第4話 初の芸獣
「なあ、『芸』って具体的になんなの?」
シリウスとともに森を抜け、岩肌の小高い丘を登っている途中、いつまでも説明をしてくれないシリウスにしびれを切らして聞いてみた。
すると前を歩くシリウスが振り返り、爽やかな笑顔で答えた。
『ちょうどいいタイミング。ほら、芸獣だよ』
向こうには茶色の毛で、獰猛そうな赤い目をしたネズミがいた。
ネズミといっても、村で見た犬と同じくらいの大きさだ。
「うそ、あれが??あれが人殺すのか?」
よくわからないけど…
そこまで強くもなさそう
『あのネズミの芸獣はそこまで強くないし被害も多くないかな。けど普通に殺される人はいるよ』
よし、やってみよう。
なんかいけそうな気がする。
自分で作った長剣を構える。
構えたはいいが……どうしよう?
突っ込んでみていいのか…?
向こうから近寄るのを待つのかいいか?
どうすればいいのかわからずシリウスの方を見ると、シリウスは岩の上に腰を下ろして水を飲んでいた。
ええ?!指導とか無し?!
「おいシリウス!こっからどうすればいいんだよ!」
シリウスに向かって叫ぶと、シリウスはすっと指を前に向けて答えた。
『前見てないと死ぬよ』
・・・やばい!!!!!!!
急いでネズミの方を向くと、すでにネズミはこちらに走ってきており、目前に迫っていた。剣を構え直した時、ネズミのいる方向から体が吹き上がるくらいの風が巻き起こった。
地面から足が離れ体勢を大きく崩す。
けれどもネズミは速度を変えず自分に走ってきていた。
そして針のような鋭い歯が何本も生えている口を大きく開けて差し迫ってきた。
「うわあああああ!!こんな牙持ってるなんて知らねえよ!!!」
無我夢中で剣をネズミの口にあてて動きを抑えるが、いくつかの歯が自分の腕をかすめて血が出る。
まじかよ!
こんなん全然人死ぬだろ!!
弱いほうでこれかよ!
「シリウス!どうすればいいー??!!」
ネズミを見続けたまま、後方にいるはずのシリウスに大声で問いかける。
『そのまま頑張ってみたらいいと思うー!』
「はい?!今もうピンチなんですけど!??」
『えー大丈夫大丈夫。今休んでるんだから続けててよぉ…』
シリウスが面倒そうに答える声が聞こえた。
あいつ…!!本当に許さん…!!
けどまじどうしよう。
この牙えげつないしな…
けど……見慣れてきたな。
大口を開けてこちらを向いているネズミを剣で抑えながら思った。
ちっ。こいつを燃やせれば・・・
その様子を少し想像した。
すると身体の中が少しすっきりするような、空腹になるような感覚が襲った。
そして…剣から炎が上がった。
え、、、燃えた?!!!剣大丈夫?!
そんなことを思っていると、炎は大きく燃え、ネズミを包みこんだ。
「ギキィィィィィ!!!!」
ネズミが大きく鳴き、俺から遠のく。
ネズミの身体の周りに風が巻き起こるが、それは火を燃え広げる一方で・・・
結局、
そこには黒焦げになったネズミが残るのみとなった。
『あ~あ、結局最後自分の芸で焦げちゃったね。……これじゃ食べられないな』
シリウスは岩からひらりと飛び降りると自分の隣に立ってぶーぶー言いだした。
「なんで助けてくれないんだよ!!」
ちょっと…
いやけっこう泣きそうになったぞ!
なんて言えるはずもないが、文句は言わせてもらった。
『でもほら。さっき君が出した炎が「芸」だよ。何かが起きたでしょう?』
「・・・やっぱあれがそうなのか。」
『うんうん。実際説明してもよくわからないでしょ?けど感じ方さえわかればもう大丈夫。というか君は常に芸を出してたんだけどね』
え?そんなことないけど?
言っていることがよくわからなくてシリウスの方をじっと見る。
『君は鍛冶をしている時、知らず知らずのうちに火の加減を操ってたんだよ。最初に火を付けたらその後ずっと適切な温度調整できてなかった?』
え、まって。
言われてみればそうかも。
え?あれって芸なの?
「待って待って、でもその時とは感覚がちょっと違うぞ?」
『今回は、「火を出す」っていう大変な作業が加わったからいつもと感じ方が違ったんだと思うよ』
「そうだったのか…けど、じゃあ俺……できたんだ!」
火を出すなんて凄い事を今までできるはずもないと思ってたから、嬉しくて顔がにやける。
しかし、シリウスは黄金の瞳はそのままに、美しく口角だけを上げて答えた。
『何言ってる?このネズミ食べられたのに燃やすって何?氷とか風とかもっと他にあったよね?しかも別の種類のネズミには牙に毒があるんだよ?それで身体動かなくなったらどうしてたんだ?それに戦い方も知らないくせに目を離して最初風に当たって…どんだけ人を待たせるんだ?』
え、待って。もっと他にって何…?
毒あるやつとか知らないし…ええぇ…
この人・・・スパルタだ・・・!!
「……あ、はい。すいません」
言い返しても絶対得にならないってわかったので素直に謝罪することにした。
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