幕間 闇に潜む者達の胎動

 コツコツと闇夜の中で靴音が響く――リブラ・クロニクルの地下広間に《赤眼の商人レッド・バイヤー》は静かに足を踏み入れた。暗がりの中でローブの男を中心に幾人が集まり、赤眼の商人からの報告を待っていた。

「赤眼の商人よ……首尾はどうだ?」

「広報の方は順調に進んだ――かと思います。亡者の危険性はギルドに伝わりましたし、クロニクルもいよいよ無視できなくなるかと……そうですよね?ゾル・アレフ様」

 ローブの男――ゾル・アレフは熟考し、静かに赤眼の商人に告げる。

「よろしい……では、引き続き亡者の伝播と広報は赤眼の商人、お前に任せることにする」

「分かりました、では命令通りに……」

 大方、計画通りに運んだ――そう確信した商人は広間の出口へ歩き始める。


「ちょっと待ちなさい、まだ報告していないことがあるでしょう?」

 だがしかし、見慣れた人物に呼び止められた。『氷雪の零姫』『皇女殿下』――そう揶揄される彼女は共に行動にするヴァレリアと商人の前に立ち塞がっていた。

「あなた様は……アナスタシアではありませんか。皇女殿下たるあなたがこのような場所に一体何用でしょうか?僕が何か報告し忘れてた……と?そんなことは――」

「貴様……っ!姫を愚弄するつもりかっ!!」

 挑発的な態度を取るが、アナスタシアは殺意むき出しのヴァレリアをそっと静止し話を続ける。

「とぼけないで頂戴……黒神虚の側に居て、過去の剣士を圧倒したあの子――何者なの?間近であの子を見ていたんでしょう?」

 誤魔化せなかった――内心、舌打ちをしながら商人は渋々『彼女』の報告を行う。ゾル・アレフ含め全員が驚いた表情をしていたが、次第にどこか納得していった。

木偶人形ゴーレムとはいえ、過去の英雄の力を宿した兵士を圧倒するか――ふむ……我らが主より、異界から迷い込んだ少女についての話を聞いていたが、よもやこれほどの力を有していようとは――」

には遅れは取らない――故に報告不要と判断したのです。もし、今後の計画に支障をきたすようならば責任を持って……殺します」

 返答に納得したのか、ゾル・アレフはそれ以上追求をせず、広間に集まった人間に向かって宣言する。


「さて……亡者はこの世界にとって驚異として認識されていくだろう。我らが主が打ち立てた計画も次の段階へ移行する!ラプラスの塔の破壊、禁書庫からの伝承本の強奪をもって、黒神虚が所持しているを奪う―――そして、世界を……変えるぞ」



「――義姉さん、どうしたの?」

 広間から出た先で商人を待っていたのは義姉だった。顔色が優れない商人を心配していたが、何事もないと添えられた手を振り払う。

「私はお前が心配だよ……そうまでして虚に固執する事はないだろうに」

「……僕はただ、成したいようにしているだけだよ――だから……見ていてくれ」

 ――商人は何も語らぬまま、再び闇の中へ消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

輪廻を断ち切る者 サクヤ大佐 @sakuya13yoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ