第2話 ゴウは、学習計画を立てた② 目次をナメんな

 ゴウが購入したテキストは、4分冊+過去問集である。


 テキストの内容を順にみていくと、


【第1巻】貸金業法および関連法令

【第2巻】貸付けおよび貸し付けに付随する取引に関する法令および実務

【第3巻】資金需要者等の保護と財務および会計

【第4巻】貸金業務取扱主任者資格試験法令集


 となっていた。


 どうやら、試験問題の出題分野・出題の順にシリーズ化したもののようだ。

 ちなみに第4巻は法令集なので、テキストというよりは資料である。


「ああっ! 第4巻とか、要らなくね?」


 実はテキストを購入するさい、ゴウがパラパラと見たのは第1巻だけであった。

 そしてオトナ買いの要領で、内容も確認せずに本棚に並んでいた残りの3冊を鷲掴みしていた。


 もしその場で全て巻の内容を確認していたら、ゴウは第4巻を購入しなかっただろう……。


 しかし、これが僥倖となるのだ。

 もっともゴウがそれを感じるのは、もう少し先だ。


「まぁ、いいか。まずは、目次をしっかり押さえないとな。コレが地味に重要なんだよな」


 ゴウは、まず【第1巻】の目次を確認する。


 第1巻は、全5章で構成されている。


 第1章 貸金業法の目的と用語の定義

 第2章 貸金業の適正化

 第3章 過剰貸付けの抑制

 第4章 行政処分および罰則の強化

 第5章 金利体系の適正化


 総頁数は240頁程度。


 ここで、ゴウが目次を確認したのは二つの意味がある。


 ひとつ目は、テキスト全体の量がどの程度か?

 すなわち総ページ数。


 ふたつ目は、なにが、どのような順番で書かれているか?

 すなわち「体系」。

 全体像である。


 テキストの総ページ数は、読了までの時間を予想・検討するのに必要だ。

 学習計画を立てるうえでは、必ず確認するものだろう。


 では、「体系」は?

 なぜ、「体系」を確認する必要があるのか?


 法律学に限らず多くの専門分野においては、新領域の分野でない限り、知識や考え方が「体系」立てられている。


 とくに法律学においては、「体系」が問題を処理していく道筋あるいは手順になっているのだ。


 この「体系」を知りたければ、目次を見ればよい。

 目次の並びが、「体系」なのだ。


 いいかえれば、目次の順番がそのまま法律の問題の解答を得る道筋になっている。

 ある問題を前にしたとき、目次の順番どおりに検討していけば、原則としてどのような解決になるかが判るということだ。


 この「体系」がしっかり頭に入っていれば、多肢選択式の法律系資格試験の問題は「計算問題」のように解答できるようになる。


 TVに登場する弁護士が、法律の問題にスラスラ解答できるのは、この「体系」が頭に入っているからだ。

 法律の条文が、すべて頭の中に入っているからではない。


 むしろ脳内に「法律演算アプリ」が、インストールされているイメージだ。


 こんな都市伝説を聞いたことはないだろうか?


『司法試験に合格するには、六法全書を丸暗記していなければならない』


 あくまで都市伝説である。

 もう一度言おう。

 都市伝説である。


 そして断言しよう。


 六法全書を丸暗記している裁判官・検察官・弁護士などいない。


 ……たぶん。


 六法全書の丸暗記を達成した人物として、私が記憶しているのはひとりだけだ。


 萬田〇次郎。


 言わずと知れた?大阪ミナミの闇金業者である。


 それはさておき、「体系」(全体像)を知ることの重要性はほかにもある。


「体系」(全体像)知ることで、効率的に勉強できるということだ。


 これは法律の勉強に限らないが、始めから順番に丁寧に勉強しようとすると挫折しやすい。

 勉強している間に、いまどこを勉強しているのか、なにをしているのか定かでなくなり、やがて自分さえも見失う。

 そして「自分探しの旅」に出てしまう。

 自分は「ここにいる」のに。

 終わりが見えないので、とても憂鬱になるのだ。


 しかし、ざっくり「体系」(全体像)をつかんでから少しづつ細かい知識を身に着けていくと、効率的に勉強できる。


 絵を描くとき、道順を覚えるときをイメージして欲しい。


 たとえば人物画を描くとき、いきなり髪の毛の一本一本から描き始める人は多分いない。最初に「アタリ」を取る筈だ。

 道順を覚えるときでも、ポイントになる「大通り」や「建物」をおさえたりするが、道中で目に入る建物をひとつひとつ覚える人はあまりいないだろう。


 ところで、なぜゴウが「体系」(全体像)の大切さを知っていたかというと、法科大学院へ進学した友人のおかげである。


 かつて宅地建物取引士の勉強をしていたとき、その友人に教えてもらったのだ。


 ―――ゴウ、「目次」をナメんな。

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