過ぎた。じりじりと遅めに上った
私は早くも目覚めていた。
露樹と私は毎朝その恩恵を受けている。
今日は見慣れたその光景が始まるまでに、まだ暫く時間がある。
しばらく休筆していたものの、ここでの暮らしに馴染んできたこともあって、最近徐々に言葉を紡ぎ始めた。早朝の清々しい気分のままに執筆するのが心地よいと気づいて、食堂での仕事が始まる前に窓際の机に向かう。いつの間にか起き出すのが早くなり、今では夜明け前から活動を始めるようになった。
私がペンネームを〈
一体何がちょうど良いのか分からないし、どちらかというと私には日陰の方がしっくりくる気がするけれど。
本当にここは奈良の都なのだろうか。
不可思議な現象からそんな風に曖昧にしか捉えることができないこの場所を異都奈良と呼ぶようになって、もしかすると
いや、現実の中で今まで見ようとしていなかった領域と言うべきか。
例えば金剛力士像の存在は知っていたが、彼らがアイドルとして芸能活動に勤しんでいるとは思ってもみなかった。なんだ夢だったのかと朝ほっとすれば、実際にそれが起こることもある。
むしろ今まで現実だと捉えてきた光景の方が、都合良く切り取って解釈したフィクションだったのではないかとさえ感じるのだ。
ともかく私自身は『今、ここに居る』と感じている。ならば、これが現実であると解釈するほかない。現実は小説より奇なりとはこのことなのか。それが通説ならば、意外と多くの人が
私がかつて知っていたようなドラマが繰り広げられる世界こそ、
食べることを楽しむ。それこそ生きることを楽しむことだと露樹が教えてくれたからかもしれない。
ふとした思いつきながら、幾らか書き散らしていたショートショートを気分転換も兼ねて纏めてみることにした。
少し改稿して、以前から挑戦したかった連作短編や群像劇のような形に仕上げたいという気持ちもあるのだけれど、果たしてどうなるのやら。
こんな風に創作活動に打ち込めるのは、やはり衣食住の不安がないからだ。
ふと窓の外に目をやると産みたて卵が転がっていくのが見えた。露樹のだし巻き卵が頭を
腹が減ってはなんとやらだ。
一つ目の話を書き終えたところで万年筆を置いて、部屋を後にした。
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