第6話 ビビッてますがなにか?

「なんだおまえ……悪魔のくせに、俺達にビビッてんのか?」

 はぁ?!ビビッてねーし!!

 内心、憤りながらも、僕の口から出た言葉は

「ビビッてますがなにか?僕、こう見えて魔界きっての最弱悪魔なんです。ええ、それはもう下級悪魔にも勝てないくらい……だから、強い力をお持ちのあなた方にビビるのは当然の心理ではないでしょうか」

 だった。内心とは裏腹に、その口調はやけに冷静だったがとても惨めだった。

 言ってやった。自分で言うのも恥ずかしいことだが、これを聞かされた相手はもっと恥ずかしく思う筈だ。

 これで彼らは戦意を喪失する。そうして僕は、戦わずして勝利するのだ。捨て身の攻略法である。

「おまえ……マジか……」

 僕の捨て身の作戦が効いたのか、濃紺のマントを羽織った青年が呆れるあまり言葉を失った。白マントを羽織った青年にいたっては、なんとも情けないと言いたげな表情で頭を抱える始末である。

「ロビンの使い魔と知って身構えたが......どうやら、僕らが思っているのと違ったようだ。したがって、僕らはもう、おまえに手はださない。後の判断は、彼女に託すことにしよう」

 白マントを羽織った青年の右隣に、精悍せいかんな面持ちの女戦士が佇んだ。百合の紋章が金の糸で刺繍された、横長の、銀白色の旗を携えて。

 この人は……もしかして!

 しばし、女戦士を見詰めていた僕ははっとした。プラチナの鎧を着けた戦闘服に身を包む、耳にかかるくらいの、短い金髪の美女戦士。凜々しい青色の目でまっすぐに僕を見据えている。彼女こそが話に聞く神使いなのだろう。

「なんで……なんであなたがここに?!」

悪魔あしきものを封印し、滅する。それが、神使いの使命だ。その使命のもとに、私はここにいる」

 もう終わった。凜然たる神使いの言葉に、顔面蒼白になった僕の胸に絶望の文字が刻まれる。僕はここで封印されるんだ。面前にいる彼女の手で。だったら……

「だったらせめて……ロビン様に、会わせてくれないか?」

 絶望の底から、僅かばかりの希望の光が射した僕は、弱々しく微笑みながら哀願した。

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