第1章 全体像をつかめⅠ
第1話 ゴウは、学習計画を立てた①
翌朝、ゴウは、ふて寝から覚めた。
そして、昼頃までゴロゴロした。
(テキストまで買ったのに、実は受験申込期間が終わっているとか、国家ぐるみの陰謀に違いねー)
などとアホな被害妄想をしているうちに、昼になったのだ。
受験申込期間が過ぎてしまったのは、そうやってゴロゴロぶらぶらしていたことが原因なのだが。
そんなことは、棚のはるか高みに上げている。
ベッドから出てダイニングへ向かう。
テーブルの上に、母親が作り置きしてくれた昼食があった。
電子レンジで温めて、もそもそと食べ始める。
(しかし、どうするかな?)
もきゅもきゅと咀嚼しながら、今後のことを考え始めた。
(とりあえず、試験受けるまでの計画でも立てるか……)
昼食を食べ終わると、自分の部屋へ戻って買ってきたテキストをぱらぱらと見た。
「11月に試験が終わるから、それ過ぎたらこのテキストも無駄になっちまうな…」
独り部屋で愚痴りながら、テキストの奥付を見たときだった。
ゴウは、奥付に記載されている発行日を凝視した。
「は? 来年度版のテキストが出るの、5月下旬じゃねーか!?」
そう。
ゴウが購入したテキストの奥付には、発行日が5月下旬と記載されていた。
つまり次年度版が発売されるのは、来年の5月下旬ということになる。
ここで、ゴウの前にふたつの選択肢が出現した。
【選択肢①】
次年度版のテキストが出る来年5月を待って、次年度版テキストを購入したら試験勉強を開始する。
【選択肢②】
とりあえず、昨日購入したテキストで勉強を始める。
「べつに、このテキストで勉強を始めても問題なくね?」
ゴウは【選択肢②】を選んだ。
【選択肢①】は、結局のところ、来年5月までぶらぶらするに等しい。
それは時間の無駄である。
【選択肢②】には、リスクがある。
それは、試験勉強期間中に改正された法律が施行された場合である。
ここで、貸金業務取扱主任者試験の出題範囲を確認してみよう。
貸金業協会のサイトで、ホーム資格試験の受験→試験科目及び出題範囲→出題根拠となる法令の基準日の順にみていくと、つぎのような記載を見つけることができる。
『出題に係る法令等については、令和2年4月1日において施行されている法令等とします。ただし、大規模災害による被災者、新型コロナウイルス感染症の患者等を対象とした法令等に基づく時限措置(特例措置)については、出題に係る法令等から除きます。「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」及び「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)」が令和2年4月1日に施行されています。民法等については、これらの法律による改正後の法令等に基づいた出題となります。』(「日本貸金業協会ホームページ」https://www.j-fsa.or.jp/chief/qualifying_exam/item_range/standard_day.php)
つまり、試験実施年度の4月1日までに施行された法律であれば出題の対象となる。
ちなみに「施行」というのは、成立した法律を発効させることだ。
法律が改正されても、すぐに法律としての効力が生じるワケではない。
法律には本体となる各条文のほかに、「附則」という法律の本体となる規定の後ろに置かれるものがある。
この部分では「この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」というカンジで施行期日が定められる。
その期日が到来するまで、法律としての効力は生じない。
上記、貸金業協会ホームページの記述にもあるが、平成29年に改正された民法は、平成30年に公布され令和2年4月1日に施行された。
このように法律が改正されても、通常は一定の期間を置いてから施行される。
直ちに施行しないで一定期間を置くのは、一般国民への周知という観点からだ。
すると試験勉強している間に改正法が施行された場合、その情報を知らないと試験本番で大変なことになる。
ヘタすると、既に存在しない条文の知識で解答してしまう可能性があるからだ。
逆に新法に関する問題は、まったく意味不明ということになりかねない。
ゴウは、どうするつもりだろうか?
「とりあえずこのテキストで勉強して、来年5月に新しいテキストが出たらそれを買えばいいんじゃね?」
七転び八起き? 意外に冷静なゴウであった。
最初に転んだ原因は、アレだが……。
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